デジタルネイティブブランドが成長する経路は大きく分けて2つある。新しいカテゴリーに拡大するか、新しい地域へ進出するか、だ。そのような状況において、アメリカとヨーロッパのデジタルネイティブブランドたちのあいだで、衝突が起きはじめている。
アメリカとヨーロッパ、2つの市場におけるデジタルネイティブブランドたちのあいだで、衝突が起きはじめている。
デジタルネイティブブランドが成長する経路は大きく分けて2つある。新しいカテゴリーに拡大するか、新しい地域へ進出するか、だ。ヨーロッパではデジタルネイティブブランドの数がますます増えてきている。デジタルネイティブブランドは、一般にアメリカ市場と結びついて考えられることが多いため、ヨーロッパのブランドがアメリカの消費者を求めて進出してくるのは時間の問題だろう。アメリカのワービーパーカー(Warby Parker)と英国のエース&テイト(Ace & Tate)が競争する、といった事態が想定される。
「『アメリカに進出する』と、宣言するだけではない。もっと複雑なことだ。ヨーロッパとアメリカという2つの市場は、カルチャーの面で非常に異なっているからだ」と、ビジネス開発企業トラウブコンサルティング(Traub Consulting)のシニアマネージングディレクターであるケルシー・グルーム氏は語る。「ローカルな状況、消費者についての深い理解を持っていないといけない。その土地に足を踏み込んで運営するようなリアルな存在感、真のローカルなパートナーシップが必要になるだろう。ビジネスの展開方法によっては、それによって卸売パートナーシップであったり、不動産の状況を切り抜けるためのローカルなノウハウを得ることができる」。
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アウトドアボイシスの事例
米・テキサス州オースティンに本社を置く、レクリエーション向けのアパレルメーカー、アウトドアボイシス(Outdoor Voices)は先日、インスタグラム(Instagram)と彼らのエディトリアルプラットフォームであるレクリエーショナリスト(The Recreationalist)において、英国・ロンドンベースのサイクリングアパレルブランドのラファ(Rapha)とコラボレーションをすると発表した。2020年春にローンチされる限定カプセルコレクションにおいてのコラボレーションだ。またブランドとの共催でサイクリングクラスも提供されるという。
「世界にもっと運動を届けることが我々のミッションだ」と、アウトドアボイシスのファウンダーでありCEOのタイ・ヘイニー氏は言う。「ラファとのパートナーシップの目的は、我々の国際的コミュニティに刺激を与え、自転車に乗ってもらい、我社の海外におけるポテンシャルを最大限実現することだ」。
ラファのモットーは「困難を通じて栄光へたどり着く(glory through suffering)」だ。このモットーはあらゆるアクティビティに喜びを見つけることを中心的な考えとしているアウトドアボイシスのチームにとって、違和感のあるものだったと、クリエイティブディレクターのティファニー・ウィルキンソンーラーマー氏は、レクリエーショナリスト上の投稿で語っている。しかしラファとコラボレーションをするなかで、ラファのモットーの中核は定期的に身体を動かすことで得られる物にあると理解したという。定期的に身体を動かす、このコンセプトはアウトドアボイシスのカルチャーでは #物事を行うこと(#DoingThings) と表現される。アメリカ市場におけるコラボレーションでは、ラファではなく、アウトドアボイシスの言葉遣いが使われることは間違いないだろう。ラファのメッセージ手法よりもアメリカ市場で浸透しやすいからだ。
現在、アウトドアボイシスは海外での販売を行っていない。しかし、英国、オーストラリア、カナダ、日本からの消費者の興味があることは分かっていると、ヘイニー氏は言う。2016年にはフランスのファッションブランドA.P.C.とのコラボレーションを通じて、ほかのマーケットをテストしている。A.P.C.O.V.と名付けられたアクティブウェアは両方のブランドによって、オンラインでも販売された。アメリカではアウトドアボイシスの店舗、世界規模ではA.P.C.の店舗で販売された。
欧州におけるカオスマップ
また先日、ビジネス開発企業マーヴィン・トラウブ・アソシエイツ(Marvin Traub Associates)は、彼らのニューデイヴィッヅ報告書(New Davids)の欧州バージョン第1回目を発表した。ニューデイヴィッヅ報告書は毎年出される、アメリカ市場を中心としたデジタルネイティブの状況をまとめたものだ。
ヨーロッパ全体では、11カ国から成る200社ほどのデジタルネイティブブランドに関して言及することの意義を、トラウブは見出している。これらは。38%が英国、21%がフランスからだ。そしてファッションからフードと、6つのカテゴリーに分けられた。これらのうち、58%はアメリカに何らかの存在感を持っており、93社はまったくアメリカ市場に取り組んでいなかった。アメリカからでも購入ができるブランドのうち、127社はオンラインで購入可能かつ自分たちの販売機能を使っていた。57社は外部のリテーラーを通じての販売、そして7社がアメリカに自分たちの店舗を持っていた。
「これらのブランドが、お互いのスペースに侵入しはじめたら何が起きるかは、興味深い」と、トラウブのシニアアソシエイトであるダニエラ・フィシェル氏は言う。「お互いのブランドから顧客を奪いはじめたら、最終的には合併が起きるのか? もし合併が起きた場合、彼らがそもそも対抗しようとしていたブランドと同じようなサイズになってしまうのか?」。

トラウブによる、ヨーロッパのデジタルネイティブブランドの全貌
「アメリカに競合はいない」
モーガン・セザローリ氏は、フランスの最初のデジタルネイティブブランドであるセザン(Sézane)を2013年にローンチした。4年後の2017年にはニューヨーク市のノリータ地区に店舗をオープンし、ブランドをアメリカ市場に紹介した。
「(アメリカには)競合がいるとは感じない。正統派なフレンチスタイルを持っており、ヨーロッパで製造することで生まれるクオリティを持っている。これはアメリカでは誰も提供できていない。リフォーメーション(Reformation)やエヴァーレーン(Everlane)、メイドウェル(Madewell)といった、我々と近似性を持つブランドには、コミュニティと良い価値が存在している。それでもブランドは異なっている。我々はアメリカにフランスのフェミニンな見た目を持ち込んでいる。一方でリフォーメーションは、たとえば、セクシーでカジュアルだ。消費者は両方のブランドを購入するだろう。顧客は1枚のTシャツを買いに我々のブランドにやってこない」と、セザローリ氏は言う。
セザンのアメリカにおける広告は、最小限のデジタル広告に留まっている。その他は、1年に1度の「ポップアップ店舗ツアー」と、顧客による「口コミ」に頼っている。
セザンの売上の35%がアメリカとなっており、アメリカとヨーロッパで半分ずつにすることがゴールだ。売上の85%はオンライン、15%は実店舗からとなっている。店舗のうち5つはフランス、2つがロンドン、そしてニューヨークの1つだ。卸のパートナーはパリにあるル・ボン・マルシェ(Le Bon Marche)の1つとなっている。2020年にはアメリカ西海岸に2店舗目をオープンする計画を持つ。
国際展開に対する準備
アメリカのブランドと比較すると、ヨーロッパの企業の方が国際展開に対する準備ができているかもしれないと、グルーム氏は言う。彼らのローカル市場が比較的小さいため、自国民だけにマーケティングするのではなく、グローバルなアプローチをはじめから行うことにフォーカスしているからだ。トラウブの報告書のなかで、アメリカに店舗を持つとした7つのヨーロッパ発ブランドのうち、3つはスウェーデンからとなっている。
「リサーチをちゃんとしたブランドたちは、アメリカの消費者に向けて自分たちのメッセージを修正する必要があること、そして商品の組み合わせを調整する必要があることを理解している」と、グルーム氏は語る。「そしてビジネスを構築するためにはニューヨークとロサンゼルスで顧客の扱いが違う必要もある。アメリカ国内のローカル市場の間でも違いがある」。
Jill Manoff(原文 / 訳:塚本 紺)