ストリートウェアを伝導する、「コンプレックスコン」の魅力

2018年の「コンプレックスコン(ComplexCon)」が11月3日午前11時(米国時間)に開幕した。だが、自社製品を売ろうと、カリフォルニア州のロングビーチ・コンベンションセンターに集まった数百のブランドのうちのひとつは、開始から2時間でブースを閉じなければならなくなった。

メディア企業コンプレックス(Complex)が主催するストリートウェア愛好者のための年1回の「コミックコン(Comic-Con)」に参加した100人以上が、アトモス(Atmos)のブースに集まっていた。お目当ては、ナイキ(Nike)やティンバーランド(Timberland)、アシックス(Asics)といったブランドとアトモスがコラボレーションして制作し、2日間のイベント期間中だけ販売される限定スニーカーだ。だが、12時40分までに、並んでいる人々を見下ろせる場所に、数人のアトモス従業員が立ち、一旦ブースを閉鎖し、午後2時に再開すると叫んで、期待に胸を膨らませていた多くの人は手ぶらで立ち去る羽目になった。そして、午後5時45分には再び、アトモスは予定より早くブースを閉めた。

ブースで働いていたひとりは、「収拾がつかなくなっていた。いまにも壁が倒れそうだった。靴の販売なんてできなかった」と語る。

ストリートカルチャー界のスーパーボウル

ほかでは手に入らない、友だちに見せびらかしたり、オンラインで転売できる製品を求めて大騒ぎするスニーカー愛好家の群れ。そして、ナイキやアディダスが発表する限定商品をいち早く獲得しようと、土曜日の午前6時にモールで列をなしている人々の光景が、コンプレックスコンに付きものだ。

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アディダスのスニーカー交換場所で待つ、コンプレックスコンの参加者

この群衆にとって、ブランデッド商品は通貨と変わらない。限定アイテム、特に大手ファッションブランドとお気に入りのアーティストやデザイナーとのコラボ商品は、2012年頃のビットコインのようなものだ。コンプレックスコンが11月3日午前11時に開場すると同時に一番乗りするために、その前日の午後9時30分から並んだ人も何人かいたのもそのためだ。彼らが「エア・ジョーダン(Air Jordan)」が来月発売されることを伝えたコンプレックスの記事を読んだり、「スニーカー・ショッピング(Sneaker Shopping)」や「ソール・オリジンズ(Sole Origins)」のようなコンプレックスの番組を見たりする理由もここにある。そして、これこそまさに、コンプレックスが2016年にコンプレックスコンをはじめた背景でもある。

コンプレックスの最高経営責任者(CEO)、リッチ・アントネッロ氏は、ファレル・ウィリアムス氏と彼が設立したレコードレーベル「アイ・アム・アザー(i am OTHER)」とともにコンプレックスコンをはじめようと決めたことについて、「マーケットプレイスがようやくできたという気分だった」と話す。「これを10年前にやろうと思っても、スニーカーの消費者やヒップホップの消費者が、これほど多様な何かを受け入れる準備ができているかどうか、わからなかった」。

この10年、ストリートウェアカルチャーは、メインストリームカルチャーの一部としてその地位を確立してきた。超人気のストリートウェアファッションブランドであるシュプリーム(Supreme)は、時価総額10億ドル(約1130億円)になったと報じられ、アディダスはカニエ・ウェストなどとのコラボによって、ストリートウェアに力を入れるようになった。

日本のストリートウェアブランド、ア ベイシング エイプ(A Bathing Ape)から派生したエーエイプバイアベイシングエイプ(AAPE BY A BATHING APE)で、シャツやトレーナー、彫刻をデザインしたアーティストのスティーブン・ハリントン氏は、「多くの人が、サブカルチャーについて話すように、ストリートウェアについて話している。だが、それが現代カルチャーだと思う」と述べる。

コンプレックスコンは、ストリートウェアブランドやその愛好者たちのための見本市以上のものに成長している。参加者たちは、メインマーケットプレイスにある160のブースを訪れることに加え、フューチャー、アクション・ブロンソン、レイ・シュリマーのようなラッパーによる音楽パフォーマンスや、コンプレックスコンの組織委員会のメンバーでもある村上隆などのアーティストの作品展示を楽しむことができた。リナ・ウェイス、イッサ・レイのような有名人やヴァージル・アブロー、トミー・ヒルフィガーといったデザイナーを迎えてのパネルディスカッションに耳を傾けたり、コンプレックスが毎週放送しているトークショー番組「オープン・レイト・ウィズ・ピート・ローゼンバーグ(Open Late With Pete Rosenberg)」の生収録を見学したり、43の屋台とコンプレックスのグルメ情報メディア「ファースト・ウィー・フィースト(First We Feast)」をプロモーションする2台のキッチンカーが集まった屋外のフードフェスティバル「ファースト・ウィー・フィースト」ラグーンに足を運ぶこともできた。コンプレックスコンが、広告への依存を減らすために自身のブランドをイベントにまで拡大しようともがいているパブリッシング企業の羨望の的である理由もここにある。アントネッロ氏はこれを「ストリートカルチャー界のスーパーボウル」と呼んでいる。

ビジネスにもプラスに

スーパーボウル同様、これは大きなビジネスチャンスだ。人々は、1日入場券に55ドル、VIPパッケージには300ドルを支払い、パスを持っている人は一般より早く入場でき、特別なトイレを使える。コンプレックスはさらに、イベントで自社商品の販売も行っている。だが、イベントの主な稼ぎ頭は、コンプレックスが販売しているブーススペースとスポンサーシップで、そこには、コンプレックスコンに限定したもの、コンプレックスのメディアプロパティ全体における、より広範な広告契約の一部になっているものもある。アントネッロ氏は、コンプレックスコンがどれくらいの売り上げをもたらしているは明かそうとしなかったが、イベントは利益をあげていて、それはコンプレックスの年間売り上げの8~9%を占めていると述べた。

コンプレックスにとってコンプレックスコンは儲かるイベントであると同時に、11月のある週末、自宅以外の場所で、掴みどころがなく疑い深いオーディエンスへリーチすることにより、コンプレックスのメディアプロパティの価値を多くのブランドに対して示す好機でもある。

コンプレックスの最高収益責任者(CRO)であるエドガー・ヘルナンデス氏は、「コンプレックスコンは、クライアントがミレニアル世代やZ世代の市場を理解する手助けをするという点で、我々の立場を強固にするのに、本当に役立っている」と話す。

コンプレックスコンに今年はじめて参加したタイメックス(Timex)を例に挙げよう。創業165年の同社が、さらに165年の歴史を積み重ねたいなら、コンプレックスコンに出ないでは済まされないと考え、参加を決めたそうだ。タイメックスの小規模専門店ユニット部門担当シニアバイスプレジデントを務めるシルビオ・レオナルディ氏は、「ひとつの業界として、我々はこの種の消費者やこの種の環境との接点を失っていたと思う」と話した。

コンプレックスコンに来ていた群衆にあらためて自社を紹介するために、タイメックスは、ストリートウェアブランドのチャイナタウン・マーケット(Chinatown Market)と手を組んでチャイナタウン・マーケットのスマイリーマークのロゴが入った時計をデザインして、それをタイメックスのブースの目玉にした。タイメックスのブースは最大規模ではなかったが、コンプレックスコンのオーディエンスの重要性を考えると、同社がブースにかけた5万~6万ドルは簡単な投資で、「我々がマーケティングに投じているものに比べれば、微々たるものだ」と、レオナルディ氏はいう。

マーケティング以上のもの

タイメックスや、スポーツウェアブランドのカッパ(Kappa)のようなブランドにとって、コンプレックスコンは単なるマーケティングや販売の機会ではなかった。カッパは昨年、製品の売上合計からブースにかかった費用を差し引いて、コンプレックスコンで赤字を記録したと、ザ・ファンデーション(The Foundation)の共同創設者でブランドアーキテクトのドレー・ヘイズ氏はいう。同社は、カッパの米国内でのブランディングや販売、配送を担当している。だがカッパは、今年のコンプレックスコンに10万ドル(約1100万円)を投じて、昨年より大きなブースを出した。ヘイズ氏は、イベントが終わるまでにはお金を取り戻せると期待し、そうならなかった時のことは一切心配していなかった。コンプレックスコンは、米国の消費者のあいだで51年目を迎えた、このイタリアのスポーツブランドへの注目度を高めることに加え、同社の直販型ビジネスを推し進めるチャンスでもあった。コンプレックスコン終了後、カッパがイベントで販売していたジャケットとトレーニングパンツは、カッパのeコマースサイトを通じて米国内でのみ入手できるようになる。

コンプレックスコンはさらに、ブランドにとっての研究開発(R&D)ラボとしても役立っている。多くのブランドは、Shopify(ショッピファイ)を利用してブースでの購入を管理し、一番の売れ筋を追跡して、後日自社サイトで売れそうな製品を教えてくれるデータを集めることができた。ブランドのなかには、購入処理をするあいだに顧客の年齢を判断し、その情報を追加するようブースの従業員に指示していたところもあった。

タイメックスのレオナルディ氏は、コンプレックスコンの会場であるコンベンションセンターにいる時間の3分の1を費やして、参加者が着ている服の種類や色をチェックして会場を見回ることにしていた。その情報を伝えて、将来の時計のデザインを決めるためだ。

今年のコンプレックスコンへの比較的少額な投資からタイメックスが得られると思った価値を考えると、タイメックスが2019年もここに戻ってくることについては「疑問の余地さえないこと」だと、レオナルディ氏はいう。「たぶん来年は、今年よりも大きな規模でよりよい何かをやるだろうが、注意深くやりたいと思っている。単にお金を投資することではなく、その仕方が問題だ。数百万ドルをかけてプースを出して、下手なことをしているようでは、益より害のほうが多くなる」。

失敗したブースが陥った落とし穴

パーティーのホスト役として、コンプレックスは、ブランドにも参加者にも公平な立場を取ろうとしている。コンプレックスコンの人気は参加者のあいだでもブランドのあいだでも高まっているなかで、コンプレックスは各社のブースの規模を厳格に見定めようとするようになってきた。出展を希望するベンダーは、それぞれのブースの計画をコンプレックスに提出せねばならず、コンプレックスはそれをもとに、出展を認めたとして、どれくらいのスペースを割り当てるかを決める。「最大のブースを確保しながら、スニーカーを展示するだけなんてことはできない。そういう場合はサイズを縮小するし、プランを出さない人にはノーと言ってきた」と、アントネッロ氏は話す。

アトモスやタイメックスのような企業は、コンプレックスコンの雰囲気を反映しているものである限り、自社製品を持ってくるだけで十分だった。だが、HBOやNetflix(ネットフリックス)、ラッキーチャーム(Lucky Charms)、マクドナルド(McDonald’s)のよう企業は、単にストリートウェアカルチャーに迎合しようとしているだけではないことを証明しなければならなかった。

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HBOは、コンプレックスコンブースで理髪店を再現

HBOは、普通のブースではなく、レブロン・ジェームズ氏の会社アンインタラプティッド(Uninterrupted)と共同で制作したシリーズ番組「ザ・ショップ(The Shop)」を宣伝するために理髪店を再現したブースを設置し、スニーカー販売、理髪師による無料の脱色やアレンジ、参加者の靴磨きを提供した。「ここに参加して、こうした消費者がエンゲージしそうな何かを、これらのオーディエンスに本当に信頼される方法でやらなければならないと思っていた」と、HBOの多文化マーケティング担当バイスプレジデントであるジャッキー・ガニエ氏は語った。

連合と同化でクールに

だが、ストリートウェアのプレミアイベントに明らかに不似合いなブランドを、コンプレックスコンの参加者はどの程度受け入れていたのだろう?

ミネソタから来た熱狂的スニーカー愛好家のトーレス氏(37歳)は、コンプレックスコンに参加したのは2回目で、典型的な参加者のようだった。彼は、背中に「Coca-Cola」という象徴的なロゴが入ったゴールデンベア(Golden Bear)の赤いバーシティー・ジャケットを来て、コンバース(Converse)のスニーカーを履いていた。どちらのアイテムも、コカコーラと、スニーカーデザイナーのロニー・フィエグが創設した洋服/小売りブランドのキス(Kith)とのコラボ商品だ。トーレス氏は、フィエグ氏がラッキーチャームともコラボしていて、背中にラッキーチャームのロゴがついたパーカーを同社ブースで50ドルで販売していると知っていた。ラッキーチャームはコンプレックスコンでストリートウェアの文化的意味を強化していると、トーレス氏は言った。

トーレス氏のような参加者は、ラッキーチャームやHBOのようなブランドがコンプレックスコンのカルチャーと同化し、その中心にある芸術やカルチャーに加わろうと努力していることを高く評価していた。その気持ちは、Netflixブースの行列にも表れていた。Netflixは、アーティストのマリア・カマールのデザインをシャツにシルクスクリーン印刷して、「ハサン・ミンハジ:愛国者として物申す(Patriot Act With Hasan Minhaj)」の宣伝をしていた。

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マクドナルドは、ブランドロゴを際立たせた商品とDJが回転するブースを出していた。午後も遅い時間になると、マクドナルドのブースに入ろうとする人の列は長く伸び、50人ずつに分けられなければならないほどだった。待ち時間を凌ぎやすくするために、従業員たちはマックフライポテトやマックナゲット、炭酸飲料水などを並んでいる人々に配っていた。彼らの真の目的は、アトモスやアディダス、その他ここに出展しているファッションブランドから出ていてもおかしくないような、エリス・スウォープのようなアーティストによるワッペンが付いた限定商品だった。マクドナルドはストリートウェアカルチャーに適合させようとはしなかったが、それに適応したため、うまく機能していた。

マクドナルドブースの列に並んでいたひとりが22歳のアーロン氏だった。アーロン氏は最近になってストリートウェアを着るようになって、インスタグラム(Instagram)でこのイベントについて知り、ガールフレンドと会場へやってきた(彼はコンプレックスの読者ではなかったが、イベントに来た結果、読者になろうと思うようになったそうだ)。アーロン氏は、ストリートウェアカルチャーについて学び、限定品の服や靴を手に入れて、来られなかった友人に見せびらかしたいと思っていた。「コンプレックスコンでゲットした、というと特別感がある」と彼は語った。

Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)