自称「ビジネス界のマイケル・ベイ」、長年広告業界で実績を積み、業界のオピニオンリーダーとして注目されるシンディ・ギャロップ氏。広告業界のセクハラ問題でも積極的な発言を続け、女性やマイノリティなどボトムアップからの変革を促す。「業界の古い体質を変えたい」と、リスクを恐れずエネルギッシュに活動するその想いに迫った。
女性に向けて力強いメッセージを送るシンディ・ギャロップ氏は、長年広告業界に身を置き、自らチャレンジャーとしての生き方を体現してきた女性だ。英大手広告代理店BBHから業界のキャリアをスタートさせ、その後、同社米国支社をニューヨークに立ち上げ、会長職まで登りつめた。現在は、「MakeLoveNotPorn(ポルノではなく正しい愛やセックスについて語るサイト)」や「IfWeRanTheWorld(賛同者によるマイクロアクションで目標達成を目指すサイト)」を運営する起業家として活動。エージェンシーを離れたあとも業界への発言力が強く、Twitterでフォローすべき広告業界人の第1位にも選出されている。
「広告を心から愛している」と公言するギャロップ氏。だからこそ、いまだに古い体質がはびこる広告業界を変えたいという想いが強い。米映画業界の大物プロデューサーによるセクハラ告発から各業界に広まった「#MeToo」の活動について同氏は、業界の古き風習を打ち破るためにも、女性たちへ積極的に声を上げるよう促している。
これまで泣き寝入りを強いられてきた女性やマイノリティを支援することで、トップダウンではなく、ボトムアップから変革を起こそうとするのが彼女の狙いだ。社会を変える化学反応を生み出すイベント「MASHING UP」(2月22日、23日開催)に登壇した同氏に、広告業界に対する想いや女性へのメッセージを含めて話を聞いた。
Advertisement
目的あってのプラットフォーム
「目的が戦略を先導すべき。巨大なテックプラットフォームの威力に踊らされて、広告業界は重要なチャンスを取り逃がしている」と、ギャロップ氏はインタビュー冒頭に切り出した。
GoogleやFacebookなど、その力の大きさに目移りするのはわかるが、ブランドは自社が「何をやりたいのか」、その目的をまず明確にしなくてはいけないと、彼女は語る。そのうえで、目的を達成するためにどのテクノロジーがもっとも適しているかを判断すべきなのだ。
「ブランドにしろエージェンシーにしろ、FacebookやSnapchatに対して、『お金を払うから、あなた方のプラットフォームに載せて。そこで、何をしたらいいか教えて』と、懇願してる。これでは本末転倒だ」。
特に、これが広告において問題なのは、「プラットフォームは広告が大嫌いだから」と同氏は指摘する。たしかに巨大なプラットフォームに成長したGoogleやFacebookも、創業当時は「広告は絶対にやらない」と宣言していた。しかし、上場を成し遂げ、企業や事業の規模が拡大するにつれ、収益性の面で広告に手を出さざるを得なくなったのが実情だ。
「プラットフォームにとって、広告はいわば『必要悪』。広告が嫌いで、広告の魅力を存分に引き出せるわけがない」。

「広告嫌いのプラットフォームに負けるわけがない」
広告を愛するものこそ強い
「私がよくブランドに言うのが、『Blue Sky It!(ブルー・スカイ・イット)』。つまり、いま目の前にあるテクノロジーやプラットフォームに関係なく、5年後、自分たちがどういう世界を実現したいのか、そこでどういうブランドでありたいのかを構想しなさいということ」。
AmazonのEchoやAlexaに見るように、放っておいても技術やプラットフォームは進化する。それならブランドが、「私たちはこうしたい。だから、君たちのプラットフォームでこれを実現できるようにしてほしい」と、逆にプラットフォーム側に提案しにいくのが本筋だ。
「私は、広告が大好きで、この業界を愛している。ブランドやエージェンシーも同じはず。広告を愛しているからこそ、情熱とクリエイティビティを注ぎ込んだイノベーティブな広告ができる。これはプラットフォームには決してできないこと」。
ボトムアップでなきゃ、変えられない
広告業界を愛しているからこそ、彼女が積極的に取り組むのが、業界構造の変革だ。
「忘れらない会議がある。エージェンシーに勤めていたころ、役員レベルが集まる会議があったが、偶然男性役員が全員欠席し、女性だけの会議となった。権力争いもなく、お互いを気遣い、意思決定も早く、非常に建設的な会議となった。そのとき、女性の秘められた可能性に気づき、もっと会社や社会のリーダーになるべきだと確信した」と、ギャロップ氏は振り返る。
ただ一方で、同氏は数年前にAdweekに登壇した際、「トップダウンで業界を変えることを諦めた」と宣言している。「ボトムアップでなければ変革できないと気づいた。私が女性や多様な人種がリーダーになることを支援するのは、まさにそのための活動だ」。
日本も含め、女性への共通したメッセージは、「起業しなさい」というひと言に尽きる。なぜなら、いまの社会や組織の構造では男性が上位に君臨しているためだ。
「トップダウンでは変わらない。つまりトップに男性がいるなら変革のしようがないということ。女性は組織を出て起業し、自らがリーダーになるべきだ。『Start your own “AGENCY”(自分の”エージェンシー”を立ち上げなさい)』と、いつも言っている」。

日本の女性へのメッセージを伝えるギャロップ氏
アド×テクノロジーの未来構想
広告業界を素晴らしいものにしたいという想いが、業界への積極的な提言、女性やダイバーシティ支援に力を注ぎ、業界構造をひっくり返そうとする彼女の活動に通じている。
「広告とテクノロジーを繋げる。これは私がずっとやりたかったことで、いまとてもわくわくしている」。
最後に日本の広告業界へのメッセージをくれた。「日本は、電通や博報堂など大手代理店の存在感が大きいという意味では特殊だ。ただこの数年、より小規模なクリエイティブエージェンシーやパートナーが増え、新たな可能性を感じている。日本はクリエイティブやイノベーションという点で優れており、もっと世界に日本ができることを発信していってほしい」。
Written by 亀山愛
Photo by MASHING UP