アスクル運営の個人向け通販事業「LOHACO」が提供する、生活者起点のデザインを施した、企業コラボ商品がいま注目を集めている。同社CMOの木村美代子氏によると、成功の背景は同社が持つ「共創」の精神があるのだという。
近頃よく耳にする「共創」という言葉。実践している企業はどれだけいるだろうか。
BtoB向けに、オフィス用品や文具のカタログ通販を展開するアスクル。同社のBtoC向けeコマース事業、「LOHACO」で限定販売されている、「生活者起点のデザイン」を施した企業コラボ商品が、30代〜40代の「働くママ層」から大きな反響を集めている。
従来、日用品、消費財の商品デザインは、スーパーマーケットや量販店での販売を想定し、「いかに店頭で目立つか」が重要視されてきた。しかし同社は、消費者の生活になじむような、目立たないデザインを打ち出すことで、より頻繁な商品利用を誘発することに成功した。
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「『暮らしになじむデザイン』は、サプライヤーやパートナー企業との共創、『LOHACO ECマーケティングラボ(TOP画像)』で生まれた」。こう述べるのは、アスクルでCMOを務める木村美代子氏だ。同氏はこの9月に開催された、「DIGIDAY BRAND LEADERS」に登壇。「目立たないから売れる」企業コラボ商品の成功について語った。

アスクルCMOを務める、木村美代子氏
成功の鍵は「共創」の精神
立ち上げ当初から、生活に必要な日用品を広く取り扱っていたLOHACO。現在は「働く女性」に向けた総合ECサイトとして、お米や飲料、生活消耗紙などの生活用品はもちろんのこと化粧品やファッション、アウトドア、医療品の人気も高く、都心部に住む30代〜40代の「はたらくママ」層から強い支持を得ているのが特徴だ。「都心部に住むママ層は、車の所有数が少なかったり、周辺にホームセンターが少ないこともあり、日用品を購入する際、eコマースを積極的に利用する傾向がある」と木村氏は語る。
そんなLOHACOのコアコンピタンス、は「共創」だ。従来、流通業は消費者とブランドのあいだに立ちはだかる存在だったが、LOHACOは「消費者とブランド企業を繋ぐプラットフォーム」を目指し、「Win Win Win」を実現していくという。そのビジョンを象徴するのが、2014年よりスタートした「LOHACO ECマーケティングラボ」だ。
LOHACOのサプライヤーやパートナー企業を巻き込んで、ビッグデータのマーケティングへの活用の研究と、スピーディーな実践を追求することを目的とするこの取り組み。現在、日用品メーカーを中心に130社(うちサプライヤー企業:125社、フレンドシップパートナー:5社)が参加しているという。
参加企業は自由にアスクル本社にある研究拠点に出入りし、LOHACOに蓄積されたビッグデータ(個人情報および個人を特定・再識別化できる情報は含まれていない)を元に、LOHACO内で検証することで、自社におけるECマーケティングの改善に活かすことができる。

アスクル社内の研究拠点
通常の2.8倍の売上を記録
「大量販売、大量消費のいわゆる『マス』の時代はもう終わりに近づいている。これからは、パーソナライズされた商品の中量販売が主流になるだろう」と木村氏。「暮らしになじむデザイン」は、ラボでの取り組みのなかで生まれたこうした仮説をきっかけにスタートしたという。
その企業コラボ商品は、サプライヤー企業がすでに提供している商品に、新たな機能を追加したり、パッケージをリデザインしたもの、さらには新規で0から開発するものなどさまざまだ。木村氏はその例として、消費材メーカーの花王と共同で開発した「ビオレu泡ハンドソープ」の企業コラボバージョンを挙げる。
陶器のような見た目のパッケージは、花王が用意したデザイン案を元に、慶応元年創業の有田焼の窯元である、「徳幸窯」の職人が手がけたもの。細部まで拘り抜いたこの商品、中身は通常と同じであるにも関わらず、LOHACOで通常品の2.8倍の売上を記録したという。
日用品の多くは、家のなかでもあまり人目のつく場所に置かれることはない。普段は決まった場所にしまっておいて、必要なときだけ取り出すといった使い方がほとんだ。しかし「暮らしになじむデザイン」を施した商品は、出しっぱなしにされることが多い。すると使う機会、頻度が増え、売上増加に繋がった」と、木村氏は述べる。

LOHACOオリジナルの「ビオレu泡ハンドソープ」
「 EC第2世代 」におけるNo.1へ
また、これらの企業コラボ商品はLOHACOサイトで販売するだけでなく、年に一度開催されるイベント「LOHACO展」で発表されている。オンラインでは知ることのできない商品の良さを、体験型コンテンツを通して伝えることを目的としたこの取り組みもまた、毎回大きな反響を得ているという。
これらの展開を通じてLOHACOが目指すのは、「EC第2世代におけるNo.1」だ。木村氏によると「第1世代は、書籍・DVDや産直品といった嗜好品を単品買いする消費者(PCで購入が多い)」で、「第2世代は日用品や生活必需品を購入するのにECを使っている消費者」を意味するという。スマートフォンが普及し、オンラインにおける可処分時間が増えたことや、女性の社会進出・共働きで買い物の時間が取れないこと、物流の発達などにより、こうした第2世代の消費者は、今後益々増えていくだろう。
アスクルはこうした潮流にいち早く気付き、No.1を獲得するべく、サプライヤーやパートナー企業とさまざまな取り組みを続けてきた。その成果がいま見えはじめている。「今後も我々は、さまざまなサプライヤーやパートナー企業の力を借りて、市場に新たな価値をしっかりと創造するべく、チャレンジを続けるつもりだ」。
Written by Kan Murkakami