コロナ禍によって人々は何カ月も家に閉じこもる生活を続けている。そして、この予期しない在宅時間は、人々の関心をDIYに向けることになった。アート用品小売業者のマイケルズやミシンブランドのブラザーはすでに空前の売り上げを記録し、新規顧客の獲得にも成功。この機会を利用して新たなステージへと進もうとしている。
コロナ禍によって人々は何カ月も家に閉じこもる生活を続けている。そして、この予期しない在宅時間は、人々の関心をDIYに向けることになった。
Googleトレンドを見ると、アメリカにおける「DIY アート(DIY art)」と 「クラフト(crafting)」の検索は、ともにパンデミックの最初の数週間、4月の初めにピークに達し、夏から秋にかけても過去数年よりも高くなっている。
メールマーケティングプラットフォームのクラヴィヨ(Klaviyo)が実施した最新のホリデーショッピング調査によると、プレゼントの候補に挙がったさまざまなカテゴリーのなかで特に目立ったのは、「おもちゃと趣味」のカテゴリーだ。回答した買い物客の40%が、趣味やDIYの分野でプレゼントをする予定だと答えた。
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手芸関連企業は空前の好調
DIY関連業界の小売業者やブランドは、このトレンドを最大限利用している。米国最大のアート用品小売業者のひとつであるマイケルズ(Michaels)は、手芸関連の好調な売上が継続していることを示唆している。同社の最新の決算報告によると、純売上高が11.1%増え、11億ドル(約1140億円)となった。3月に店舗が閉鎖された際には打撃を受けたものの、オンライン販売が353%増加したおかげで、同社は回復を見せている。
11月初めの決算発表の会見で、マイケルズのCEOであるアシュリー・ブキャナン氏は同社が「店舗における需要と動向に大変満足している」と述べた。彼女はさらに、同社の最近の成功要因として、いくつかの消費者行動に注目し、次のように語っている。「新型コロナウイルスは、自宅で過ごす時間の増加やクリエイティブなアイテムを揃えたアウトレットの必要性などライフスタイルの変化を引き起こし、我々のビジネスに強い追い風を生んでいると考えている」。
DIYブームの恩恵を受けているもうひとつの企業は、ミシンで知られるブラザー(Brother)だ。これまでのところ、同社の2020年上半期の売上は対前年比で170%増加している。2020年の第1四半期と第2四半期の間に手芸部門の売上は最大66%増加した。
ブラザーの製品マーケティングマネージャーであるアメリア・ディーマー氏によると、同社は小規模な家族経営の店舗などの第3者ディーラーと提携しており、ミシンの売上も第1四半期に30%増加したという。同氏は、既存の顧客が古いミシンの買い替えをおこなったことに加え、一部には副業として本格的なマスク製造を始める人が増えたことなども要因だとしている。
こうした需要の増加に伴い、同社は9月に最新の電子裁断機を発売した。ディーマー氏によると、家庭での手芸・工芸プロジェクトの簡素化を狙ったこの新製品は、空前のDIYブームの波に乗り、若い新規顧客をeコマース経由で獲得することが目的だという。「DIYの人気が再び戻って、新しい世代に受け入れられてるのは嬉しい」と、彼女は述べた。
衣料品チェーンやAmazonセラーにも影響
手芸人気とニーズの高まりによって、ソーシャルメディアにおけるユーザー発信のコンテンツも増え、結果としてブラザーのマーケティング戦略の助けとなっている。同社はまた、インスタグラムやFacebookライブでミシンや裁断機のチュートリアル動画を配信しているインフルエンサーたちを起用し、追い風に乗ろうとしている。
手芸・工芸分野と近いブランドたちもまた、この新しいオーディエンスに対応するため、そして店舗閉鎖によって失われた売り上げを回収するために方針転換を始めた。たとえば、昨夏にeコマースへ移行した衣料品チェーン店のジョアン(Joann)では、マスク縫製材料の需要が300%から400%増加した。フォックス・ビジネス(Fox Business)によると、若いDIY愛好家たちや個人用防護装備(PPE)のための用具・素材を求める病院といった顧客が同社の命綱となったという。
DIYブームは、Amazonのセラーを含む中小規模の独立系ブランドの後押しにもつながっている。手芸・工芸キットのブランドであるマーク・アンド・グロース(Mark and Growth)は、前年比で100%の成長を見せていると、ファウンダーのウィル・ジョンストン氏は米DGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)の取材に語った。2008年に設立された同社は、ホリデーシーズンの繁忙期にもこの急上昇が続くと予想している。さらに、卸売とドロップシッピング事業も60%成長したという。
DIYは新たな習慣として定着するか
消費者金融のバンクレート(Bankrate)でシニア経済アナリストを務めるマーク・ハムリック氏によると、パンデミックが始まって以来、人々は競って「自分で自分にエンターテインメントを提供しようとしている」という。「Netflixで映画やテレビを見て楽しむのにも限界がある」とマーク氏は述べた。家族がより多くの時間をともに過ごすようになれば、こうした体験型の活動への需要も増えるだろうと、同氏は語る。編み物や裁縫などの趣味には懐かしさもあり、連日続く暗いニュースから抜け出すのにも役立つ。
「マイケルズのような趣味に特化した企業は今、非常に有利な状況にいる」とハムリック氏は言う。今後彼らがデリバリーや店舗ピックアップといったオプションを実装し続ければ、この状況を最大限活用できるだろう。
「アメリカ人の多くは以前の習慣に完全に戻ることは望んでいない。DIYの復権は一過性のブームではなく、(事態が収束しても)今後も続くだろう」とハムリック氏は言う。「人々は新しい習慣に時間とお金とやる気を注いでいる。すぐにやめるつもりはなく、来年も継続する可能性が高い」。
[原文:‘In a sweet spot right now’: Legacy crafting retailers and brands are seeing new signs of life]
Gabriela Barkho(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)