いまやシャネルは、YouTube戦略において、もっとも成功した高級ブランドだ。公式チャンネルの会員登録数は44万4000人。「高く評価」「低く評価」「共有」「公開コメント」など読者の反応が、同業他社のアカウントに比べて圧倒的に多い。その背景には、コンテンツ製作からプロモーションまで、徹底的に練られた戦略があった。
歴史あるラグジュアリーブランドにとって、デジタルマーケティングはおざなりになりがちだ。しかし、いまやシャネルは、YouTube戦略において、もっとも成功した高級ブランドとなっている。
なにしろ、公式YouTubeチャンネルの会員登録数は44万4000人。その数は、クリスチャン・ディオールの21万人や、バーバリーの18万9000人の倍以上になる。しかも、「高く評価」「低く評価」「共有」「公開コメント」など読者の反応が、同業他社のアカウントに比べて圧倒的に多いのだ。
その要因は、たっぷりとリソースを投入して、著名デザイナーが手がけるハイクオリティなビデオを量産したところにある。猫の映像やビデオゲームのプレイ動画が氾濫している現在のYouTubeでも、コンテンツの提示方法によっては、ハイブランドのマーケティングの場にできることを示したのだ。
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ハイブランドの王道を行く、コンテンツ作り
「シャネルは、その高級感あふれるステータスをYouTube上に再現した。それも、その素晴らしい『コンテンツ作り』によってだ」と、過去にシャネルと提携していたデジタル・ラグジュリー・グループ社のマーケティング・セールス部長のタマール・コイフマン氏は語る。
YouTubeにおけるシャネルのコンテンツの多くは、さまざまなスターが出演している広告(社内では『映画』と呼称。もっとも、平均的な時間は1分から2分程度だが)や美容ガイドだ。もっとも視聴されているのは、「マリリンとシャネルの5番」。あのマリリン・モンローのきわめて珍しい映像は、1300万回近くも視聴された。
また、同社ではセレブを相手にしたメーキャップ・アーティスト、リサ・エリッジ氏を専属のビデオスタッフとして採用。YouTubeのマーケティング企業ピクサビリティ社が、2015年6月にリリースした「YouTubeでの美容研究」によると、YouTube動画における美容系コンテンツの65%は、「ハウツー(Tutorial)」か「コマーシャル(Commercial)」で占められるという(下図)。
YouTubeで配信される美容コンテンツの内訳。ハウツー(Tutorial)が45%、コマーシャル(Commercial)が20%を占め、大多数を形成している(L2社調査)
一方、法人向けのデジタル分析を手掛けるL2社の「2015年ビデオ研究」では、このようなトップカテゴリー内でコンテンツ製作をしても、それほど試聴されるわけではないとしている。むしろ、著名デザイナーのカール・ラガーフェルド氏が監修した、質の高いビデオを大量に製作したことが成功に貢献したという。
「シャネルは膨大な量のビデオ投稿によって、同業他社を圧倒している」と、研究を主導した同社リサーチ・アナリストのマーベル・マクリーン氏。「1回のファッションショーから、8本のYouTubeビデオが製作された。ビデオはラガーフェルド氏によるデザイナーらへのインタビューやセレブの出演者、ショーで用いられた衣装などを扱っており、多くの視聴者を魅了している」
エンゲージメントでも同業他社を圧倒
シャネルがYouTubeに配信したビデオは300本を超している。だが、数多く配信したからといって、コンテンツの価値は薄まっていない。ファッション・ビジネスに詳しいファッションビー社のアナリスト、ゾーイ・ボーデロン氏は、「YouTubeとファッション・ブランドのインサイト報告」(2014年9月発表)の中で、シャネルのビデオの魅力について「ブランドのショーウィンドウとしてYouTubeを使っている。知名度を高めるためではなく、最新ニュースを更新して、ブランドの世界に深く引き込むことが目的なのだろう」と解説した。
公式チャンネルでのエンゲージメント・レベルは、ただコンテンツの量が多いだけではないことを裏付けている。ピクサビリティ社によると、2014年1月から2015年4月にかけて1億6800万回の視聴と、「高く評価」「低く評価」「共有」「公開コメント」などのエンゲージメントが660万回あったという。このカテゴリーで1番多く視聴され、エンゲージメントがあったのがシャネルだった。
シャネルが650万超のエンゲージメントオーディエンス(愛着が強いとみられる閲覧者)を獲得。2位以下のダブ、ディオールなどを倍以上引き離している(ピクサビリティ社調査)
また、マクリーン氏によるとシャネルはペイド・リーチとオーガニック・リーチの両方をうまく使い分けているという。質の高いビデオを配信しているという自負を持ち、プロモーションへ効果的に予算を投入。そして、セレブが出演したビデオを増やして、香水や美容製品の小規模なキャンペーンの代わりとしたいとしている。
冷静に考えられたプロモーション戦略
「通常、ブランド各社は、オーガニック・ビューを極大化させたいと考える。無料であり、どのぐらいの人がコンテンツを検索したかを示してくれるからだ。しかし、シャネルは自社の重要なブランディングとして、組織的にYouTube動画の価値を高めている」(マクリーン氏) 。
縦軸=オーガニック視聴の割合、横軸=YouTubeチャンネル視聴数。シャネルが右上に位置していることで、オーガニック検索流入、プロモーション流入の2軸でオーディエンスを獲得していることがわかる(L2社調査)
シャネルは他社を圧倒している。高度にビジュアル化され、ユーザーのエンゲージメントが高いYouTubeで、類を見ないほど優位に立っているのだ。
「皆が憧れている。少しでもシャネルのようになれればと願っているだろう」とマクリーン氏は語った。
Hilary Milnes(原文 / 訳:南如水)