匿名を条件に業界の内幕を赤裸々に語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回のインタビューでは、ある広告担当の企業幹部が、よくいわれる「オンラインキャンペーンのプロセスの大半は非効率的で、しかもその効率の悪さで利益をあげている」という視点について、冷静な分析を加えている。
この世で確かなものは死と税金だけ。もうひとつあるとすれば、デジタル広告は実はまったく効率的でないという一年を通して感じる苛立ちだろう。
匿名を条件に業界の内幕を赤裸々に語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回のインタビューでは、ある広告担当の企業幹部が、よくいわれる「オンラインキャンペーンのプロセスの大半は非効率的で、しかもその効率の悪さで利益をあげている」という視点について、冷静な分析を加えている。この非効率がどのように(そしてなぜ)起こるのか、具体的に説明してくれた。
なお、インタビューの内容は読みやすさを考慮して編集・要約されている。
Advertisement
◆ ◆ ◆
――オンライン広告の実施プロセスにおける非効率はどれほど根深いものなのか?
通常、広告主は手持ちの顧客名簿や外部から入手したリストをもとに、リーチしたい人々のリスト作成から一連の作業を始める。この人々にオンラインでリーチするには、このオーディエンスリストをいくつもの篩(ふる)いや変換にかける必要がある。
まず、データオンボーディングの過程で、リスト内のデータの50%が脱落する。次に、残ったデータはオンボーダーから配信プラットフォームに送られるのだが、Cookieその他のターゲティング技術の関係で、ここでもさらに50%前後のデータが失われる。もうこの時点で、広告主が当初期待していた規模は消失しているということだ。
――では、元々のオーディエンスリストが優良であるほど、このプロセスが打撃になる?
単純にいえば、そうなる。しかし逆にいえば、元々のオーディエンスリストが粗悪ならば、希釈の悪影響も小さくて済むということだ。ただしそれは、元々のオーディエンスの質がかなり低いという意味でもある。このプロセスを通過するあいだに、オーディエンスの質が良い方に向かうことはありえない。
――マーケターたちはなぜこの非効率を放置するのか?
ほかにどうしろと? 代わりのプロセスの不在が、この問題の悲しいところだ。
――プラットフォーマーは頼りにならない?
オーディエンスをプラットフォームに送っても、そのうちの誰にリーチできるのか教えてくれるプラットフォームはひとつもない。たとえば、100万人のオーディエンスを大手プラットフォーマーに送ったとする。彼らはそのうち50万人に対応できるというが、どの50万人なのかは教えてくれない。
つまり、マーケターにはもともとの100万人にリーチできるか否かを判断する術はまったくない。5つのプラットフォームに送れば、全部合わせて当初の100万人をカバーできるだろうと願うのみだ。
――これは事実上、ウォールドガーデンのモデルだ。広告支出をサイロ化して、広告予算が別のプラットフォームに流れるのを妨げている。
その通りだ。しかも、これはウォールドガーデン型のプラットフォームに限った話ではない。一般的なDSPも実はこのような戦術を採用している。機会さえあれば、DSPはすべてのオーディエンスにリーチしたいと考えるだろう。実際、DSPはオーディエンスリストをまるごとほしがる。広告主から予算を引き出すチャンスがそれだけ大きくなるからだ。
――当初のオーディエンスリストの提供と引き換えに、広告主がプラットフォーマーやアドテク企業にフィードバックループを要求できないものか?
要求することはできるし、実際に試した広告主もいる。しかし私の経験上、うまくいったためしがない。
――オンライン広告で質的な透明性を確保するのは難しいということか?
そうともいえる。メディアコストや配信面についてはかなり透明化が進んでいると思う。しかし、広告のパフォーマンスやエクセキューションという側面では、透明性ははるかに低い。
――しかも、キャンペーンの終了後、その採点をするのもプラットフォーマー自身だ。
昔からずっと変わらない。彼らウォールドガーデンはフィードバックループを提供しない。確かに、集計データは出すが、ログレベルのデータは共有されない。ログレベルのデータがなければ、マーケターは無駄な重複があっても特定できない。
――しかし、仮にプラットフォーマーがログレベルのデータを出してきても、異種データの照合という課題は残る。
その通りだ。データの取得は始まりにすぎない。複数のプラットフォームをまたいでリーチする場合、リーチしている相手が同じひとりの人物であるのか広告主には分からない。共通のID空間が存在しないからだ。
――オンライン広告でこの問題を解決するのは不可能なのか?
「ユーザーが広告を受け取った」と広告主に教えるのはユーザーに対する違反になるかもしれないのでできないとする考え方がある。私には到底理解できない考え方だ。メディア事業者がサイト横断的なトラッキングを懸念するなら、サイトの情報を含まないログレベルのデータを返せばよいだけだ。それで問題は解決する。
――気の滅入る話だ。何か明るい兆しはあるのだろうか。
確かに苛立ちは禁じ得ない。ウォールドガーデンであれアドテクであれ、どんなプラットフォームもクライアントの利益を代表するものであり、少なくとも水面下では正しいことを話すべきだ。彼らに現状を変える意思があるなら、それは実際の行動や努力で測るものだと私は考える。
これまでのところ、反応はさまざまだ。我々は現在、あるプラットフォームと協議をしているのだが、少なくとも彼らとのあいだでは、前述のフィードバックループを提供する方向で話を進めている。この方向性は決して世の趨勢(すうせい)ではない。そうなる可能性はあるにしても。
我々の求めるものは単純明快だ。こちらから100万件規模のIDをファイルに格納してプラットフォームに送る。プラットフォームは各IDの横に「可・不可」を付けて、そのファイルをこちらに返す。これで我々はオーディエンスごとにターゲティングの可否を判断できる。捨てるだけではいつか限界が来る。クライアントからのプレッシャーがあればなおさらだ。
Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)