「スキャムサイトをヒントに D2C 販売モデルを確立した」:中国アパレルOEM生産者の告白

インスタグラムなどで、見慣れない名前のアパレルブランドの広告を目にしたことがないだろうか。これらのブランドのなかには、欧米のD2Cブランドに混じってアパレルOEM生産を手がけてきた中国の企業も存在する。ただし、後者はD2Cブランドを目指しているわけではなく、効率とコストを突き詰めた結果D2C的アプローチに達したようだ。

匿名性を保証する代わりに本音を語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回は中国のアパレルOEM生産企業の幹部に話を聞いた。コロナショックを受け需要・供給の両面でブレーキがかかった感はあるものの、新型コロナウィルス感染症の拡大によって外出が制限され、リアルリテールからオンラインへの急速な「回帰(あるいは進歩)」が進むなか、事態が収束すればむしろ成長の機会が訪れるという。

なお、読みやすさと文字数を考慮し、発言には多少編集を加えてある。

ーーあなたたちの「D2C」事業について聞きたいが、そもそもはどのような事業を?

我々の主事業はアパレルブランドのOEM生産だ。端的に言えば下請けの製造工場であり、あなた方の着ている服に記載された「made in china」がまさに我々になる。日本や韓国、アメリカなどのブランドから注文を受け、製造を続けていくなかで、コストの上昇や競合の増加など課題も多くなってきた。何か新しい事業をはじめる必要に迫られた。

正直なところD2Cというのはよくわからないが、消費者と直接つながりたいという意識はあまりない。これまでの事業で蓄積してきた生産ノウハウやデザイン、パターンの技術などを何か違った形で活用しようと考えたとき、自分たちでオリジナルの商品を生産・販売するのが一番適していると考えた。主事業とは別に取り組む事業なので、手間やコストがかかる店舗展開や卸売もしないことが前提で、最初から自分たちのECサイトで展開すると決めていた。ただ、オリジナル商品を作って中国国内で売るだけでは、結局激しい競争のなかに飛び込むだけで、状況が変わらない。

どうすべきなのか悩んでいたときにヒントになったのは、2017〜2018年ごろに中国の悪徳業者などが主にアメリカ向けにインスタグラムで仕掛けていたスキャムサイトだ。存在しないECサイトや有名ブランドの商品を格安販売しているかのような広告を展開し、個人情報を不正に取得したり、詐欺を行っていた。これ自体は単なる犯罪で真似をしようとは微塵も思わなかったが、SNS上でうまく広告を運用し、クオリティの高いサイトを用意すれば、国外からの集客は実現できるという事例は面白い。我々の商品を販売する余地もあると考えた。そこでShopifyを利用してECサイトを構築し、Facebookとインスタグラムで広告を展開するという手法を取ることにした。

ーー面白い考え方だが、無名のブランドを販売するのはかなり難しいのでは。

重要なのは、我々は別に新興アパレルブランドとして名乗りを挙げたいわけではないということだ。莫大な収益を期待していたわけではない。用意していた商品もいわば片手間に生産していた。ブランドからの受注は365日24時間入り続けるわけではなく、シーズンや切り替えタイミングなどがある。ラインの効率化を進めて余力をうまく使いながらオリジナル商品を生産し、その生産分をしっかりと売り切ることを目指した。そこそこの価格で、ファッションコンシャスが「この価格なら試してみてもいい」と思える商品をオンラインで販売する。

ターゲットもファッションコンシャスが多く消費者が成熟している日本や韓国に限定した。前述の通り中国市場は競争が激しすぎるうえ、まだブランドのネームバリューが物を言う。欧米圏も多少は視野に入れていたが、サブターゲットといったところだ。日本・韓国市場のトレンドは受注を通しておおよそ把握はできていたし、好まれるパターンやサイズ感もアジア圏のほうが明確だった。最初から中文サイトは作らず、英語と韓国語、日本語にしていた。

ーーなるほど。実際の商品はどのようなものを? 戦略は重要だが、商品の質も同じくらい重要なはずだ。

商品のクオリティも最高とは言わないが中程度のものを目指し、価格はユニクロ(UNIQLO)より高めの設計にして、いわゆる「中の上」的なポジションを意識した。理由はいくつかあるが、まず低品質・低価格な商品を売るスタイルでは大量生産が必要になる問題がある。大量に在庫を抱えるようなリスクは負いたくなかったし、そんな商品はマスクや消毒液でもない限り売れるわけがない。

その逆にモードな服やファッションコンシャスな消費者が好む服は、デザイナーやパタンナーを手配しなければ我々には生産できないし、仮に生産できたとしてその価格はハイブランド並みになる。あなたが聞いたこともないブランドの気になる服があったとして、その価格が10万円だったら「やめておこう」と考えるだろうが、7000円であれば一考の余地はあるはずだ。

また、極端にトレンドに左右されるものも生産数や実売の予想が難しい。生産力の余剰分を利用している性質上、生産ラインをフレキシブルに変えてトレンドに対応することも困難だ。そこで、ある程度の普遍性がありパターンや素材で変化を出せるもの、たとえばカーゴパンツやチノパンなどのトラウザー、Tシャツ、スウェットなどに商品は絞っていた。

ーー確かにルックブックを見ると、それなりのブランドの商品といった印象だ。SNS上で広告を見たら、試しに見てみようとは思うかもしれない。

アパレルで重要なのは「見せ方」の工夫だ。どれだけ良い商品でも、見え方が良くなければ誰も興味を持たない。詳細は我々の企業秘密としておきたいが、生産から販売まで一貫して一定のイメージが維持できるよう、ストリートファッション風、オフィスカジュアル風といったように、一種のテーマを決めていた。たとえばストリートファッション風の商品ならアメリカ西海岸のようなイメージで欧米人モデルを使ってクオリティの高い商品写真を用意する。ShopifyのECサイトもSNSでの広告も、すべてこのテーマに沿って構成していく。このテーマは広告のターゲット設定にも利用していてた。サイトや商品写真、広告はテーマごとに作り変えており、一連の流れのなかでもっともコストをかけていたところかもしれない。

この方法はかなり有効で、我々をアメリカのブランドだと思った購入者も少なくなかったようだ。政治的にも市場的にも中国の企業であるということは微妙なところではあるので、ネガティブな反応があることや購入者の反発を招いて失敗する覚悟もしていたが、欧米圏の購入者からも「思っていたより価格と質が見合っている」という評価を得た。売上全体に占める割合は10%前後に過ぎないが、成功したと言えるだろう。少なくとも、コロナウイルスの問題で世界が一変してしまうまでは、そう考えていた。中国内の流通の混乱や都市封鎖によって我々の工場を停止せざるを得なくなり、残念ながらすべては白紙に戻ってしまった。

ーーいまコロナウイルスはリアルからオンラインへの急速な変化を起こしている。あなた方の「手法」を活かす機会も増えるのでは。

いまはまだ、我々の生産能力の回復に努めている段階で、あまり多くのことを考える余裕はない。しかし、今後の世界経済の行方を想像すると、ブランドからの受注も減少する可能性は大だ。そうなったとき、このD2C事業というものが我々の助けとなるかもしれない。事業として独り立ちするには改善すべき点も多い。たとえば、広告コストもSNSのみとはいえFacebookとインスタグラムが廉価なわけではなく、検討の余地がある。売り上げを増やすためには生産量を増やす必要もあり、設備投資はもちろん、決められた量を必ず売り切るという事業の前提そのものを考え直す必要も出てくるだろう。

だが指摘の通り、これからECは世界的に活況を見せるはずだ。ジャック・マーやベルナール・アルノーになろうとは思わないが、我々が一生産者から一ブランドへとなるチャンスはあるだろう。

Written by 分島翔平