スマートフォン、人工知能、仮想現実(AR/VR)とテクノロジーが目まぐるしく変化するなか、ブランドは何を重要とするべきか見失っているのではないか。AWAsiaに登壇した、オースの自称・デジタル預言者であるデイビッド・シング氏のセッションが語った「発明の必要性」とは。グローバル・キーノート講演の要点を紹介する。
「イノベーションじゃない。大事なのは、インベンション(発明)だ」。
「シンギー(Shingy)」の愛称で知られ、「デジタルの『預言者』」を自称するオース(Oath)のデイビッド・シング氏。さまざまなマーケティングやアドテク関連のグローバルカンファレンスに引っ張りだこの彼が、東京ミッドタウンで開催中(2018年5月14日〜17日)のアドバタイジングウィークアジア2018(Advertising Week Asia 2018)に16日、キーノートとして登壇した。
シング氏はデジタルの預言者らしく、新しいテクノロジーが次から次へと生まれるなか、デジタルの世界で何をすべきなのか、ブランド企業は迷子になっていると指摘。いまこそ、ブランドが本来持っているカルチャーやDNAに立ち返り、ストーリーとして伝えるためには、発明が必要なのだと、日本企業に向けてメッセージを送った。
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破壊とは、ビジネスモデルの変革
「コンピュータは無意味だ。コンピュータがくれるのは答えだけだ」と、冒頭でシング氏は、お気に入りの言葉を紹介する。
「どんなにテクノロジーが発達したとしても、肝心なのは、それをどう使うかだ。そして、その判断をするのは人間だ」と、シング氏は続けた。「人々は、人工知能(AI)や拡張・仮想現実(AR/VR)、IoTなど新しいテクノロジーについて知りたがるが、私が重視するのは面白いかどうか(FUN)だ」。
オースが重要としていることはふたつーー『文化(カルチャー)』と『コード』だ。そして、そのあいだにはクリエイティブが存在すると説明する。AppleのiPodを好例に、カルチャーとコードは両方必要であり、人が心地よいと思うテクノロジーとの接触(インタラクション)を実現するには、両者の最適なバランスをとることが重要だと、シング氏は指摘した。
さらに、いま破壊(ディスラプション)という言葉が多く使われるが、多くの人が「ディスラプション=テクノロジー」と勘違いしていると語る。「ディスラプションは、テクノロジーそのものではなく、ビジネスモデルの変革であり、技術はそれを実現するための手段である」。
重要なのは、人間の感情
セッションのなかで、シング氏はさまざま新鋭のテクノロジーを取り上げる。オキュラス(Oculus)のようなVRゴーグル、Apple Watchやフィットビット(Fitbit)のようなウェアラブル、センサーやチップを埋め込んだスーツに見るIoT、さらにハプティックテクノロジー(触覚技術)…。Google HomeやAmazon Echoのようにスクリーンなしで、直接プロダクトと人が繋がるテクノロジーも増えている。
「だが、それがどうした(So What)?」と、同氏は投げかけた。「テクノロジーはたしかに私たちの行動を変革しているが、人間の本質までは変えられない」。人間は、人との接触を求めるものであり、いかに技術が高度化しても、その本質的なニーズまでは変えようがないということだ。
この前提をもとに、ブランドはどうするべきなのか。「この世界は、視覚(Sight)、聴覚(Sound)、そして感情(Emotion)のビジネスだ思っている」と、シング氏は話す。「購買行動の75%を決定するのは感情だ。だから、ブランドは感情やハートに訴えかける」。そして、「ブランドがもたらす素晴らしい体験(エクペリエンス)は、いかなるデジタルのエクペリエンスにも勝る」と伝えた。
ただ、難しいのは、人々はもはや受動的な体験では満足しなくなっていることだ。真に人々を動かす体験を届けるには、素晴らしい体験を生み出し、顧客に発信できるクリエイターやキュレーターを巻き込まなくてはならない点に触れた。
これからは、発明の時代
「これまでのマーケティングの4Pやパーチェスファネルの考え方は古い。いまの時代、鍵なのはシェアしたいと思うコンテンツをどれだけ頻繁に作れるかだ」と、シング氏は指摘する。「リアルタイム・マーケティングの必要はない。それより、『関連性』だ。ブランドが伝えるべきストーリーを、顧客が欲しいときに、欲しい場所で、欲しい方法で届けることだ」。
一方で、コンテンツがあらゆるプラットフォーム上に溢れるなか、ブランドはそのコンテンツのなかで、自社を主張しすぎず、顧客目線で、なぜそのブランドを気にすべきなのか考える必要がある。つまり、ブランドの文化を問い直すということだ。「ブランドのカルチャーを反映することこそが、勝算になる。そして、それを実現する方法が、『発明』だ」と、シング氏は訴えた。
「発明するためには、ハッキングとメーキングが必要。ブランドをハックする。まったく新しい価値観からブランドを捉え直してみると、新しいコンセプトや製品のアイデアが生まれる。たとえば、海外のビール会社は、ビールを飲むときは食事をするときでもあり、新たな食品ブランドを立ち上げたり、ビールの酵素が化粧品に使えると気づくと、これまでの既成概念にとらわれず化粧品ブランドを作っているケースもある。これこそ、発明だ」。
「ブランドの文化に忠実であるストーリーなら、必ず人々の感情を刺激する」。
最後にシング氏は、ハリウッド女優キャサリン・ヘップバーンの「ルールに従うな、楽しみをすべて失うことになる(IF YOU OVEY THE RULES, YOU MISS ALL THE FUN)」という言葉を引用。テクノロジーやデジタルに翻弄される世界でも、とにかく発明を楽しむことを、ブランドマーケターへのメッセージとした。
※DIGIDAY[日本版]は、アドバタイジングウィークアジア2018(Advertising Week Asia 2018:AWAsia 2018)のメディア・パートナーです。
Written by 亀山愛
Photo from shingy.com