夏に向けて、アパレル小売各社の戦略はどのような変化を見せているのだろうか? リーバイス(Levi’s)、アーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters)、ギャップ(Gap)が直近の収支報告で発したコメントから、その動向を占ってみよう。
アパレル小売各社が夏に大きな期待を寄せている。アパレル業界はコロナ禍の打撃をもっとも強く受けている業界のひとつだからだ。
NPDグループ(NPD Group)によれば、同業界の2020年の総売上高は前年比で19%減少しているという。ただし、スウェットパンツなど一部のカテゴリーは、売上高の2桁成長を記録している。
そしていま、新型コロナワクチン接種率が高まるにつれ、夏に向けてドレスアップを再び望むようになる顧客が増えるのではと、アパレル小売各社は期待している。ここ数カ月、アパレル小売の経営陣は収支報告の席で、ドレスなどのアイテムの売上が上向きつつあると、熱弁をふるっている。しかし全体を見ると、企業の大半は依然として、人々のワードローブがコロナ禍の前の状態に戻ることはないと見込んでいる。
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ジェーン・ハリ&アソシエイツ(Jane Hali & Associates)で小売リサーチアナリストを務めるジェシカ・ラミレス氏は、こう語る。「『狂騒の20年代』の再来が期待されているが、快適さが重要である状況は変わらないだろう」。
夏に向けて、アパレル小売各社の戦略はどのような変化を見せているのだろうか? デニム、アスレチックアパレルなどのカテゴリーに属するアパレル小売3社──リーバイス(Levi’s)、アーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters)、ギャップ(Gap)──が直近の収支報告で発したコメントから、その動向を占ってみよう。
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リーバイス:脱スキニージーンズ路線
パンデミックが発生して以来、リーバイスは苦戦を強いられてきた。その原因は、デニムに対する需要の減少だ。また、近いところでは、ヨーロッパにおける各店舗の再閉鎖も打撃となった。4月8日に行われた第1四半期の収支報告で、リーバイスは純売上高を前年比で13%の減少と発表した。
過去1年にわたり、ジーンズの売上が減少する一方で、リーバイスの総売上高の大部分はトップスが占めてきた。具体的にいうと、同社の第1四半期売上高の約5分の1をトップスが占めている(2015年の割合は11%だった)。
この傾向は今後10年続くと、リーバイスはにらんでいる。CEOを務めるチップ・バー氏は、今後、同社の売上の半分は「デニムボトム以外の製品」が占めるようになるのではないかと語る。
また同社は、スキニージーンズの人気が下がっていくことも見越している。同四半期にリーバイスでもっとも売れたデニムコレクションのひとつは、2020年初頭に発売されたハイライズ、ルーズフィットジーンズのラインだったと、バー氏は同収支報告の席で述べた。発売以来、リーバイスはこのコレクションの展開を通年に拡大している。
「消費者は、ゆるいフィット感と幅広のシルエットを支持している」と、バー氏は語った。「コロナ禍の出口が見えてきたいま、リーバイスを買う理由を消費者に与えてくれるのは、この新しいシルエットだ」。
アーバン・アウトフィッターズ:ドレスの復活?
アンソロポロジー(Anthropologie)、アーバン・アウトフィッターズ、フリーピープル(Free People)などのブランドを束ねるアーバン・アウトフィッターズ。ドレッシー系レディースアパレルの売上が減少しているパンデミックのなかで、同社も売上の減少に見舞われている。3月2日に行われた第4四半期の収支報告で、同社は純売上高を前年比で6.9%の減少と発表した。
CEOを務めるリチャード・ヘイン氏は同収支報告の席で、2月最終週にアンソロポロジー公式サイトでもっとも売れたアイテムのうち、7つがドレスだったことに勇気づけられたと述べた。「この1年、そこにドレスが1つか2つ入っていれば、ラッキーだった」と、同氏は語った。
「外へ出たい、友だちと再会したい、ディナーに行きたい、これをしたい、あれをしたい……そのような思いが、いまメディアで耳にしているあらゆることの影響で、強まりつつある」と、ヘイン氏は語る。「どのカテゴリーが売れるのかということに関していえば、アパレル業界は変化のときを迎えることになるだろう」。
「世界が少しずつ開かれていけば、ドレスが売れるチャンスの芽も出てくると、我々は期待している」と、ラミレス氏は語る。あくまで自分の意見としながら、このドレスの売上増の主な原動力になっているのは、ワードローブのアイテムの一部を入れ替えている女性客ではないかと、同氏は話す。
ギャップ:ライフスタイルウェア重視路線
パンデミック前から、ギャップは人気の低迷に悩まされていた。2019年、「ギャップ」ブランドの既存店売上高は前年比で3%減少し、同ブランドにとって過去最大となる売上減を報告することとなった。
コロナ禍にあっても「アスレタ(Athleta)」ブランドは好調を維持している。その一方で、ワークウェアの減少する売上は、ギャップ傘下でもっともフォーマルなブランド「バナナ・リパブリック(Banana Republic)」にも打撃を与えている。
3月4日に行われた第4四半期の収支報告で、ギャップは純売上高が前年比で5%減少したと発表した。CEOを務めるソニア・シンガル氏は同収支報告の席で、今後1年間、ギャップ傘下の4つのブランド、ギャップとバナナ・リパブリック、アスレタ、オールドネイビー(Old Navy)に対してさまざまな在庫投資が行われることを強調した。その目的は、これら4つを「目的主導型のライフスタイルブランド」として位置づけることだという。バナナ・リパブリックは1月、「ラクス・パフォーマンス・ウェア(luxe performance wear)」ラインをローンチした。同ラインを構成するのは、男女に向けたハイエンド寄りのレギンスやジャケット、セーターで、同ブランドは今後の成長の原動力として期待を寄せている。
オールドネイビーは今後、アクティブウェアやフリースなどのカテゴリーにフォーカスして、売上の拡大をめざしていくと、シンガル氏は述べた。ギャップについては、2021年前半は「イージー(Yeezy)」コレクションのローンチを主軸として、店舗への客足の回復に努めているという。
ギャップの戦略は、ほかの多くの小売企業の見方とも合致している。人々が再びディナーに出かけたり、バケーションに出かけたりするようになっても、彼らのワードローブの大部分は、依然としてカジュアルウェアによって占められるという見方である。
「消費者のライフスタイルは変わった。この新しい習慣がすべて消え去ることはないだろう」と、ラミレス氏は語った。
[原文:‘Comfort will still be king’: How apparel brands are mapping out their post-pandemic strategies]
ANNA HENSEL(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)