今回のGlossy+リサーチでは、リテールメディアの現状とマーケターの戦略におけるその役割の分析に焦点を当て、さらにチャネル内コンバージョンを超えたリテールメディアの可能性を示しているAmazonに着目する。このシリーズの今後のレポートでは、ほかのリテールメディアプラットフォームや異なるチャネルを取り上げる予定だ。最初のレポートでは、ソーシャルメディアの利用と予算に注目した。
ここ数年、リテールメディアは、マーケティングチャネルとしての人気が高まっており、小売企業自身もこのチャネルへの投資を拡大し始めている。少なくとも2019年以降、ターゲット(Target)は同社のメディアネットワークをラウンデル(Roundel)としてリブランディングし、ウォルマート(Walmart)は広告事業のためにアドテク企業のポリモーフラボ(Polymorph Labs)を買収、最近ではクローガー(Kroger)とアルバートソンズ(Albertsons)が合併を発表してリテールメディアを拡大する予定であるなど、小売業者が大きなチャンスを見出していることは明らかだ。そしてマーケターが飛びつく準備を整えている。
同時に、マーケティングチャネルは近年、個人情報保護規制の変化、マーケティングコストの増加、マクロ経済が消費者のマーケティング支出に与える影響など、その仕組みにいくつかの衝撃を受けている。ROIを徹底的に追求するなかで、できるだけ購入時点に近いところに広告を出すべく、多くのブランドがリテールメディアネットワークに目を向けている。
特に今年、リテールメディア広告の注目度は上昇の一途をたどっている。6月のカンヌで、オムニコム(Omnicom)はオムニコマース(Omni Commerce)のローンチを発表した。これは「コネクテッド・コマース・オーケストレーション・ソリューション」というもので、小売パートナーシップを活用することでマーケターにツールとコマースデータを提供する。オムニコム・トランザクト(Omnicom Transact)のCEOフランク・クチェナシュ氏は、同社の最初のステップは「スケーラブルで実施可能な方法で、適切なパートナーから適切なデータをキュレーションして接続する」ことだと述べた。
「我々はこれをオムニに直接統合し、これらすべてが接続されたひとつのプラットフォームとなるようかなり熟考してきた」と同氏は言う。「複数のボルトオンの構築や購入ではない。正しい方法でやろうとしている」。
マーケターが利用できる選択肢が増え、参入障壁が低くなるなか、リテールメディア広告は多くのマーケターの戦略における要となりつつある。
目次
・メソドロジー
・ほかのメディアに対するリテールメディアの優位性:購入時点でクリックできる
・リテールメディアにおけるマーケティングの障壁と報酬
・Amazonはリテールメディアにおける販売プラットフォームとブランド認知の機会という独自の二重の役割を果たしている
今回のGlossy+リサーチでは、リテールメディアの現状とマーケターの戦略におけるその役割の分析に焦点を当て、さらにチャネル内コンバージョンを超えたリテールメディアの可能性を示しているAmazonに着目する。このシリーズの今後のレポートでは、ほかのリテールメディアプラットフォームや異なるチャネルを取り上げる予定だ。最初のレポートでは、ソーシャルメディアの利用と予算に注目した。
ここ数年、リテールメディアは、マーケティングチャネルとしての人気が高まっており、小売企業自身もこのチャネルへの投資を拡大し始めている。少なくとも2019年以降、ターゲット(Target)は同社のメディアネットワークをラウンデル(Roundel)としてリブランディングし、ウォルマート(Walmart)は広告事業のためにアドテク企業のポリモーフラボ(Polymorph Labs)を買収、最近ではクローガー(Kroger)とアルバートソンズ(Albertsons)が合併を発表してリテールメディアを拡大する予定であるなど、小売業者が大きなチャンスを見出していることは明らかだ。そしてマーケターが飛びつく準備を整えている。
同時に、マーケティングチャネルは近年、個人情報保護規制の変化、マーケティングコストの増加、マクロ経済が消費者のマーケティング支出に与える影響など、その仕組みにいくつかの衝撃を受けている。ROIを徹底的に追求するなかで、できるだけ購入時点に近いところに広告を出すべく、多くのブランドがリテールメディアネットワークに目を向けている。
Advertisement
特に今年、リテールメディア広告の注目度は上昇の一途をたどっている。6月のカンヌで、オムニコム(Omnicom)はオムニコマース(Omni Commerce)のローンチを発表した。これは「コネクテッド・コマース・オーケストレーション・ソリューション」というもので、小売パートナーシップを活用することでマーケターにツールとコマースデータを提供する。オムニコム・トランザクト(Omnicom Transact)のCEOフランク・クチェナシュ氏は、同社の最初のステップは「スケーラブルで実施可能な方法で、適切なパートナーから適切なデータをキュレーションして接続する」ことだと述べた。
「我々はこれをオムニに直接統合し、これらすべてが接続されたひとつのプラットフォームとなるようかなり熟考してきた」と同氏は言う。「複数のボルトオンの構築や購入ではない。正しい方法でやろうとしている」。
マーケターが利用できる選択肢が増え、参入障壁が低くなるなか、リテールメディア広告は多くのマーケターの戦略における要となりつつある。
目次
・メソドロジー
・ほかのメディアに対するリテールメディアの優位性:購入時点でクリックできる
・リテールメディアにおけるマーケティングの障壁と報酬
・Amazonはリテールメディアにおける販売プラットフォームとブランド認知の機会という独自の二重の役割を果たしている
メソドロジー
マーケターの現在のデジタル戦略を明らかにするため、Glossy+リサーチは635人の回答者に、過去と今後の投資、マーケティングチャネルの戦術と嗜好、ビジネス上の課題に関する3つのアンケートを実施した。
またGlossy+リサーチでは、フォーカスグループと業種を超えたマーケティングエグゼクティブへの個別インタビューも実施している。
ほかのメディアに対するリテールメディアの優位性:購入時点でクリックできる
リテールメディア広告は成長中のチャネルであり、パンデミックによるオンラインショッピング行動の急増がほぼ持続しているため、デジタル小売分野は効果的な広告環境となりつつある。このチャネルが縮小する兆しもみえない。eマーケター(eMarketer)は、2024年までに米国のデジタルリテールメディア広告費は、2020年の208.1億ドル(約2.1兆円)から611.5億ドル(約8.6兆円)に増加すると予測している。
Glossy+リサーチの調査結果では、マーケターの3分の1以上がリテールメディア広告を利用していると回答している。これは、ディスプレイ広告とソーシャルメディアの利用に次ぐものだ(Glossy+リサーチの最初のCMOレポートでは、ソーシャルメディアへの支出の概観について取り上げている)。パンデミックの影響だけでなく、新たなデータ規制法が施行され、サードパーティのクッキーの廃止が間近に迫るなか、いま、まさにリテールメディアが脚光を浴びている。
CPG企業は、多くの場合、店頭広告を含むリテールメディアネットワーク(以下RMN)内の広告に注力していたため、もともとリテールメディアの広告スペースを独占していたが、家庭用品や電化製品といったほかの業界も、小売のアトリビューションやデータ機能を活用するために、このチャネルへの投資を開始している。
リテールメディアは会計時に実用的な適用がなされているため、小売業者はほかのチャネルにはない購買や買い物習慣の情報にアクセスすることができる。商品の購入日とともに、小売業者はコンバージョンを広告に直接関連づけることもできる。マッキンゼー(McKinsey)のパートナー、クエンティン・ジョージ氏は次のように述べた。「過去100年間、我々はインプレッションを配信する点でメディアを最適化してきた。リーチするつもりでいたオーディエンスにリーチしただろうか? ここでの変化は、いまやインプレッションをSKUレベルの売上に結びつけることができるようになったということだ。チェックアウトのカートではなく、クレジットカードでもない、ダイレクトな販売と結びついている。それは業界にとって信じられないほどの変革だ」。
リテールメディアが、マーケティングチャネル第1位のソーシャルメディアと競合するにはまだ道のりは遠いが、その明確な長所のおかげで急速に進歩を遂げている。ほかのチャネルに対するリテールメディアの明らかな優位性は、コマース用に構築されたサイトを通じて購買データにアクセスできることにある。「RMNの長期的な機会は、ブランドやカテゴリーの購入者に関する小売企業のファーストパーティデータを活用することにある」と、情報企業インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のプリンシパルリテール・eコマースアナリスト、アンドリュー・リップスマン氏は言う。
データプライバシーに関する法律が厳しくなり、Googleが2024年のサードパーティ・クッキーの廃止に近づきつつあるなかで、顧客の購買データを持つネットワークへのアクセスは将来的に魅力的な選択肢である。
リテールメディアにおけるマーケティングの障壁と報酬
個人情報保護法の強化に加えて、リテールメディアチャネル自体がマーケターにもたらす大きな懸念は、メディアのコストである。Glossy+リサーチの調査では、回答者の92%がメディアのコストが大きな懸念事項だと述べている。コストはどのチャネルでもマーケターの共通の懸念事項でもある。
だが、ダラー・ゼネラル(Dollar General)のCMO、チャド・フォックス氏によると、リテールメディアネットワーク(RMN)ではアトリビューションが取りやすく、ROAS(広告の費用対効果)をよりうまく理解できるのでコストの懸念が少なくなるという。「モデル・オーディエンスに対してファーストパーティ・データを活用しており、トランザクションがあるため、広告費に対して徐々に増加するリターンを広告主に提供できる」と同氏は述べた。「つまり、アトリビューションと増分性の両方を提供することが可能だ。したがってiROASという指標が、特定の広告主が求めているもの(これはパートナーによって異なる)のスイートスポットにある限り、CPMや媒体費は小さな問題だ」。
リテールメディアは、ほかのマーケティングチャネルよりも強力なコマースツールを備えているが、だからといって、ほかのチャネル、特にソーシャルチャネルが、自社のプラットフォーム上で小売業者の広告戦略を模倣しようとすることを妨げてはいない。Meta(メタ)や他企業は、既存の広告ツールに付随して、インスタグラム・ショッピングやTikTokショップといったソーシャルコマース・オプションの構築に多額の投資を行ってきた。しかし広告を伴うソーシャルコマースツールには、ショッピングサイトのユニットや機能と類似しているにもかかわらず、RMNに比べると異なる強みとユースケースがある。どちらもユーザーのコンテクストに基づくものだ。
ソーシャルメディアの受動的なスクロールは、ブランド認知とエンゲージメントの構築に適しているが、RMNでのより意図的な行動は、オウンドプラットフォームでの低ファネルの売上を牽引する。「Facebookやインスタグラムにいる人は、必ずしも買い物をしようという気持ちでいるわけではない」と、UMワールドワイド(UM Worldwide)の米国コマース責任者であるエイミー・オーウェン氏は述べた。「だが、ウォルマート、クローガー、あるいはAmazonを利用しようという場合、探しているものを見つけようという気持ちになっており、そのサイトを検索プラットフォームのように利用している」。
このことは、マーケターの回答者の大多数が、インプレッションやエンゲージメントのような認知度の指標ではなく、コマースや売上を介してリテールメディアの成功を測定していると回答していることにも反映されている。95%のマーケターが、コマースや売上が成功の主要な測定基準であると述べたのに対し、インプレッションとエンゲージメントと回答したのはそれぞれ12%と5%だった。
2022年のマッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company )の調査によると、広告主の約70%が、ほかのチャネルよりもRMNの方がパフォーマンスがよいと考えており、このチャネルがほかのチャネルよりも売上につながるか、少なくともさらなる売上に直接貢献していることを示している。RMNの運営者も、広告主にとって成功していると述べている。インスタカート(Instacart)のCMOであるローラ・ジョーンズ氏は、「当社が目にすることのひとつは、CPGパートナーのROIだ」と話す。「それに、たとえばABテストやリフトテストなど、当社のプラットフォームで測定できるような多くのツールをパートナーに提供している。(あるパートナーは)ひとつのキャンペーンで売上が35%増加した。平均して当社の広告は、ブランドパートナーに15%以上の売上増加をもたらしている」。
とはいえ、RMNの利点にもかかわらず、Amazonやその他のネットワークへの支出は2022年から2023年にかけて減少している。これは、景気動向や消費者支出の減少への懸念が原因となっている可能性がある。あるいは些細なことだが、最近AmazonがCPM0.01ドルから支出の2.5%への価格変更を発表したことによるのかもしれない。Glossy+リサーチのYoY調査では、支出は2022年に平均相対支出額でAmazonが1.23ポイント、他の小売サイトが1.10ポイントだったのが、2023年にはAmazonは0.58、他の小売サイトは0.67に減少した。マーケターからの資金引き上げがあったとしても、RMNはいまもなお、今後多くのCMOの戦略の要となる道を歩んでいる。
Amazonはリテールメディアにおける販売プラットフォームとブランド認知の機会という独自の二重の役割を果たしている
いまのところ、リテールメディアを語る上で明らかな主役はAmazonであり、回答者の76%が自社製品の販売にAmazonのプラットフォームを利用していると答えている。しかしまた他のリテールメディアネットワーク(RMN)と比較すると、Amazonは独自の二次的役割も担っている。多くのマーケターはいまではAmazonで販売するかどうかに関わらず、自社ブランドの認知度向上のためのプラットフォームとしてAmazonを利用している。
販売プラットフォームとして、アマゾンは膨大な量の消費者データを収集しており、他のRMNよりも優位に立っている。ウェブ分析会社シミラーウェブ(SimilarWeb)によると、Amazonは、Google、YouTube、Facebookに次いで、米国で4番目に訪問者の多いウェブサイトであり、eコマースとショッピングマーケットプレイスではもっとも訪問者の多いサイトだ。月間のサイト訪問者数は、5月だけで全世界で23億人と膨大なため、Amazonはさまざまなオーディエンスの関心とともに幅広い層からデータを収集することができる。つまりAmazonはブランドに対して、他のRMNよりも多くの消費者とそのデータへのアクセスを提供することができ、リテールメディア・パートナーとして、規模の点で第1位の地位を築いている。
マーケターが自社製品の認知度を高めるためのプラットフォームとしてのAmazonの二次的な役割が台頭しつつある。定期的にAmazonを訪れる膨大な数の消費者は、購入するためだけでなく、Googleを利用するのと同じように新しい商品を発見するための検索エンジンとしてもAmazonを利用している。多くのマーケターがこの閲覧傾向に注目し、Amazonという巨大小売企業のウェブサイトを単なるコマースプラットフォームとしてではなく、消費者の前に購入を検討してもらいたい商品を置くための場として利用し始めている。アマゾンでは販売していないブランドも、ブランド認知度を高めるために同サイト上に広告を購入するのが一般的になりつつある。
取材当時ベライゾン傘下のビジブル(Visible)のCMOで、現在はベライゾン・バリュー(Verizon Value)のCMOであるシェリル・グレシャム氏は、同氏の会社では他の小売業者と提携しているにもかかわらず、Amazonの広告に価値を見出していると述べた。「私たちのブランドの多くは、ウォルマートで独占的に販売されている。当社にとって、Amazonは購入するためにクリックする場というよりも、認知度向上のための役割の方が大きい。商品はオンラインかウォルマートの店頭でしか販売されていないかもしれないが、特定のオーディエンスへの認知度を高めるためにAmazonの広告を利用している。ESPNやMetaを利用するようなものだ」。
ブランド認知の手段としてAmazonを利用するマーケターが増えていることを受け、Amazonは大企業向けにカスタム広告サービスのオプションを提供し始めた。この小売大手は、たとえAmazonのサイトで販売していなくてもブランドの広告費を獲得しようと努力している(インサイダー・インテリジェンスによると、Amazonは巨大な消費者基盤のおかげで他の多くのRMNとは一線を画しているが、現在、世界の広告売上に占めるAmazonのシェアは現在7.5%に過ぎず、Googleのシェア28.4%、Facebookの13.4%には遠く及ばない)。
たとえば、ヒュンダイ(Hyundai)はAmazonと提携し、オンラインショールームのエボルブ(Evolve)をローンチした。このショールームでは、消費者はAmazonで車両を閲覧することができるが、購入するには地元のヒュンダイ販売店に誘導される。ヒュンダイ・モーター・アメリカ(Hyundai Motor America)のCMOであるアンジェラ・ゼペダ氏は、自動車メーカーはAmazonで自動車を販売していないが、ヒュンダイはオーディエンスへのリーチと広告ターゲティングの能力を理由にAmazonでマーケティングを行っていると述べた。
「Amazonは最大のショッピング・プラットフォームであるため、当社が利用する大きな小売チャネルのひとつだ」と同氏は言う。「オンラインでのショッピング体験を望む消費者のために物事を加速させたかった。販売店の在庫はすべてAmazonで購入できるようになった。最終的には(消費者は)販売店のウェブサイトに移動して取引を行うが、当社は実際にAmazonをプログラマティック・バイイングや顧客ターゲティングに利用している」。
巨大な消費者基盤と、バーチャル・ショールームなどのアプリケーションを含む洗練されたアドテクを提供するAmazonは、あたかもリテールメディアのより進化した形態である独自のマーケティングチャネルであるかのように運営されている。このプラットフォームはリテールメディアネットワークに分類されるが、Google、YouTube、Facebookといった他のチャネルのプラットフォームと競合している。
現在、Amazonは確かにマーケターにもっとも利用されているRMNだ。だが、さらに多くの企業がブランド発見のためにRMNの利用を拡大し始めていけば、他の小売企業もRMNを同じように活用するようになるかもしれない、とクリスタルレストラン(Krystal Restaurants)のCMO、ケイシー・テレル氏は指摘した。「(小売業者のサイトを)訪れる人は非常に多いので、一般的な認知戦略は成長していくだろう」と同氏は言う。「Amazonは主要なプレイヤーのひとつなので、我々は現在、CTVやOTTとともにAmazonと多くのことを行っている」。
リテールメディア広告に関する次回のCMO戦略レポートでは、Glossy+リサーチは、ウォルマートコネクト(Walmart Connect)、ターゲットメディアネットワーク/ラウンデル(Target Media Network/Roundel)、イーベイアドチョイス(eBay AdChoice)などほかのリテールメディアプラットフォームを深く掘り下げ、相対的な長所と短所を比較し、新たなマーケティング機会を紹介していく予定だ。
[原文:CMO Strategies: How retail media has become a growing channel]
LI LU(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)