FUTURE OF WORK

リモートワーク 推進役、なぜマーケターが抜擢されるのか? :「変革にはストーリーの共有が大切」

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ネット印刷通販のビスタプリント(Vistaprint)で、10年にわたってコミュニケーション領域の上級役員を務めるポール・マッキンレー氏は、7カ月前、親会社のシンプレス(Cimpress)により、リモートワークの責任者に抜擢された。

ビスタプリントとシンプレスのコミュニケーション、およびリモートワーク担当バイスプレジデントという新たな肩書きを与えられたマッキンレー氏は、目下、「競争力を維持しつつ、リモートファーストの働き方を企業文化の基礎とせよ」という社命の遂行に全力を傾けている。とはいえ、世界中に8000人のスタッフを抱える大所帯である。同氏はこのリモート化の推進に自身の時間の半分以上を費やしている。

この大転換を成功させるには、強力なコミュニケーション戦略が不可欠だとマッキンレー氏。「不動産業界、人材業界、テクノロジー業界の首脳たちは、組織のリモート化に率先して取り組んでいる。コミュニケーションやマーケティング部門のリーダーに備わる貴重なスキルは、恒久的なリモートファーストへの転換という難しい課題にも、応用が利くのではないか」。

リモートワーク推進の責任者を設置する企業は、このところ確実に増えている。オフィスや職場の運用について助言するT3が、テクノロジー企業95社を対象に行った調査によると、リモートワーク責任者のポジションを設けている企業の比率は、2020年8月から2021年2月のあいだに、2%から15%に急増した。

求人広告検索サービスのアズナ(Adzuna)によると、これと並行するように、英国では、昨年末にリモートワークの求人が147%増えた。また、米国のスタートアップ創業者の42%が、起業当初からリモートワークを想定しているという。

高まるマーケターへの期待

シンプレスのほかにも、Facebook、Dropbox、オクタ(Okta)、リンクトイン(LinkedIn)、ログミーイン(LogMeIn)など、ここ最近、多くの企業がリモートワーク専任の役職者を採用している。特に、ソフトウェア開発企業のGitLab(ギットラボ)は、このような役職を最初に設置したのは自分たちだと主張している。

シンプレス同様、GitLabのリモート責任者を務めるダレン・マーフ氏も、マーケティング部門に所属している。同部門には、リモート推進のストーリーを組み立て、これを周知するための専任チームが設けられているという。

「リモートワークの推進は人事部の仕事だという思い込みは、捨てたほうがよい」とマーフ氏は述べている。同氏によると、リモートワークに関する知識やノウハウは、マーケティングやコミュニケーション分野に通ずるものがあるとう。そして、リモート責任者のもっとも重要な仕事は、リモートワークという新しい働き方の価値やメリットを社内外に伝えることだ。「大離職時代(Great Resignation)」の到来が叫ばれるなかで、ストーリーの共有は成否を分けるほどに重要といえる。

ストーリーの共有が大切

「ストーリー不在の変革は『強制』感が出てしまう。ストーリーを皆と共有し、『この変革はパーパスの実現のため』であるという、動機付けを行うことが重要だ」とマーフ氏は語る。「リモート化の推進は経営理念に直結する課題だ。なぜリモートワークへの転換をめざすのか。その理由を従業員に正しく伝えるうえで、マーケティングやコミュニケーションの上級幹部は、リモート責任者への転身にうってつけだ」。

実際、マーケティングおよびコミュニケーションの担当役員は、リモート責任者の最有力候補として、人事やリモートワークの専門家からも認められている。

経営幹部の斡旋およびコンサルティングを行うアンプリファイ(Amplify)の創業者で、『人事の再定義(Redefining HR)』の著者でもあるラース・シュミット氏はこう話す。「リモート化を推進する企業が増えるにつれて、リモートワークやハイブリッドワークの課題が浮き彫りになる。その解決には、マーケティング経験者の支援が必要となるだろう」。

ヒーマ・クロケット氏は、顧客企業の必要に応じてHR専門のコンサルタントを派遣するギグタレント(Gig Talent)の創業者のひとりだ。同氏によると、リモートワークの責任者には、組織横断的な発信力が要求されるという。とりわけHR方面では、従業員のエンゲージメントやリテンション、報酬、諸手当など、緊密な連携と調整が必要となる。「こうした連携や調整を欠けば、統一感のない、断片的な戦略になりかねない」。

リモートワーク推進の目的や要件を明確に

一方、リモートワークのコンサルティングを行うディストリビュート(Distribute)の創業者で、「リモートワーク協会(the Remote Work Association)」を設立したローレル・ファーラー氏は、リモート化を推進するなら、なによりもまず、要件定義を行うべきだと助言する。

「リモート施策を推進する目的が優秀な人材を集めること、あるいはリモート製品の販売を促進することなら、リモート施策の価値を外に向かって発信できる人材が必要だ。一方、あくまでも従業員のためにリモート化を推進する企業もあるだろう」。

ファーラー氏はさらにこう続ける。「前者であれば、マーケティングの専門知識やノウハウを備えた候補者を採用する。後者の場合は、バーチャルな業務運営に通じた人物が望ましい。リモートで快適に働けるという価値提案を通じて、自社の魅力を訴求し、優秀な人材を集めることが事業の成長に必要不可欠なら、講演活動やコンテンツ開発など、外向きの働きかけに強いリモート責任者を置くべきだろう」。

マーケティングスキルで対処できるとは限らない

フリーランスの人材管理プラットフォームのワークサム(Worksome)で、北米事業を統括するモーテン・ブルーン氏はこう述べている。「リモートで働く従業員の、会社への帰属意識を維持するうえで、コミュニケーションの果たす役割は重要だ。しかしだからといって、コミュニケーションやマーケティング部門に任せきりでは、リモートワークのメリットを十二分に引き出すことはできない」。

確かに、この職務の最大の課題は、必ずしもマーケティングやコミュニケーションのスキルで対処できるとは限らない。たとえば、アンプリファイのシュミット氏によると、新任のリモート責任者は、一日も早く戦略遂行の舵取りに着手するため、事業内容、スタッフ、過去の運営体制などをすばやく把握する能力を要求されるという。

シュミット氏はさらにこう続ける。「従業員向けのメッセージを確認し、彼らの思いを制度設計に反映させる必要もある。さまざまな構想や戦略を早急に実現しなければならないというプレッシャーにさらされながら、これだけの仕事をこなすのは確かに重責だ」。

いずれにしても、シンプレスのマッキンレー氏が認めるように、優秀なリモートワーク推進責任者には、変革を牽引してきた実績が求められる。また、最先端かつ引く手あまたのこの役職は、いまや適任者を見つけるのがもっとも難しいポストのひとつとなっている。

[原文:‘Change without story is a mandate, change with story is purpose’: Why marketing and comms execs are being tapped for chief-of-remote roles

MARYLOU COSTA(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)