香辛料・調味料界最大手の米企業 マコーミック は7月前半、TikTokでヴィーガンレシピを紹介し、一躍人気者になったフードインフルエンサーのタビサ・ブラウン氏と手を組み、ブラウン氏のシーズニングブランド、サンシャイン・オール・パーパス・シーズニングを立ち上げた。商品は発売から1時間足らずで完売した。
香辛料・調味料界最大手の米企業、マコーミック(McCormick)がインフルエンサーの活用に本格的に乗り出している。
同社は7月前半、TikTokでヴィーガンレシピを紹介し、一躍人気者になったフードインフルエンサーのタビサ・ブラウン氏と手を組み、ブラウン氏のシーズニングブランド、サンシャイン・オール・パーパス・シーズニング(Sunshine All Purpose Seasoning)を立ち上げた。商品は発売から1時間足らずで完売した。
マコーミックがインフルエンサーと新商品を作るのは、今回が初となる。インフルエンサーとの同様の提携は、ファッション&ビューティブランド勢が以前から実施している一方――ダミリオ姉妹とホリスター(Hollister)とのコラボはその類例といえる――マコーミックとブラウン氏のコラボは、インフルエンサーの名を冠した商品、というビジネスモデルが他業界にも浸透しはじめたことを示している。
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マコーミックのクリエイティブ&デジタルマーケティング部門VPエイリア・ケメット氏によれば、同社によるこの発売が呼び水となり、同様の商品が数多く市場に登場する可能性もあるという。実際、香辛料・調味料を販売するほかのブランド勢は現在、売上を後押しするべく、ソーシャルプラットフォームにますます傾倒していっていると、同氏は語る。
米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)はこのたび、マコーミックの未来におけるインフルエンサーの役割について、ケメット氏に話を聞いた。なお、読みやすさを重視し、発言は端的にまとめてある。
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――タビサ・ブラウン氏とのコラボレーション実現の経緯は?
コロナ禍が起きてすぐ、私たちは当時作っていたコンテンツを見直すことになった。ファンによりダイレクトに語りかけることが必要だと思い、一緒に料理をしてくれるよう訴えた。まずはおもにインスタグラムを使い、クック・ウィズ・アス(Cook With Us)シリーズを文字どおり毎日更新し、自社商品を使った料理をアップしていった。
ちょうどその頃、全国の消費者たちはTikTokでタビサ・ブラウン氏に夢中になっていて、それは私たちのチーム自身も同じだった。それですぐに、彼女は私たちのパートナーとして相応しい、ぜひ一緒に仕事をしたいと考えた。彼女は自分の料理のやり方を強いるのではなく、「これは私が好きだからやっているだけ、決めるのはあなた」と、オーディエンスに投げかける。まずは何より、そこに強く惹かれた。彼女が発信するメッセージは、弊社のブランドのタグラインと合致していると考えた。
タビサ氏との最初のプロジェクトはFacebookライブだった。彼女は視聴者を自宅に招き入れるような演出とともに、マコーミックの商品を使ってガーリック好き向けのパスタを作った。するとこれが、とてつもないエンゲージメント率をたたき出した。これまでのどのライブでも見たことがないほど高い視聴率を記録したので、彼女とはまた仕事がしたい、もっともっといろいろやってみたいと考えた。
そうやって一緒に仕事をしていくなかで、オリジナルのシーズニングを作るのが彼女の夢のひとつだとわかり、それは面白い、我々となら実現できる、と。そこでさっそく共同で開発をはじめ、同氏のブランドであるサンシャイン・シーズニングを発売することになった。
――このようなことは以前にも? 有名人にマコーミックの新製品の開発を手がけさせたことは?
初めての試みだ。既存商品の販促に有名人を起用したことはあったが、シーズニングを共同開発したのは、今回が初となる。
共同のコンテンツを通じて、そして直接触れ合うなかで、タビサ氏の好みの味や香りがいくつかわかったので、専門メーカーとしてハイレベルなコンセプトはいくつか提供した。ただ、プロジェクトの方向性を定めたのはタビサ氏であり、彼女は弊社のラボに何度も足を運び、R&D(リサーチ&デベロプメントチーム)と協力し、テストキッチンで開発に取り組むなど、最終製品の完成に至るまで深く関わってくれた。商品ラベルには彼女の顔が載っている。今回重要視したのは、本当の意味で共同開発した商品にすること、つまり、自分の名前がマコーミックと並んでいることに彼女が誇りを持てるようにすることだった。
――ファッション界では、インフルエンサーに既存ブランドのなかで自身の製品ラインを発表させる手法が常道化している。香辛料・調味料業界も今後、それを取り入れていくと?
ご指摘のとおり、食品のフレーバーとファッションには共通点があると思う。その中心に、カルチャーや人々を惹き付けるものが存在するという点だ。あなたが服に強いこだわりを持っているのと同じように、人は自分が食べるものや好きな味に関しても、それがファッション以上ではないにしても、強いこだわりを持っているのではないかと思う。
いうまでもなく、料理と食事は毎日の生活の一部であり、したがって香辛料・調味料企業である我々は、自らをライフスタイルブランドと考えている。ソーシャルメディアにおいてそうした姿勢を前面に打ち出しているし、消費者をより良く理解するために、カルチャーのなかでいま何が起きているかを常に注視している。これまで、ほかにもさまざまなことを試してきた。マコーミックのブランドであるフレンチマスタード(French’s mustard)を使ったマスタード味のアイスクリームやビールもそうだし、同じく私たちのブランド、フランク・ホット・ソース(Frank’s Hot Sauce)とキャンベル(Campbell’s)のスナック菓子ゴールドフィッシュ(Goldfish)とのコラボもそうだ。後者を作ったきっかけは、ソーシャルメディアでフランク・ホット・ソースで味付けしたゴールドフィッシュを求める声があるのを知ったことだった。このように、ソーシャルスペースで何が起きているかに注意を払い、それに基づいて革新的なことをする準備をしておくことが大切なのだ。
――タビサ・ブラウン氏と結んだような、商品共同開発を基本とするパートナーシップは今後も続けていく? それとも、これは今回限り?
「人」に限定したくはない。コラボカルチャーやトレンドの見極めが、今日のリテール界においては、イノベーションを起こすための方法だと思う。それは間違いない。マコーミックがこの先目指しているのは、いかにトレンドを加速させる方法を探り、さまざまな個人と協力して商品を共同開発することかもしれない。ただ、それ以外にもたくさんのやり方があると思う。ひとりのインフルエンサーに限るのではなく、もっと幅広いものにできる可能性がある。自身の可能性を自ら限定したくはない。
――サンシャイン・シーズニングのような共同開発商品が、マコーミックの発展のために有効な手段だと示す具体的な数字は、すでに出ている? それとも、効果測定は時期尚早?
いや、すでに効果は出ている。実際、早くも大成功と断言できるし、すべての目標を達成したばかりか、上回ってもいる。たとえばD2Cビジネスに関しては、サンシャイン・シーズニングの発売初日だけで、2020年度の全収益を上回ることができた。
これは、単にタビサ・ブラウン氏に人気がある、というだけの話ではない。この結果は、カルチャーやカルチャー的に重要な瞬間、そして人々が夢中になっているものに寄り添い、それをブランドと結びつけていくべきだと考えている。今後もそうしていきたいと思う。
――TikTokのようなプラットフォームは、マコーミック製品を販売するうえでどれくらい重要だと考えている?
これらのプラットフォームはすべて重要だと思う。私たちは社内にコンテンツスタジオを持っているので、デジタルマーケティングに必要な素材はすべて自社で制作できる。フードスタイリング、ビデオ制作、編集、モーショングラフィックス、ハイブリッドフォトグラフィ――そうした技術はまさに財産であり、それがあるおかげで、俊敏に、費用対効果の高い形で動くことができる。
カルチャー的に重要な瞬間については特に、絶対に逃さないよう努めている。たとえば、トレンドのハッシュタグやコンセプトを素早く取り込み、我々のブランドと関連づける点において、私たちのチームは素晴らしい働きができている。これまでのところ、TikTokにおけるエンゲージメント率は極めて高い。実際、ほかの全チャンネルを288%も上回っている。これは、TikTokがアルゴリズムを最大限活用し、各ユーザーのFor You(おすすめ)ページに動画を有機的に送るからだろう。特にTikTokについては、今後も活用を続けていきたい。
――TikTokでのバイラルは、実際の売上にどの程度反映されている?
TikTokでの具体的な数字については何ともいえないが、いずれにせよ、ソーシャルメディア上だけで商品をローンチできるのは間違いない。タビサ・ブラウン氏と開発した今回の商品は、ソーシャル経由のみで売り出し、記録的な売上を収めた。2年前にも、オールド・ベイ・ホット・ソース(Old Bay Hot Sauce)をソーシャルメディア上だけで発売し、同じく即日完売となった。つまり、戦略的に行えば、ソーシャルには一般的に相当の売上をもたらす力があると考えている。
こうした動きを単なる話題づくりや、ただのキャンペーンと見る向きがあるのは知っている。しかし実際、これは有効なビジネス推進策にほかならない。
[原文:‘Collab culture is the way to innovate’: McCormick’s Alia Kemet on the company’s influencer strategy]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)