この記事では、メジャーな eスポーツ のなかでもとりわけ有名なeスポーツイベントを、ゲーム作品別に紹介する。また、いくつかの小規模なeスポーツイベントも取り上げている。
8月26日、eスポーツリーグの「オーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League)」は、新型コロナウイルスのデルタ株への懸念から、9月に予定していたプレーオフとファイナルのライブイベントを取りやめることを明らかにした。
ブリザード・エンターテイメント(Blizzard Entertainment)で、オーバーウォッチ・リーグのeスポーツ担当バイスプレジデントを務めるジョン・スペクター氏は、「ポストシーズンの計画を発表した当初から、情勢は大きく変化した」と述べたうえで、「チームとの協議を続けた結果、すべてのチームがフルメンバーで米国に渡航できるという確信が持てなくなった」と語っている。
この発表を受け、世界中にいるオーバーウォッチのファンから落胆の声が上がったが、このことは、この1年間ソーシャルディスタンスを保ちながらイベントを継続してきたeスポーツ界でも、大規模な対面イベントの重要性は変わっていないことを示している。2020年に開催された大規模なeスポーツイベントの多くは、パンデミックに見舞われながらもオンライン化することで中止を免れたが、熱狂的な観衆や満員のスタジアムがもたらす熱気は見られなかった。eスポーツの認知度や人気がまだ確固たるものになっていない黎明期は、そうした熱気がeスポーツイベントに正当性をもたらすのに役立ったのだ。
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いまでは、隠遁生活でも送っていない限り、eスポーツの文化的な影響に少しも気づかずにいられる人はいないだろう。「Dota 2(ドータ2)」の「ジ・インターナショナル(The International)」や「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」の「ワールド・チャンピオンシップ(World Championship)」といったイベントでの観客の熱狂ぶりを見れば、競技ゲーム市場の大きさと成長ぶりがわかるはずだ。パンデミックが収束し、対面イベントが本格的に復活すれば、こうした有名イベントのチケットはすぐに完売する可能性が高い。
知名度の高いeスポーツは、開発者からの資金援助を得て発展してきた。大規模なeスポーツイベントの多くは、アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)、ライアット・ゲームズ(Riot Games)、エピック・ゲームズ(Epic Games)などのゲームパブリッシャーが所有し、運営している。唯一の例外は、「カウンターストライク:グローバル・オフェンシブ(Counter-Strike: Global Offensive)」だ。このゲームの大会は複数の種類に分かれており、どれもサードパーティ企業が運営している。開発元のバルブ・コーポレーション(Valve Corporation)は、これらの大会を常に後援するわけではない。
この記事では、メジャーなeスポーツのなかでもとりわけ有名なeスポーツイベントを、ゲーム作品別に紹介する。また、いくつかの小規模なeスポーツイベントも取り上げている。
Dota 2
賞金額から見れば、最大のeスポーツイベントはジ・インターナショナルだ。この大会は、マルチプレイヤー・オンライン・バトルアリーナ(MOBA)ジャンルのゲームであるDota 2で、もっとも権威あるチャンピオンシップイベントでもある。Dotaファンのあいだで「TI」という愛称で呼ばれるジ・インターナショナルは、トーナメントのチケットと「バトルパス」と呼ばれるゲーム内コンテンツから得られた収益を、賞金の一部に当てていることもあり、eスポーツの賞金総額ランキングを毎回更新している。
2020年のジ・インターナショナルはパンデミックの影響で開催されず、2021年は開催時期が通常の8月から10月に変更された。2019年の大会では、賞金総額がeスポーツ史上最高の3400万ドル(約37億4000万円)強に達し、2018年の2500万ドル(約27億5000万円)から1000万ドル(約11億円)近く跳ね上がった。過去には、バンクーバーのロジャーズ・アリーナや、上海のメルセデス・ベンツ・アリーナといった大規模会場で大会が開かれ、イービル・ジーニアス(Evil Geniuses:2015年)、チーム・リキッド(Team Liquid:2017年)、OG(2018~2019年)などのチームが、歴代のチャンピオンとして名を連ねている。
フォートナイト(Fortnite)
賞金額の面でジ・インターナショナルの唯一のライバルといえるのは、「フォートナイト・ワールド・カップ(Fortnite World Cup)」だ。2019年7月に、ニューヨーク市クイーンズ区にあるアーサー・アッシュ・スタジアムで開催されたこのイベントは、バトル・ロイヤル・タイトルのフォートナイトにとって、もっとも権威ある大会だった。賞金総額は3000万ドル(約33億円)と、当時のeスポーツ界で最高額に達し、ブーガの名で知られる当時16歳のカイル・ギアスドルフ氏が、ソロの決勝戦に勝って300万ドル(約3億3000万円)の賞金を手にした。また、デュオや有名人が登場する「セレブリティ・プロアマ(Celebrity Pro-AM)」イベントなど、ほかのカテゴリーの優勝者にも同じように賞金が授与された。
だが、いまのところフォートナイト・ワールド・カップは1度しか行われていない。エピック・ゲームズ(Epic Games)はこのイベントを毎年開催する構想を持っていたが、新型コロナウイルスのパンデミックが原因で、2020年と2021年は開催できなかった。それでも、非常に人気の高いビデオゲームの大規模イベントとして、フォートナイト・ワールド・カップをリストアップしないわけにはいかない。「この大会はeスポーツ界だけでなく、より幅広いゲームの世界において、非常に大きな文化的出来事だった」と、ゲームとeスポーツの専門メディア、ダブルタップ(DBLTAP)でマネージング・エディターを務めるヴィンス・ネアン氏は振り返る。
リーグ・オブ・レジェンド
Dota 2がMOBAジャンルでもっとも高い賞金額を誇るイベントだとすれば、もっとも視聴者数が多いMOBAジャンルのイベントはリーグ・オブ・レジェンドのワールド・チャンピオンシップだ。ワールド・チャンピオンシップは1年間行われたリーグ・オブ・レジェンド・シーズンの集大成で、世界中のプレイヤーが互いに競い合って最強のチームと地域を決定する。2019年と2020年に開催されたワールド・チャンピオンシップは、史上もっとも多くの人に視聴されたeスポーツイベントとなった。2019年の視聴者は400万人弱に上っている。ただ厳密にいえば、史上もっとも視聴されたeスポーツイベントは、比較的新しいモバイルeスポーツの大規模イベントとして2021年に開催された「フリー・ファイヤー・ワールド・シリーズ(Free Fire World Series)」だ。
ワールド・チャンピオンシップは通常、晩秋から初冬にかけて開催されるが、細かい時期は毎回異なっている。また、リーグ・オブ・レジェンドには、1年の半ばに開催される「ミッドシーズン・インビテーショナル(Mid-Season Invitational)」と呼ばれるプレーオフイベントがあり、同じようなシステムに従って海外のチームが互いに熱戦を繰り広げている。このイベントも高い評価を受けているが、リーグ・オブ・レジェンドのなかでは、ワールド・チャンピオンシップに次いで権威のある大会とみなされている。
カウンターストライク:グローバル・オフェンシブ
カウンターストライク:グローバル・オフェンシブには、Dota 2やリーグ・オブ・レジェンドのように公式のプレーオフイベントがない。その代わりに、この一人称視点ゲームの競技シーズンを担っているのが、サードパーティ企業が組織し、開発元のバルブ・コーポレーションが後援するさまざまな「メジャー」大会だ。
ただし、これらのメジャー大会は毎年開催されることが多いものの、バルブ・コーポレーションが毎年後援するとは限らないため、どのトーナメントがもっとも権威があるのかは明確ではない。「カウンターストライクは、その点で少し変わっている。バルブ・コーポレーションが、もっとも重要な大会として指定しているメジャー大会が複数存在するからだ。また、長期にわたって続いている伝統的な大会もある」と、ネアン氏は指摘する。独自に開催されている伝統的なイベントも、バルブ・コーポレーションが過去に後援したことがあるイベントを筆頭に、バルブ・コーポレーションが後援しているイベントと同様の名声を得ている可能性があるのだ。
2021年にバルブ・コーポレーションが後援するメジャー大会は、eスポーツ企業のPGL・イースポーツ(PGL ESPORTS)が10月に開催するストックホルム大会のみで、賞金総額は200万ドル(約2億2000万円)に上る。しかし過去には、ESL、インテル・エクストリーム・マスターズ(Intel Extreme Masters)、スターラダー(StarLadder)などの企業が世界各地で開催するイベントが、バルブ・コーポレーションからメジャーの地位を与えられてきた。そのため、「これらのイベントで優勝することは、いまも非常に大きな意味を持っている」と、ネアン氏は述べている。
オーバーウォッチ
トップレベルのeスポーツ選手権のリストを締めくくるのは、オーバーウォッチ・リーグのプレーオフだ。オーバーウォッチの視聴者数はここ数年減少しているが、アクティビジョン・ブリザードが運営するこのプレーオフは、いまでも大きな話題となるeスポーツイベントのひとつだ。「私が注目しているのは、eスポーツを話題にしている人々がオーバーウォッチをどのように見ているかということだ」と、ネアン氏はいう。「オーバーウォッチを話題にする人々はみな、まだオーバーウォッチを基準としてゲームを見ているようだ」
長年にわたってさまざまな国で開催されてきた「オーバーウォッチ・ワールドカップ(Overwatch World Cup)」は、毎年11月初旬に開催され、参加資格を持ったチームが世界各地から集結する。2021年のプレーオフでは、150万ドル(約1億6500万円)の賞金が優勝チームに贈られる。過去にはサン・フランシスコ・ショック(San Francisco Shock)やロンドン・スピットファイヤー(London Spitfire)といったチームが優勝を果たした。
前述の発表を受けてファンから激しい抗議が起こったことからもわかるように、オーバーウォッチ・リーグのプレーオフは、何百万人もの潜在的な視聴者のあいだで依然として高い需要がある。だが、オーバーウォッチの視聴者の減少は、eスポーツとその看板イベントの人気が時間とともに変化することを示している。最終的には、ほかのeスポーツが台頭してきて、メジャーなeスポーツとしての地位をオーバーウォッチから奪い取る可能性もある。
ライバルとなるイベント
オーバーウォッチのライバルとなる可能性があるのは、リーグ・オブ・レジェンドの開発元であるライアット・ゲームズ公開した新しい一人称シューティングゲーム、「ヴァロラント(VALORANT)」だ。eスポーツニュースサイトのアップカマー(Upcomer)が報じたところによると、「ヴァロラント・チャンピオン・ツアー(Valorant Champions Tour)」のフィナーレとなる「ヴァロラント・チャンピオンズ(Valorant Champions)」が12月にロサンゼルスで開催されるという。
過去のヴァロラント・チャンピオン・ツアーのプレーオフステージイベントでは、フィードの平均視聴者数が80万人に達するなど、ライアット・ゲームズはシーズン最後のイベントに向けて、ヴァロラントのファンを熱狂させることに成功してきた。いまのところ、ヴァロラントはeスポーツのトップレベルに入っていないが、プレーオフイベントを成功させることが、このシューティングタイトルをさらに盛り上げるために必要なことかもしれない。
「このイベントはとてつもない規模になるので、絶対に見ておくべきだ。ワールド(リーグ・オブ・レジェンドのワールド・チャンピオンシップ)やTIに匹敵する大規模イベントになると思う」と、アップカマーのスタッフライターであるニック・レイ氏は述べている。
人気が高まっているもうひとつのeスポーツは、コール・オブ・デューティ(Call of Duty)だ。やはりアクティビジョン・ブリザードが運営する「コール・オブ・デューティ・リーグ(Call of Duty League)」は、2020年にスタートしたイベントで、オーバーウォッチと同じモデルを採用している。アクティビジョン・ブリザードがコール・オブ・デューティをオーバーウォッチのレベルにまで引き上げようとしていることから、コール・オブ・デューティのグランドファイナルのような大規模イベントには要注目だ。
小規模でも強い影響力を持つイベント
前述のリストは、人気の高いeスポーツのもっとも有名なイベントを網羅したものだったが、数千人から数百万人の視聴者にリーチし、潜在的なスポンサーやブランドパートナーが大きな関心を寄せる可能性があるeスポーツイベントは他にもある。
ラスベガスで毎年開催され、数十万人の視聴者を集める大規模な格闘ゲームトーナメント「エボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ(Evolution Championship Series)」は、単独で開催されている大規模なイベントのひとつだ。「ロケット・リーグ・チャンピオンシップ・シリーズ(Rocket League Championship Series)」も、賞金総額が100万ドル(約1億1000万円)を超えている。
昨今、eスポーツのメディアは成長を続けており、現時点でトップレベルのイベントも、数年経てば古い話題になっているかもしれない。とはいえ、今回取り上げたイベントは、いまのところ誰もが知っておくべきものだろう。
[原文:Cheat Sheet: The esports events every marketer should know]
ALEXANDER LEE(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:村上莞)