ニューヨークで20年以上の経験をもつベテラン広告マン、マーク・ダフィ氏(54歳)がつづる、広告業界への濃厚なメッセージがこもった辛口エッセイ。これを読めば米広告業界の裏側がよく見えてくる? 連載第6回となる今回は、ドローンを利用した各国の広告について。
ーー近々Facebookは自社のドローンをまるで飛行機のように飛ばし、人里離れた地にインターネットの恩恵をもたらす(もれなくFacebookというおまけつきで)。そしておそらく2016年後半までにはAmazonのドローンが我々の手元まで「フルーツ果汁がにじみ出る特製水筒」などのさまざまな「緊急救援物資」を届けてくれるようになる予定だ。そうなったらもう最後、各ブランドのドローンが広告メッセージとともに、いつでもどこでもところ構わずのべつ幕なしに現れる時代が来るだろう。
この宣伝ドローン、アメリカ以外の国々では実際に使われている。サンパウロのオフィス街を飛んだスーツを着た「首なしドローン」。リオの海辺でベビー用品をママさん方に届けた「コウノトリ型ドローン」。バレンタインデー、イタリアで赤の他人同士の間にバラを落として困らせたピンクの「キューピッド型ドローン」などだ。
このコラムの著者、マーク・ダフィ氏(54)は、広告業界を辛口批評する人気ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人で、現在、失業中のコピーライター。米大手Webメディア「Gawker」でも週刊コラムを担当し、直近では、世界一のバイラルメディア「BuzzFeed」で「広告批評」記事を担当していたが、2013年に解雇を通達された。
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近々、Facebookは自社のドローンをまるで飛行機のように飛ばし、人里離れた地にインターネットの恩恵をもたらす(もれなくFacebookというおまけつきで)。そしておそらく2016年後半までにはAmazonのドローンが我々の手元まで「フルーツ果汁がにじみ出る特製水筒」などのさまざまな「緊急救援物資」を届けてくれるようになる予定だ。そうなったらもう最後、各ブランドのドローンが広告メッセージとともに、いつでもどこでもところ構わずのべつ幕なしに現れる時代が来るだろう。
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この宣伝ドローン、アメリカ以外の国々では実際に使われている。サンパウロのオフィス街を飛んだスーツを着た「首なしドローン」。リオの海辺でベビー用品をママさん方に届けた「コウノトリ型ドローン」。バレンタインデー、イタリアで赤の他人同士の間にバラを落として困らせたピンクの「キューピッド型ドローン」などだ。
「ドローン広告」ってヤツはこっちの意志など関係なく、いつでもどこでもやってくるんだ!
なんたって広告費がかからないし(今のところはね)、「ハイパー・ターゲッティッド」だし(おーい、マーケティング界の教祖たち。この用語であってるかな? まあ、一般に使われる言葉でいえば『ターゲットだけに直接伝えられる』だな?)、機動性に関してはもちろんお墨付きだ。そして忘れちゃいけないのが、ソーシャルメディアで取り上げられた時の影響力だ。YouTubeはキミのドローン広告を写した投稿であふれかえるはずだ! …とくにそいつが人身事故を起こすか、高速道路での玉突き事故の原因にでもなりゃ絶対にだ。
マネキンの顔の部分にドローンがついている。「紳士服大セール!」
さて、いくつかのドローン広告の実例を見て行こうか。最初はこいつ。2014年11月。ブラジルのメンズストア「カミサリア・コロンボ」は数体の首なし「ドローン・マネキン=ドローネキン」を大空に放って感謝祭大セールを告知。ビジネス街で働く人々を楽しませた(普通恐怖のどん底につき落とされるだろう、こんなのが飛んできたら)。まあ、なんて素敵な見た目ですこと! しかしだれか棒を使って、ドローンを落として、あのしゃれた黒スーツを盗もうとは思わなかったのかね?
おめでとうございます、元気な双子です!
お次はこれ。今年の1月、リオデジャネイロ付近のお母さんや妊娠中の人に「コウノトリ型ドローン」が「ユニリーバ」のベビー用品を届けた。くだらん。いや、待てよ。この手法は将来、実際のさずかりにも使える可能性があるかもしれないぞ。性的なことに興味を持ち始めた子どもがしつこく聞いてきても、「ほらっ、ちゃんとコウノトリが運んでくるだろ?」って見せられるという点では。まあ、赤ちゃんが落下死する確率を減らすために技術の向上は不可欠だろうが。このアイデアはブラジルの広告会社「F.biz」の考案だ。
でもコレって「ラブ光線」打てるのか?
そして今年のバレンタインデー、「オランダ花協会」が史上もっとも不気味なドローン広告を実行した。場所はイタリアのベローナ。そう『ロミオとジュリエット』のふるさとという、なんともまあよく考えられた舞台設定ではあるが……。ピンクの「キューピット・ドローン=キューピドローン」はカップルをつきまとい、ヒューヒューと冷やかし、バラを落としていったのはいいが、赤の他人同士にも同じことをしておせっかいなこと極まりない。
さてさて、ドローン広告の未来を占ってみよう。
巨大ドローンなら広告表示板をありとありゆる高速道路上に掲げることができる。まあ、そうだな。たとえばマクドナルドなら出勤途中の人に「マックマフィン」を宣伝し、彼らの帰宅時には高速の反対側に行き、肉汁がジュージュー滴り落ちる魅力的な「ビッグマック」を見せつける、みたいなことをやりかねない。
空港では競合するエアラインのドローンたちがキミの目の前をブンブンと飛びまわり、「お得な情報」をのべつ幕なしに吐き出すことができる。スポーツの試合会場ではインドアだろうがアウトドアだろうが、ビール会社各社のドローン広告が入り乱れてキミの視界を遮り、宣伝するだろう(まあ、正直デリバリーサービスがあればありがたいかもな)。デトックススパなら、ウォール街の高層階で働く金持ち相手に会社の通路まで追いかけて新規店舗の告知ができる。ビーチで飛んでいるあの読みづらい広告バナー(広告バナーをぶら下げた飛行機)は消えて、代わりに何時間でも空中で停止できるドローンたちがバナーを掲げ……ありがたいことにキミのせっかくのオーシャン・ビューを堂々と台無しにしてくれるはずだ。
ドローン広告はすごく侵略的かつ危うい可能性を秘めた代物であることがわかっていただけただろうか 。まあ、「ハエ型広告」よりもいくぶん道徳的だろうがね。
助けて!
【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら】
Mark Duffy(原文 / 訳:柳沢大河)
photo by Thinkstock / Getty Images