ブランドにとってプログラマティックの内製化は、経費削減、顧客データの所有権拡大、メディアエージェンシーの業務代行費用の削減と、実践する価値はあるものの、複数ブランドをもつグロバール企業にとっては、一貫して取り組むことは簡単ではない。匿名をもとに、グローバル企業のメディア責任者に内製化の現実を語ってもらった。
ブランドによるプログラマティック取引の内製化は容易ではない。
プログラマティック取引の内製化は、経費を削減したり、顧客データの所有権を拡大するチャンスだと見る向きがある。または、ブランドにとって、もはや最高クラスのソリューションを提供するとは思えないメディアエージェンシーを、中抜きする方法でもある。そしてときに、ブランドはこれら3つすべてを狙う場合もある。
しかし、独自のソリューションを検討できる予算をもつグローバルブランドは、メディア担当チームが支社のある各国ごとに散らばっている。そのため、プログラマティックについて一貫して取り組むのは簡単ではない。
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業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、あるグローバルブランドのメディア責任者に、プログラマティックの内製化の現実をぶちまけてもらった。回答はわかりやすくするために若干の編集を加えてある。
――メディアエージェンシーからクライアントへのプログラマティックバイイングの請求のあり方について批判が相次いでいる。これはフェアなのか?
まったくもってフェアだ。なぜエージェンシーは技術に関して一部のパートナーと提携し、代わりの選択肢を提供することなく、ひとつの方法を押しつけるのか? 人々は技術について表面的にしかわかっておらず、広告主の大半は、提供されるものを疑えるような知識をもちあわせていない。エージェンシーのトレーディングデスクはどうかということなら、技術はひどいし、アルゴリズムはひどいし、透明性はない。
たしかに、大手のエージェンシーは、非常に優秀なプログラマティックのスペシャリストを外部に抱えている。だが、そのやり方に従うと、全体の戦略からプログラマティックの戦略と実行の責任が分かれることになる。指定代理店とそうしたサードパーティーのあいだに摩擦が生じるため、扱いには相当の注意を要する。
――それが原因で、一部のブランドはプログラマティックバイイングの内製化に目を向けている、と。実現の可能性はどれくらい?
内製化の内容による。独自の技術ソリューションの構築ならほぼ不可能だ。というのも、ソリューションを構築し管理するなら、技術開発と人員採用の両方が必要で、完全に手が出ないコストになるだろう。これは検討事項にならない。変動する要素が多すぎるのだ。内製化が可能なのは、技術のライセンスを受け、それを管理する人員を雇うというケースだ。
――では、具体的にどうすればいいのか?
大半の広告主が最初に手をつけるのは、プログラマティックを使ってメディアを相当安く購入することでアドネットワークを省く、投資コストを回収可能なソリューションだ。しかし、それが有効な期間は限られている。最初のコスト削減からあとは、これからプログラマティックでどうしていくかを自社で判断する必要がある。純粋な効率化のソリューションから、データとインサイトを用いてより効率的にターゲティングする、関係性に基づいたマーケティングソリューションへと移行することになる。
ただ、これは比較的容易なところと、そうでないところとに分かれる。たとえば旅行会社のような顧客獲得が頼りの広告主なら、プログラマティックのほうが直接購入よりも効果的なソリューションかどうかは、テストによってすぐにわかる。
難しいのはブランディングのキャンペーンだ。ファネルの下のほう(ブランドインパクト、意図、購入)でブランドの期待に沿っている具体的な証拠を得るには、どうしても大規模の調査が必要だ。プログラマティックが実際に実施された期間のことを考えれば、完全な調査結果を得られることは少ないだろう。
――プログラマティックが達成できることへの期待が高すぎる?
私自身は、長い目で見てやるべきことだと確信している。通信業界の各社、とりわけデジタル通信の場合はそうだ。それでも、多くの場合、どのようなリターンを得られるかよくわからないまま、無鉄砲に飛び込んでしまう。まわりの動きに盲従しているのだ。
大半の広告主は、プログラマティックの複雑さを認識していない。本当は、何をどのようにやりたいのかについて、明確な目標が必要だ。仮に私がはじめからやり直せるとすれば、たとえばひとつの国で対照のブランドを2~3というように、まず小さくはじめて、1年がかりで規模を拡大していくだろう。
――つまり、後悔がある?
私の組織では非常に困難な状況が続いた。一般的に考えて、プログラマティックに専従する従業員が必要だ。私の担当はプログラマティックだけではない。もし専任だったら、その立場で毎日、一日中、さまざまなテクノロジー企業について理解を深められているだろう。しかし実際は、サードパーティーの推薦に頼っている。
――プログラマティックのスペシャリストを見つけるのは難しい?
スキルのある人材が不足していて、そうした人材は高額の報酬を要求する。しかし、それ自体は悪いことではない。広告主にとって潜在的なリターンが莫大なものになるからだ。人材に3万ポンド(約430万円)を余分に払うとしても、その100倍もの潜在的な商業利益と比較すれば微々たるもので、問題にならない。
――プログラマティックの価値を社内で説得することになるが、それについては?
プログラマティックによる購入が直接購入よりも優れた投資であることを、社内で説得する必要がある。プログラマティックで購入していると、ときとして、ブランドとメディアのチームの裁量権が失われることが歓迎されないのだ。いまだに、ブランドやメディアの特権意識が抜けていない。昔は「よし、広告費の7%を『ヴォーグ(VOGUE)』に、10%を『コスモポリタン(Cosmopolitan)』に割り当てよう」という調子だった。だが現在であれば、高級ファッションを扱うブログも、出稿先として完璧な環境とみなされるだろう。
――押し返されることがあった?
そうしたことはあった。複数のブランドを複数国で展開している企業なら、それぞれ異なるアプローチが必要になり、これは相当に厄介だ。異なるレイヤーがありすぎるので、管理しようとしてもフラストレーションが募る。我々はまだ、これを可能にする仕組みを作れていない。大半のケースで、かなり面倒なことになるだろう。
担当者には明確な責務が与えられ、ブランドの予算をプログラマティックに割り当てられるようにしなければならない。取締役会から権限を与えられる必要がある。そうでなければ、立場の強い同僚に押し切られてしまう。
――プログラマティック内製化の今後は?
プログラマティック内製化で有望とされていることは、データ技術、データ管理、データの透明性だ。あふれんばかりのデータが手に入るようになる。そしてあらゆる技術分野で、急速かつ大規模に、人間に取って代わり機械学習が最適化を担うようになるだろう。
Grace Caffyn (原文 / 訳:ガリレオ)