第一三共ヘルスケアが運営するオウンドメディア「おれカラ」では、あくまでユーザーファーストなコンテンツ作りを行っている。制約の多い製薬業界において、KPI設定やコンテンツ活用戦略など、オウンドメディアでビジネス貢献していく方策ついて、同社の佐伯佳彦氏とアウトブレイン ジャパン社長の嶋瀬 宏氏に語ってもらった。
オウンドメディアであろうと、いや、オウンドメディアだからこそ、「質」の担保は重要になる。それが、製薬会社関係となれば、なおさらだろう。
第一三共ヘルスケアが2016年2月に運用開始した、30~40代の働く男性向けの健康情報サイト「おれカラ」は、そうした規律を守りながら、潜在顧客に対するブランディングというチャレンジに立ち向かっている。女性向けの美と健康の情報サイト「健康美塾」や、顕在層に向けた病気の原因や対策を紹介する「くすりと健康の情報局」という、ふたつの兄妹サイトと機能を分け、マーケティングファネルを一気通貫するエコシステムを構想しているという。
なかでも、「おれカラ」において特筆すべきは、個々のコンテンツの内容の深さだろう。マンガ「孤独のグルメ」原作者の久住昌之氏やお笑いコンビ・ドランクドラゴンの鈴木拓氏のような著名人を招聘し、製薬会社のオウンドメディアながら、あくまでエンターテインメントでユーザーファーストなコンテンツ作りを行っている。

第一三共ヘルスケアのオウンドメディア「おれカラ」
「調査をしたところ、男性が健康に興味をもちはじめるのは30~40代だった」と語るのは、「おれカラ」を担当している第一三共ヘルスケア株式会社 経営企画部 コーポレートコミュニケーショングループの佐伯佳彦氏。医薬品をよく利用している年代は40〜50代以上というイメージもあるが、「まずは潜在層となる世代に、疾患予防になるような情報を発信したい」と、このオウンドメディアの目的を説明する。
制約の多い製薬業界において、KPIをどのように設定すべきか? コンテンツ活用をどのように戦略立てるべきか? オウンドメディアでビジネス貢献する方策について、国内外のオウンドメディア事例に詳しい、アウトブレイン ジャパン社長の嶋瀬 宏氏とともに語ってもらった。
嶋瀬 宏 氏(以下、嶋瀬):私も「おれカラ」世代のひとりです。なので、とても興味深く拝見させてもらっています。たとえば、「孤独のグルメ」で知られる久住さんのシリーズ。あまり知られていない美味しいお店を紹介してくれるという内容の話題性はもちろん、文章自体、とても惹きつけられるものがありますよね。
佐伯 佳彦 氏(以下、佐伯):ええ。以前ご紹介した、日本橋の立ち食い蕎麦屋さんなど、何度かそのお店の前を通っていましたが、そんなに美味しい蕎麦屋さんとは知りませんでした(笑)。でも、久住さんの手にかかると奥深い内容になって、とても美味しいお店だと伝わるんです。このコーナーは特に、気軽に読めるコンテンツだけあって、多くのユーザーに興味をもっていただけています。それに、自身がSNS拡散してくださる効果もあり、久住さんファンに人気ですね。
嶋瀬:「おれカラ」では、ひとつひとつの記事がしっかり丁寧に作られている印象があります。記事1本あたりの制作期間はどれくらいかけているのでしょうか?
佐伯:ほとんどの記事で企画から公開までだいたい1カ月。健康に関する調査結果を紹介するコンテンツ「おれたちのカラダすべて白書」だけは、およそ2カ月の期間をかけています。比較的、制作期間をかけて丁寧に作っている方だと思います。

「ユーザー本位にオウンドメディアを作った」と佐伯氏
「おれカラ」誕生の背景
嶋瀬:それにしても、製薬会社のオウンドメディアとしては、少し遠い内容のテーマですよね。どのような意図があって、「おれカラ」はスタートしたのですか?
佐伯:「おれカラ」の前身として、かつて「リーマン・コンプレックス」というサイトを運営していました。こちらはマンガを多用して、製品の特徴を紹介するという内容です。ですが、製品ありきとなっていたため自然流入が少なく、集客するにはどうしても運用費とは別に広告費が必要でした。それであれば、製品サイトでいいのではということになり、うまく潜在層にリーチする方法を模索していたんです。
嶋瀬:なるほど。オウンドメディアとして「リーマン・コンプレックス」を企画したものの、機能的には製品のブランドサイトと差別化できていなかったのですね。
佐伯:おっしゃるとおりです。そこで、オーガニックでも集客でき、30〜40代の男性の関心事である、仕事・病気・健康というテーマを用意して、企画したのが「おれカラ」なのです。
嶋瀬:医薬品のターゲットは、もう少し年齢層が高いイメージです。「おれカラ」のターゲットは、なぜ30〜40代の男性なのでしょう?
佐伯:以前、調査をしたところ、男性が健康に興味をもちはじめるのが、その世代だったのです。20代の男性は不摂生をしても健康な方が多い。でも、30代になって健康診断を受けると、メタボリックや脂肪肝になっている方が多くなります。まずは、健康に興味をもちはじめた、その世代の潜在層に興味をもってもらえる、疾患予防に役立つような情報を発信できたらと考えたのです。
ブランディングの重要性
嶋瀬:ところで、病気というのは予想もしないときに症状があらわれます。ということは、カスタマージャーニーを考えると、日頃からのブランド周知が大事ですよね。
佐伯:医薬品というのは、病気になったときにしか、ユーザーとの接点をもちにくいという側面があります。もっと言うと、病気が治ればユーザーの我々の製品への意識は失われてしまいます。そのため、TVCMの活用をはじめ、あらかじめブランディングを図ることは非常に重要です。
嶋瀬:そのデジタル部門を担うのが、「おれカラ」なのですね。
佐伯:ブランディングはTVCMでもしっかり行っていますが、やはり若年層にはリーチしづらくなってきています。これからは、もっとデジタルでつながっていかないといけない。男性向けのブランディングを担う「おれカラ」と女性向けのブランディングを担う「健康美塾」、そして顕在層向けの「くすりと健康の情報局」という3つのオウンドメディアを通して、デジタル上のマーケティングファネルを網羅できればと思っています。
KPIをいかに測るべきか?
嶋瀬:ちなみに、普段から自社製品に触れているユーザーとのタッチポイントとして、オウンドメディアという存在があるのだと思います。御社のオウンドメディアでは、KPIをどのように設定されているのでしょう?

「長いスパンでの導線分析が重要になる」と嶋瀬氏
佐伯:現時点で我々は、アクセス数とオウンドメディアの記事から製品ページへの遷移率をKPIとして見ています。また最近では、「滞在時間」や「読了率」も指標になると考えています。しかし、それだけを見ていたら、ユーザーとのエンゲージを測るうえで、なにか大事な部分を見逃してしまうとも思っています。なにか良いアドバイスはありますか?
嶋瀬:ユーザーがオウンドメディアのコンテンツを読んで、まっさきに製品ページへ進むというケースは決して多くはないと思います。なので、ラストクリックだけではなく、コンテンツのアトリビューションを正確に理解する必要があるのではないでしょうか。
あるタイミングで興味をひかれた記事をひとつ読み、1週間後にまたもうひとつの記事を見て、その2日後に検索をして製品ページにたどり着いた……。というような、長いスパンでの導線を分析していくことが重要になるのと思います。
佐伯:なるほど。ラストのクリック以外のきっかけは何か、ということですね。
嶋瀬:サイトの入口となるコンテンツ、製品理解を深めるためのコンテンツなど、カスタマージャーニーにおいて個々のコンテンツがユーザー心理に与えた影響を可視化。さらにデバイスや滞在時間なども分析し、コンテンツ戦略に活かしていくといいかもしれません。
製品ページへの遷移率だけのKPIだと、どうしても購買チャネルに直結した検索やリターゲティングバナーなど、顕在層をターゲティングしているものがもっとも効果的で、売上に貢献しているように見えるものです。しかし、潜在顧客を増やすには、製品やブランドの認知獲得を含めた全体設計が大切になってくると思います。
佐伯:全体設計は、重要な視点ですね。

嶋瀬氏は、KPIの考え方について、図で説明した
コンテンツの鮮度と活用法
嶋瀬:ところで、オウンドメディアを通じて、ユーザーに届ける情報の「鮮度」については、どうお考えでしょうか?
佐伯:アウトブレインを利用して集客をかけるのは、鮮度が高い、その時期にあわせたユーザーに届けたいテーマの記事ですが、自然流入を見ていると過去の記事を含めて幅広く読まれている状況です。1年前の情報でも「仕事と健康」という普遍的な内容となっていますので、陳腐化していることはほぼ無いと考えています。
嶋瀬:陳腐化しないのは、たとえばどんな記事でしょう?
佐伯:「おれカラ」の「賢者の仕事、賢者の健康」というコーナーでご登場いただいた、脳科学者・澤口俊之さんの記事などです。同氏がテレビに出演されるたびに検索されるのか、アーカイブ記事でありながら、いまでも根強い人気です。
嶋瀬:なるほど。ちなみにアウトブレインの仕組みではCTRとCPCの掛け合わせによる、総合的パフォーマンスでの運用になります。多くの方に興味をもってもらえてCTRが高くなるコンテンツであれば、CPCを抑えることもできます。
佐伯:ユーザーニーズに即した形になっているのですね。
嶋瀬:ええ。なので、アウトブレインを使って集客しているオウンドメディアのなかには、長期間にわたって不動の人気コンテンツが安定して集客している例もあります。コンテンツの鮮度がなくなるものでなければ、過去の記事を含めてキラーコンテンツを模索しながら長期的に運用を行っていただけると、効率のよい集客ができるのではと思います。
佐伯:それも、ひとつの戦略ですね。
アウトブレインのメリット
嶋瀬:ここであらためて、御社でアウトブレインを採用いただいている理由はなんでしょう?
佐伯:弊社ではレコメンドウィジェットを導入し、主に内部回遊向上のために利用しています。記事を読み終わった方に「あなたにはこれがおすすめですよ」とレコメンドして、ほかの記事にも興味をもっていただけますし、情報を探しているユーザーにとって効率的です。
嶋瀬:そうおっしゃっていただけると、うれしいです。レコメンドウィジェットはパブリッシャー向けのサービスになるのですが、最近では企業のオウンドメディアでのご利用も多くなってきています。
佐伯:集客の面では、きちんとアプローチしたい層を増やすことが大事だと思うのですが、アウトブレインを利用した集客の場合は健康や医療が気になっている潜在層を狙ってリーチできます。やはり「なんとなく」で流入してきた人々では、接触効果は決して高くありません。男女といった属性でターゲティングするよりも、そうした興味をもとにした属性が重要だと思っています。
嶋瀬:アルゴリズムによって興味のあるユーザーを連れてこられるという点を評価いただいているということですね。
佐伯:その通りです。いま弊社ではファーストパーティーのデータを使ったDMPの導入をはじめていて、かなり細かなユーザー動向まで数字で追えるようになってきています。たとえば男性向けとして想定していた製品であっても、実際には多くの女性がサイトを閲覧してくれていた、といったインサイトを得ることができるようになった。アウトブレインでも、どんな層のユーザーに届いているのかもっと探っていきたいですね。
嶋瀬:今後はどのようなことに挑戦されていく予定ですか?
佐伯:ドクターの方にさまざまな症状について執筆してもらう展開を今後考えています。テーマを決め、原因・予防・対策など、ユーザーのためになる情報をさらに発信していきたいと思っています。若いうちは健康についてなかなか興味をもたないのですが、疾患について知識があることで予防になることもある。「おれカラ」を通じて知っていただき、予防につなげることで健康で豊かな暮らしを実現してもらいたい。今後、さらに「おれカラ」を広めていければと思います。
製品ありきのコンテンツ施策からユーザーファーストに転換した第一三共ヘルスケアの事例は、今後のオウンドメディアのあるべき姿を象徴している。まずは、デジタル施策全体における位置づけを決め、それに沿って個々のオウンドメディアの目的を定め、ひとつひとつのコンテンツ戦略を練る。そうしたプロセスが大切なのだろう。
▼佐伯佳彦 (左)
第一三共ヘルスケア株式会社 経営企画部 コーポレートコミュニケーショングループ
2000年から9年間営業に携わったのち、2009年に経営企画部コーポレートコミュニケーショングループに異動してWeb業務に従事。コーポレートブランディングとプロダクトブランディングのデジタル全般を担当している。
▼嶋瀬 宏 (右)
アウトブレイン ジャパン株式会社 社長
2001年三菱商事株式会社入社。国内外における新規プロジェクト開発などを担当。同社退職後、新規事業のインキュベーション・コンサルティングを行う株式会社ステラ・ホールディングスを設立。2013年11月よりアウトブレイン ジャパン株式会社の社長に就任し、オンラインパブリッシャーとコンテンツマーケティングを展開するさまざまな企業をサポートしている。
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Written by ワタナベダイスケ
Photo Courtesy of 渡部幸和