パンデミックの影響で世界中の未成年のオンライン利用時間が急増している。2020年9月、エピックゲームズ(Epic Games)はキッズテック企業のスーパーオーサム(SuperAwesome)を買収した。安全とプライバシー保護サービスにテコ入れし、未成年ユーザーにとって安全なウェブを実現することが目的だ。
新型コロナウイルス感染症の影響で、世界中の子どもたちが生活の大部分をオンラインで過ごすことを余儀なくされている。18歳未満のインターネット利用はコロナ禍以前からすで増えはじめていたが、その増加にも拍車がかかった。2021年の子どもたちは、仮想世界での生活にすっかり馴染んでいるようである。2020年7月には、米国の子どもの半数以上がすでにロブロックス(Roblox)のアカウントを持っていた。
いまや仮想空間は18歳未満のネットユーザーの遊び場となりつつある。当然、ブランドやプラットフォーマーも対応の動きを見せている。オンラインでおこなうマーケティング活動の安全性を強化し、児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)の遵守を徹底するなど、未成年という新たなデジタル消費者の取り込みに注力しはじめた。
2020年9月、エピックゲームズ(Epic Games)はキッズテック企業のスーパーオーサム(SuperAwesome)を買収。エピックが展開する子どもの安全とプライバシー保護を支援するサービスにテコ入れし、未成年のユーザーにとって安全なウェブを実現することが買収の主な目的だ。買収後、スーパーオーサムの事業は飛躍的に拡大した。現在、同社は世界各地に250人の従業員を抱え、その採用活動はいまも続いている。
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米DIGIDAYはスーパーオーサムのディラン・コリンズ最高経営責任者(CEO)に取材をおこない、急速に進む未成年のネット利用や、子どもにとって安全なウェブを実現するための技術開発などについて話を聞いた。
スーパーオーサムのミッション:子どもたちとの安全な交流を模索するブランドや開発企業を支援
01 変容する行動
子どもたちは以前からインターネット上に存在していた。しかし、コロナ禍の影響で、世界中の子どもたちがパーチャルプラットフォームを介して交流したり、授業を受けたりすることに慣れざるを得なくなった。結果的に、ビデオゲームと一般的な活動の両面で、未成年者のオンライン利用が著しく増加した。
「若者がスクリーンの前で消費する時間は、2020年の1年間で約50%も増加した。この期間とその後の1年は、ゲーム利用がさらに加速する前兆だった」とコリンズ氏は話す。「いまやほぼすべての若者がゲームをプレイしている。今日、16歳未満の90%がゲームのプレイヤーだ。その大半が1日に2時間程度、ゲームコンテンツの前で過ごしている」。
この未成年によるゲーム利用の増加は、大人の娯楽としてのゲームの台頭とも重なる。子どもと大人が仮想空間で頻繁に交流するなか、子どもたちの安全と優先事項への配慮は、これまで以上に重要となっている。
02 課題
コリンズ氏によると、コロナ禍の影響により、子どものオンライン利用が増えたことで、ふたつの重要な課題が浮き彫りになったという。ひとつは規制の問題だ。コリンズ氏はこう説明する。「この領域に参入し、若者とのインタラクションを模索するブランドは、子どもや若者を守るために制定されるいくつものデジタル関連法にも対応しなければならない。COPPAであれ、年齢に適したデザインコード(Age Appropriate Design Code)であれ、GDPR(欧州の一般データ保護規則)であれ、対応せずにはすまされない」。
ふたつ目の大きな課題は技術的なものだ。「一般的にいえば、これまで我々はキッズテックと呼ばれる子どものための技術に十分な投資をおこなってこなかった。インターネットはもともと、大人が大人のために作ったものだ。そしてゲームの世界も、基本的には同様の理屈があてはまる。ところがここに来て、我々は未成年ユーザーの急増を目の当たりにしている。我々としても、コミュニティの健全性、潜在的な有害性、保護者の同意、データプライバシーなどについて考えざるを得ない」。
03 ツールの開発
今年の中心的な取り組みとして、比較的経験の浅いブランド向けに、ゲームコミュニティとの正しい関わり方を指南する専門のチームを立ち上げた。さらに、キッズウェブサービシーズ(Kids Web Services)という保護者の同意を管理するための製品を公開した。子どもが仮想空間で遊ぶことに保護者が自信を持って同意できる安全な環境を整備するための、開発者側のツールである。
このツールを導入することにより、保護者の同意をシステム内で事前に確認できるようになる。保護者にとっても、ばらばらのプラットフォームを横断して、子どもの活動を承認するという本来的に複雑なプロセスが簡素化される。「保護者の本人確認と同意の取得というプロセスは、開発者にとっても複雑極まりない」とコリンズ氏は指摘する。「保護者向けのプロセスをフロー化すればよいという単純な話ではない。変化や進化を続けるさまざまな法律にも準拠させる必要がある。そこで、我々は一連の手続きを単一のサービスに集約し、開発者が最大限容易に実装できるようにした」。
04 事業の拡大
2020年、スーパーオーサムがエピックとの買収交渉を始めたとき、コリンズ氏が最優先に考えていたのは事業の拡大だ。「子どもにとって安全なインターネットを実現するという我々のミッションを、ベンチャーキャピタルがいくら金を積んでも成し得ない方法でスケールアップすることができた」とコリンズ氏は述べている。
買収に至った最大の要因は、エピックのゲーム開発会社としての機能と、アンリアルエンジン(Unreal Engine)やゲームストアなどのサービスを提供するインフラ企業としての機能だった。「プライバシーやオーディエンスの包摂性という点で、エピックのティム・スウィーニーCEOと価値観が一致していた」とコリンズ氏は話す。「多くの人とさまざまな議論をしてきたが、このような価値観の一致はめったに起こらない」。
エピックという心強い後ろ盾を得た2021年、スーパーオーサムは上述の保護者の同意管理ツールを開発者に無償で公開するなど、サービスの拡充を断行した。「エピックに買収される以前、月に100億から110億件程度の消費者トランザクションを処理していた」とコリンズ氏は話す。「具体的な数字は公表していないが、現在の数字がこれを大きく上回ることは容易に想像できるだろう」。
05 オープンなエコシステム
スーパーオーサムはエピックゲームズのインフラサービスの一翼を担う重要な要素ではあるが、製品やサービスの提供先は、エピック系列の開発者や、同社の提携ブランドに限られない。
「たとえば、スーパーオーサムのゲーム部門は、玩具ブランドのMGAとロブロックスのコラボレーションを支援した。映画製作会社のドリームワークス(DreamWorks)も同様だ。現在も、パラマウント(Paramount)やニッケルオデオン(Nickelodeon)、玩具メーカーのムーストーイズ(Moose Toys)など、ゲーム内活動に取り組む多くのブランドを支援している。ビッグブランドがゲーム環境に足がかりを築く支援をおこない、このさき数十年を見据えて新しい世界の形を示すという点において、けっこう良い仕事ができたと自負している」。
[原文:Case Study: How SuperAwesome helped brands and developers engage young audiences safely in 2021]
ALEXANDER LEE(翻訳:英じゅんこ、編集:小玉明依)