対応自販機21万台、「Coke ON」IoT革命のインパクト:日本コカ・コーラのデジタルマーケティング3.0

11月22日、ザ・リッツ・カールトン東京にて、DIGIDAY[日本版]初のオープンイベントとなる「HOT TOPIC」を開催した。テーマは「Data Driven & Content Marketing」。イベントを締めくくったのは、日本コカ・コーラの豊浦洋祐氏による講演「スマホアプリ『Coke ON』が目指すデジタルトランスフォーメーション」だ。

2016年4月にリリースした同社のアプリ「Coke ON」は、2017年11月末現在で600万DLを突破。9月に実施したリニューアルの成果も上々で、購買コンバージョンはリニューアル前後の3週間で5%も差がついた。「いまも毎日、何もしていない期間でもダウンロード数が伸びている。これにはチームも励まされている」と、豊浦氏は語る。

提示される数値は、どれも華々しい。しかしそれを支えているのは、全国のボトラー各社との連携だ。アプリ対応の「スマホ自販機®」をこれまでに21万台設置し、サンプリングとマストバイキャンペーンを随時企画し、自販機での購買者数が伸びないと悩めばユーザーに1対1のデプスインタビュー、さらに自販機の前で行動観察まで行なった、1年半の地道な努力だ。

いまや「Coke ON」は、毎日集まる膨大なユーザーデータを資産に、また企画のインスピレーションにして、同社のデジタルマーケティング自体を牽引している。その現状と展望をレポートする。

データは事業モデルも変える

企業がマーケティング目的でリリースしているアプリとして、「Coke ON」は間違いなく成功事例といえるだろう。その成果はDIGIDAY[US版]も認めるところで、2016年夏のリオオリンピック開催時、日本の公式アプリを使ったキャンペーンがコカ・コーラ全体のブランディングに大きく貢献した、と評された。

デジタルは、私たちの生活を大きく変えている。豊浦氏は、これらの変化を総称する「デジタルトランスフォーメーション」を、企業の目線で「ビジネスの活動やプロセスやオペレーション、あるいはビジネスモデル自体を、データやテクノロジーを使って抜本的に改善していくこと」と位置づける。

いままさに、日本コカ・コーラで進んでいるのが、「Coke ON」によるデジタルトランスフォーメーションだ。同社のデジタルマーケティングは、オウンドメディアに注力した2007年以降の1.0時代、ユーザーの移行に伴ってソーシャルメディアに軸足を移した2012年以降の2.0時代を経て、2016年からが「デジタル✕リアル」の新たなフェーズ、デジタルマーケティング3.0時代に突入。「それぞれで追求していたキーワードを挙げるなら、1.0はインプレッション、2.0はエンゲージメント、そして3.0はエクスペリエンス」と、豊浦氏は付け加える。

現代において体験というなら、スマホは欠かせない。「Coke ON」の開発背景にも、スマホシフトとアプリの存在感が大きく影響している。同時に、同社の重要チャネルである自販機ビジネスの持続可能性も課題に上がっていた。そこで、オフィス内自販機で、ICチップを導入したカードを用いてロイヤルティプログラムのテストをしたところ、目に見えて売上が上がったという。そこから、スマホアプリとIoT自販機というアイデアが固まった。

類を見ないサンプリングの形

「Coke ON」は現在、自販機の売上を上げたり、ユーザーに新たな楽しみを提供したりするだけでなく、毎日得られるユーザーデータに位置情報や気候の情報を重ね合わせることで、新規性の高い施策も生み出している。豊浦氏は「Coke ON」が実現するデジタルトランスフォーメーションを、次の4つにまとめる。

1つ目は、コアサービスである「スマホ自販機®」でのロイヤルティプログラム。前述のテストでは、10本に1本無料、15本、20本といくつかのケースを試し、15本に1本を無料にすることがもっともROIが高いと導き出して、サービスの本設定とした。「アプリが使える自販機が生活圏になければ、まったく役に立たない。対応自販機を全国に普及させるまでは苦労したが、21万台という数字はボトラー各社の努力の積み上げ」と豊浦氏。購買でいうと、非対応自販機と比べて3%以上の差がついているという。

主要エリアにおける「スマホ自販機®」の分布図

主要エリアにおける「スマホ自販機®」の分布図

2つ目は、サンプリングイノベーション。かつてメーカーのサンプリングは、流通や小売店との協力が必須だった。それが、「Coke ON」を介してユーザーに無料チケットを配信し、自販機で受け取ってもらうことで、完全にオウンドオペレーションで完結するようになった。さらに、属性や購買履歴を踏まえた精緻なターゲティングもできる。ほかのデータと掛け合わせれば、企画にも広がりが生まれる。スポーツ飲料ブランド「アクエリアス」では、ユーザーのいるエリアの気温が35度以上になったらサンプリングする、アクエリアス熱中症予防キャンペーンのチケット引き換え率が84%になった。「商品の便益をもっとも感じてもらえるシチュエーションでリアルタイムに提供するのも、いままではできなかったこと」と、豊浦氏は語る。

3つ目は、マストバイプロモーション。誰がいつどこで何を買っているかのデータがすべて取得できるため、特定ブランドの購入ユーザーにプレミアムコンテンツやクーポンを容易に付与できる。たとえば缶コーヒーブランドの「ジョージア」ではバンダイナムコをパートナーに、主要ターゲットの30-40代男性が喜ぶ80年代の人気テレビゲームを復活させた「ジョージア ゲームセンター」をアプリ内にオープン。「ジョージア」の購入態度ごとのターゲットと、広告クリエイティブ、出稿メディアの組み合わせでPDCAを回し、購買がもっとも伸びる出稿パターンへ寄せているという。

人気アプリを研究しCM制作

そして、4つ目は、ユーザー獲得だ。「アプリをつくるのは簡単。ダウンロードして使ってもらうことが、ものすごく大変」と、豊浦氏は強調する。弾みをつけた一因は、2016年末に公開したアプリのテレビCMと動画広告だ。「我々は飲み物の広告はするが、アプリの広告はしたことがない。だからこそ、確固たる地位を築いているニュースアプリや動画アプリのCMを研究し尽くした。動画広告ではタテ型ヨコ型、6秒から40秒まで、40種類のクリエイティブを制作してABテストをした」。自販機が直販ECチャネルのように機能し、どの媒体からダウンロードした人がどのくらい購買しているかもわかるため、効果を引き上げる道筋は明白だ。

俳優の山田孝之が登場するテレビCMのキャプチャー

俳優の山田孝之が登場するテレビCMのキャプチャー

いまでこそ知名度も高まり、何もせずとも毎日ダウンロードが増えている状況だというが、ユーザー獲得には苦労もあったという。ユーザーの行動に注目し、1対1のデプスインタビューやアプリ利用時の行動観察から改善点を見出した。「課題が分かればエクゼキューションは簡単だった」と、9月のリニューアルを実施した。目下、さらなるパーソナライゼーションと各ブランドのブランディング、そしてもっと使いやすくつながりやすいプラットフォームへと進化している。

豊浦氏は「Coke ON」が牽引するデジタルトランスフォーメーションについて、「これまではコミュニケーションに留まっていたマーケティングを、実際の売上や新たな体験をもたらすサービスの形にアップグレードしたことが大きなポイント」と語る。今後のデジタル活用は、きっちりとビジネス成果に貢献するかが判断のカギになるだろう。それは豊浦氏が仕事において大切にしていることにも通じる。

「本質的なビジネス目的に直結しなければ、誰も評価しない。同時に、生活者が5秒ほど聞いただけで『いいね、やりたい』といってくれるような直感的な施策でないと響かない。本質的で直感的であることが、非常に重要になると思う」。

Written by 高島知子