スーパーボウル CMは相変わらず、間違った方向に進んでる:失業中コピーライター(56歳)の告白

このコラムの著者、マーク・ダフィ(56)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していた業界通コピーライターだが、2013年に解雇を通達された。趣味のホッケーは結構うまい。

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たった30秒のコマーシャルに500万ドル以上を費やすって…。スーパーボウルのCMのことだ。なぜそれほどの価値があるのか。

最初にその背景を語っておきたい。1984年のスーパーボウルでAppleが例の「1984」CMを流して業界の伝説となるまでは、この「スーパーボウルのための特別CM」という現象は存在していなかった。当然、いいね!やシェア、エンゲージメントといったものが重要になる前の話だ。AppleのこのCMは「バイラル」となった。何週間にもわたって世界中でニュースで取り上げられたのだ。

CM「1984」はプロダクトを一切見せなかった。CMテストでも散々な結果となり、Appleの役員会は大反対(しかし、スティーブ・ジョブスは非常に気に入った)。このCMが放送されたのは一度だけだが、それはその後3カ月に渡って、ダイレクトに1億5000万ドル相当のMacコンピュータの売り上げにつながった。これがマーケターたちの注目を集めたのだ。

そして、国民的大イベントであるスーパーボウルで特別に制作したCMを流すとうう伝統が生まれた。しかし、昨年のスーパーボウル、いや過去10年分のCMで何か記憶に残る広告があっただろうか。そう考えるとひとつだけ頭に浮かぶ広告がある。それが2016年のマウンテン・デュー(Mountain Dew)による「パピーモンキーベイビー(Puppymonkeybaby)」だ。決して内容が素晴らしかったからではない。むしろびっくりしてしまうほど下らなかったからだ。誰か広告のメッセージを覚えている人がいるだろうか(三つの素晴らしい物=子犬、猿、赤ちゃんが一つになった、というメッセージだ)? もしくはドリンクの名前を覚えている人がいるだろうか? 正直に考えて欲しい。

2018年のスーパーボウル広告スポットを眺めてみると、「パピーモンキーベイビー」にも負ける広告ばかりだ。ここ数年は同じクリエイティブ、戦略的な失敗が繰り返されている。

有名人の無意味な起用は広告として機能しない

何年にもわたり、このことを証明する調査結果は出されてきた。素早くソーシャル上での話題を作りたいから有名人を広告に起用をしても、それは売り上げの増加にはつながらない。人気コメディアンのビル・ヘイダーがプリングルスのチップスを積み上げている姿を見ても、誰もプリングルスを買いたいとは思わないわけだ。ましてや大して笑えない仕上がりになっていればなおさらだ。こんな悲惨な広告を出すブランドなら、「ただ食べるだけじゃない(You Don’t Just Eat ‘Em.)」という悲惨なタグラインを世に出してしまうのも当然か(食べるだけに決まっている)。

スーパーボウルに先駆けてリリースされたスポットのうち半分ほどは有名人を中心に据えたものだ。少なくともダニー・デビートが宣伝しているM&Mのような(不健康な)体型をしている点は良かったのかもしれない(だからといって売り上げにはつながらないが)。

「社会的意義」をフォーカスした広告は「意義」がブランドに直接関係がなければ効果はない

バドワイザー(Budweiser)は、支援を必要としている地域にビールではなく水を支給するため、彼らの製造ラインの一部を活用したと高らかに謳っている。PRとしては良いのかもしれないが売り上げには一切つながらないだろう。同じくアンハイザー・ブッシュ・インベブ(AB InBev)のブランドであるステラ・アルトワ(Stella Artois)もまた、マット・デイモンを使って、水を支援してます何たらかんたら、といったコマーシャルをしている。最近のマット・デイモンは、発言に対して何度も批判を浴びており、起用のタイミングも良くない。

クラフト(Kraft)は「偉大な家族」キャンペーンを継続しており、そこでは消費者たちが送ってきた「リアルな」家族の写真やビデオを使った。そこでは「リアルな」両親たちが「自分は親としてパーフェクトではない」と悲しむと、子供たちが「お父さん/お母さんはパーフェクトだよ」と反応する。心が温まるのは良いとして、それとクラフトのプロダクトがどう関係があるのか。100年以上の歴史を持つクラフトは、ほかのブランドと同様、不健康な食べ物をテレビを通して宣伝することで、アメリカの「パーフェクトな家族像」に刻み込んできたことは覚えておきたい。そういう意味での関連性ならあると言える。

社会的な「意義」を巧みにCMに使った例を知りたければ、オグルビー・トロント(Ogilvy Toronto)によるオムツ製品「ハギーズ(Huggies)」のCMを見て欲しい。

広告ではこれまで成功を収めてきているスキットルズ(Skittles:エージェンシー、DDBシカゴ)ですら、今年は意味がなく、ぎこちない「スーパーボウルのCMを今年はたったひとりのために作っています」というメッセージに挑戦して失敗している。彼らが以前発表した、ぶっ飛んで面白く、かつ売上にもつながった「空飛ぶブレンダー」CMには敵わないだろう(TBWA/Chiat/Day)。

では、良いスーパーボウルのCMとは何なのか。いま、パッと浮かぶ例をふたつ紹介したい。

1999年:求人サイトMonster.com「大人になったら」

子どもたちがカメラに向かって「大人になったら感謝されない存在になりたい」「イエスマンになりたい」「早期退職に追い込まれたい」と、悲観的な雇用事情を語る、このビデオ。これは多くの人の心をえぐり、ひと晩で大人気の求人サイトとなった。エージェンシーはボストンのマレンロウ(MullenLowe)

1997年:タバスコ「蚊」

一切のナレーションなし、制作費もミニマル、そして忘れられないプロダクトのデモンストレーション(タバスコの銘柄をわざとらしく見せているところだけは気になるが、仕方ない。クライアントはあくまでもクライアントなのだ)。エージェンシーはダラスのDDBニードハム。

これらのCMがスーパーボウルの観戦中に流れるものとして素晴らしい理由は単純だ。シンプルであり賢いということ。視聴者の知性を侮辱していない。クリエイティブな緊張感を作っており、かつ大きなインパクトを持っている。そして何よりもプロダクトのセールスになっているからだ。

ソーシャルメディアで大きな反応が得られるスーパーボウルのCMを作りたいなら、シンプルかつ大きな効果のあるアイディアを思いつくことだ。

【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら

Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)