今回の業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズでは、元フォトグラファーで、女性衣料品のマーケティングディレクターに、Amazonが同プラットフォームでブランドをいかにコントロールしているかを、Amazonが提示する商品写真のクリエイティブを通して語ってもらった。
Amazonとブランド各社の関係が緊迫している。ブランド各社はしばしば、Amazonに対して不満を口にしてきた。たとえばAmazonが消費者データを提供しないことや、無許可のサードパーティーの小売業者がAmazon上で商品を安売りしていることに対する不満などだ。
今回の業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズでは、元フォトグラファーで、女性衣料品のマーケティングディレクターに、Amazonが同プラットフォームでブランドをいかにコントロールしているかを、Amazonが提示する商品写真のクリエイティブを通して語ってもらった。
なお、以下のインタビューは内容を明瞭にするため若干の編集を加えている。
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――最初にAmazonと仕事をはじめたきっかけは?
前職で、Amazonから「Amazon Fashionにストアを作る気はないか」とコンタクトがあった。そのときは「これは良いオファーだ。Amazonでそういった露出が得られるのは素晴らしいことだ」と思った。結局1年ほどAmazon Fashionにストアを設けたよ。
――ブランドの商品写真について、Amazonのアプローチは?
オファーを受けてすぐに、Amazonは「商品を全部送ってくれたら、当社の写真スタジオやスタイリスト、モデルで撮影することもできる」と言ってきた。彼らの写真スタジオはケンタッキー州にある。そのスタジオではAmazonの撮影部員が、一番安いモデルを使って写真を撮っている。地元の大学生でも使ったのか? と思ったことも一度や二度じゃなかった。
大げさに言っているわけじゃなく、本当にそうなんだ。次にAmazonで商品を見るときに確認してみたらいい。見覚えのあるモデルが1人でもいるかどうか。少なくとも、私は見たことがない。それが彼らのやり方らしい。まるで「世界を牛耳ってやる。eコマースを牛耳ってやる。だから写真は自分たちが撮るし、モデルも自分たちが選ぶ。スタイリストも自分たちが選ぶし、髪型も化粧もAmazonらしいものにする」と言わんばかりだ。
これは業界にとって良くないことだと思っている。Amazonには卸売業のままでいてくれと思う。ブランドイメージを損なうようなことはやめてほしいと願っているが、実際に起こっていることだ。
――ブランドにとっては、さぞ気に入らない話だろう
たまったものじゃない。以前働いていた会社の最大のライバルはチコズ(Chico’s)だった。彼らはAmazonと取引はしたが、決して商品を載せることはしなかった。チコズのやり方じゃないからと、断ったのだ。テレビCMやソーシャルメディアを通じてブランド化に成功してきたチコズは、商品が売れていないときに、別のモデルを使って商品を撮り直すことの大切さを知っている。
――写してはいけないものが決められていたりするのだろうか?
Amazonには写真撮影でやってはいけないことが書かれた長いリストがある。会社にやってきて「もらった写真の背景はすべて削除したい。写真にブランド名も載せてはだめだ」と言われる。「おいおい、勘弁してくれ」と思ったよ。Amazonのページを見れば一目瞭然だろう。背景を残すことが許されているのは全体でたったの1%に過ぎない。あと、きわどい写真もダメだ。肌の露出が多すぎる写真はボツにされる。全年齢向けにしたいんだろう。
――Amazonのプライベートブランドストアのホームページはどうか?
よりブランド志向の画像を載せたいならばそれも可能ではあるが、実際はそうして欲しくはないだろう。ブランドを呼び込むための苦肉の策だと思うよ。
――いままでの話は、どういった点で重大なのだろうか?
ライフスタイルやブランドのメッセージが伝わらない点だろう。写真をこうやって撮れだの、こう見せろだのと介入してきて、撮った写真でOKかどうか後から伝えられるのはブランドにとって重大な問題だ。そして、ブランドの商品をクリックした先の商品ページには、もうそのブランドのライフスタイルは微塵も残っていない。
なぜそんなことをするのか。なぜ我々ブランドのライフスタイルを表現させてくれないのか。一番大切なところが完全に除外されてしまっている。ブランド視点やブランドストーリーを取り除いてしまうということは、消費者との繋がりを取り除いてしまうことと同じだ。
――収益はどうなっている?
ブランドがモデルや服、商品を切り替えていくのには根拠がある。マーケティング分析で、どのモデルの収益性が一番高いかを調査している。どの髪色が一番収益につながるかすら調べている。ダークブラウンよりブロンドのほうが収益に繋がることを実際に知っているのだ。昔はシンディ・クロフォードに着せさえすればなんでも売れていたけどね。
――しかし、Amazonにはそうさせてもらえないということ?
そうだ。
――もはやAmazonを業界の基準として受け入れるしかないのか?
写真はフォトショップができて加工が簡単になった。またデジタルカメラになって、より簡単に撮影できるようにもなった。ブランド写真になり得る写真を撮るための機材や技術が、昔より簡単に手に入るようにもなった。だから、ブランドは商品写真に手を抜くようになったのだろう。それが現状だ。
――いまの小売業界にとって、それはどういった意味を持つだろうか?
いまのアパレル業界は大変だ。バナナ・リパブリック(Banana Republic)のような大企業ですら店をたたんでいる。いまやアパレル企業はまるで虫けらのように潰れていく。私にはその現象が顧客との繋がりが失われてしまったからに思えてならない。
Ilyse Liffreing(原文 / 訳:SI Japan)
Image from 米DIGIDAY