印刷媒体、SNS、動画など顧客接点は増える一方だが、媒体ごとの予算は厳しくなっていく。そんななかで化粧品ブランドのクリニーク(CLINIQUE)は、限られた予算で最大限の効果を上げるために、「どのプラットフォームにも使えるフリーサイズのクリエイティブは存在しない」という従来の先入観を捨てた。見出した活路とは?
化粧品ブランドのクリニーク(CLINIQUE)はGoogleと提携し、広告の費用対効果の向上に取り組んでいる。
クリニークは9月、新しいリップスティック製品のプリント広告キャンペーンをもとに、6秒間のバンパー広告を制作した。バンパー広告とは、YouTubeで動画の前後に再生される短尺の広告のことだ。
クリニークの社内チームは、Googleのクリエイティブ部門アンスキッパブル・ラボ(Unskippable Labs)と提携。プリント広告用のスチール写真に鮮やかなカラーや動く唇などのアニメーションを加えることで、ビジュアルを際立たせた。
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クリエイティブ流用で効果大
クリニーク北米法人シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー、デニー・ダウンズ氏によると、同社マーケティング予算はメインキャンペーンとサブキャンペーンで分け合っており、限りがあるという。予算の半分以上は、ブランド収益の大半を生み出す製品ラインを扱うメインキャンペーンに投じられる。同社の主力製品はモイスチャライザーとファンデーション。これらの製品を扱うメインキャンペーンでは、テレビ、ネット、印刷媒体、店頭などの媒体に向けてさまざまなクリエイティブを制作する。一方、新しいカラーのリップスティックなどを扱うサブキャンペーンでは通常、店頭、印刷媒体、ソーシャルメディアに向けて写真広告を制作する程度。あとは口コミと検索に依存する。
「コンテンツマーケターは動画の絶大な力を聞き及んでいるが、優れた動画広告を作るには多大なコストがかかる」と語ったのは、美容ブランドのYouTube戦略を手がけるピクサビリティ(Pixability)カスタマーサクセス担当バイスプレジデント、ジャッキー・スワンズバーグ・パウリーノ氏だ。「潤沢な資金があるブランドでも、いま作らなければならないコンテンツ量を考えると、コストを抑える必要がある」。
顧客接点が増える一方で媒体ごとの予算はますます限られていくにもかかわらず、クリニークはこれまで、「どのプラットフォームにも使えるフリーサイズのクリエイティブは存在しない」というコンテンツマーケティングのルールに従っていた。だがGoogleの担当者によると、クリニークの6秒動画広告は、ひとつの製品に焦点を絞り、同社のプリント広告と同じような体裁を取っている場合にもっともよいパフォーマンスを発揮したという。クリニークなどのブランドのYouTube広告制作を手がけるGoogleアンスキッパブル・ラボの広報担当者ミーガン・ハラー氏は、デジタルキャンペーンを打つたびにまったく新しいコンテンツをわざわざ作り出さなくても良いことを、ブランドに示すことが自分たちの仕事だと語った。
先入観を捨てる必要があった
クリニークの場合、クリエイティブリソースのコスト削減を最優先しなければならなかった。具体的な金額は明かされていないが、ダウンズ氏は、オリジナル動画広告の制作には、オリジナル写真広告と比べてより多くのリソースが必要だと語った。
「同じコンテンツクリエイティブをただ別のフォーマットにするだけでは駄目なのだと自分たちに言い聞かせてきたが、その先入観を捨て去る必要があった」とダウンズ氏は述べた。「我々はメインキャンペーンで、複数のプラットフォーム向けに多数のコンテンツを制作している。あるコンテンツを最小限の投資で再利用できるかもしれないというアイデアは、検討に値する。コンテンツ制作にかけられるコストはますます限られてきたのだから」。
Googleによると、クリニークのバンパー広告の場合、同社の通常のプリント広告と比べて広告記憶が70%、商品認知が26%上昇した。もっともパフォーマンスがよかった広告は、もとになったプリント広告の外見にもっとも近い動画だった。
流用前提でクリエイティブ制作
「チームにかかるプレッシャーはかなり軽くなっている。出稿媒体が増えたのに、投入できる資金は足りなかったからだ。サブキャンペーンでは、これまでは予算の制約をただ受け入れるしかなかった。これからは、前向きにやっていける」
出稿媒体が増えることで、クリニークのプリント広告へのアプローチが変わろうとしている。ダウンズ氏は、同社のプリント広告はいずれ動画アニメーションを見据えて制作されることになると語った。プリント広告は、同社のメディア関連予算ではもっとも少ない額を割り当てられているが、それでも高いレベルの認知を目指すにはいまだに重要だという。
「我々の顧客は依然として雑誌を読んでおり、我々にとってプリント広告は終わってはいない。ただ、顧客のエンゲージメントが一番得られるのは動画広告だ。いまでは、以前ほど高いコストをかけずにすむ」とダウンズ氏は語った。
Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)