自動車 産業といえば巨額の費用をかけたテレビ広告で知られるが、ホンダ、ヒュンダイ、トヨタは最近、ニューモデルのキャンペーン目的でTwitch、Pinterest、インスタグラムへの投資を増やしている。若年層のオーディエンスにメッセージを届け、電気自動車に関心が高い若者に人気の新型車の販売を促進するのが狙いだ。
21世紀の消費者の購買意欲に働きかけるべく、自動車メーカーが今、新たなデジタルプラットフォームを利用しはじめている。
自動車産業といえば巨額の費用をかけたテレビ広告で知られる。データ分析会社カンター(Kantar)の調査によれば、2020年2月の第54回スーパーボウルでは、自動車のCMに7700万ドル(約85億円)が投入されたが、これは全製品カテゴリー中最多の支出額だった。しかしホンダ、ヒュンダイ(現代自動車)、トヨタは最近、ニューモデルのキャンペーン目的でTwitch、ピンタレスト、インスタグラムへの投資を増やしている。その狙いは、ソーシャルプラットフォームを通じた広告配信で若年層のオーディエンスにメッセージを届け、電気自動車に関心が高い若者に人気の新型車の販売を促進することだ。
エントリーモデルでロイヤル顧客育成
ホンダは昨年下期の新型車デビューにあたって、着飾ったモデルを動員したカクテルつきの豪華な対面イベントから方針転換し、ライブストリーミング配信プラットフォームのTwitch上で発表会を行うという作戦に出た。
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ホンダは2019年にTwitch上で自社ブランドのチャンネルを開設しており、「同社とはすでに提携関係にある」とアメリカン・ホンダ・モーター・カンパニー(American Honda Motor Co. Inc)メディア部門長のフィル・フルスカ氏はいう。ホンダは昨年11月、Twitch上でベンジーフィッシー氏やジョーダン・フィッシャー氏など人気ライブ配信者が出演するオンラインゲームの『フォートナイト(Fortnite)』直接対決イベントを主催し、同時に11代目となる新型シビック(2022年モデル、ハッチバック)を発表した。
フルスカ氏によれば、シビックは希望小売価格が2万2000ドル(約240万円)からと比較的求めやすいため、「ミレニアル世代とZ世代、初めて自動車を買う人々や多様な文化をもつ消費者に一番人気の車種だ」という。Twitchのオーディエンスの67%が35歳以下であることを踏まえて同社は、エントリーモデルとしてのシビックが、長年ホンダ車を愛用してくれるロイヤル顧客の育成と、高価格帯車種の購入につながると期待している。
「我々は若年層と初めて自動車を買う人々の信頼を得て、ブランド認知度を高め、顧客と長年にわたる関係を築いていきたいと考えている」とフルスカ氏は語った。
ホンダは今年4月、再びTwitch上でシビックシリーズ第2のモデルを発表。2022年型シビック・セダンは、グラミー賞受賞シンガーソングライター、H.E.R.のコンサートのライブ配信中にお披露目となった。
最新モデルのプロモーション
ヒュンダイもホンダと同様、デジタルプラットフォームを使った新施策を進めており、ディズニー傘下の「ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)」との提携を通じて今年、拡張現実(AR)技術により没入型教育体験ができる「アウトサイド・アカデミー(Outside Academy)」をリリースした。このコンテンツでヒュンダイは、新たにパートナーとなったディズニー(Disney)とのコラボ第1弾として、米国の3つの国立公園内を探索できるAR体験を提供し、ヒュンダイ製電気自動車とハイブリッド車の合計3モデルを紹介している。アウトサイド・アカデミーは、インスタグラムとナショナル・ジオグラフィック公式サイトの両方で閲覧できる。
「米国では多くの子どもたちが外出もままならず、家族旅行で国立公園を訪れてその雄大な景色を目にすることもできないでいる」と、ヒュンダイ・モーター・アメリカ(Hyundai Motor America)のマーケティング・コミュニケーション部長、ケイト・ファビアン氏はいう。「そういった人々とつながるだけでなく、自宅でも学校でも味わえる新たな学習体験を提供しようと我々は考えた」。
アウトサイド・アカデミー初のコンテンツでは、ユタ州のザイオン国立公園の映像を背景にヒュンダイ2021年型サンタフェ・ハイブリッドが登場する。加えて、今年中にヨセミテ国立公園とグレート・スモーキー山脈国立公園を探訪できるAR体験がリリースされるが、電気自動車とハイブリッド車の2モデルのプロモーションと組み合わせた特集になる予定だ。
トゥルーカー(TrueCar)の調査では、電気自動車の購入者のなかでX世代とミレニアル世代にあたる年齢層が占める割合がもっとも多いという結果が出た。また、ファビアン氏によれば、アウトサイド・アカデミーのファンの大多数は、自宅でコンテンツを閲覧する際にインスタグラムを利用しているという。ミレニアル世代の消費者が慣れ親しんでいるソーシャルプラットフォームのインスタグラムを介して彼らとつながりを持てれば、ヒュンダイにとっては絶好のビジネスチャンスとなる。
「米国でインスタグラムを毎日利用する人は、18歳から29歳の年齢層では4分の3近くにのぼり、ほかの年齢層の平均40%を大きく上回る」とファビアン氏は説明する。「4月25日のアウトサイド・アカデミー公開以来、インスタグラムのストーリー閲覧者数は100万人以上、ヒュンダイ車の動画の視聴回数は550万回を超えた。我々のにらんだとおりだ」。
高額品検索が多いピンタレスト
ほかの自動車メーカーも、旧モデルのイメージ刷新の一助とすべく、最新のデジタルプラットフォームに投資している。
ピンタレストが昨年9月発表した新機能「ストーリーピン」は、インスタグラムのリール(Reels)やTikTokと同様、縦型動画にテキストを追加したコンテンツを投稿できる機能で、ピンタレストの過去のピンと違って外部リンクを必要としない。トヨタはこの新機能を活かし、若い世代の花屋、レストラン経営者、写真家、セラピストを起用して、彼らのストーリーピンに2021年型ミニバンモデルのシエナを登場させるプロモーションをおこなっている。
トヨタは、従来のミニバン所有者のイメージをめぐる「よくある誤解」に注目し、「ピンタレストを通じて、ミニバンを利用する登場人物のさまざまなライフスタイルを示した」と、トヨタ・モーター・ノース・アメリカでメディア部門のシニアマネージャーをつとめるアンジー・ホワイト氏は語る。「シエナは、活動的で冒険心に富む人たちのためにつくられたモデルで、仕事であれ遊びであれ、日常生活のあらゆるシーンで活躍する車だ」。
ピンタレストで高額商品を検索するユーザーが多いという同プラットフォームの魅力を訴求して、ピンタレスト自体も自動車メーカーの誘致に動いている。同社のバーティカル戦略/マーケティング部長、ティナ・プコノン氏は、米DIGIDAYの姉妹メディアのモダンリテール(Modern Retail)の取材に応えて次のように述べた。「ピンタレストのユーザーによる『コンバーテッド・バン(converted van:後部を生活空間やショップなどに改造したバン)』のキーワード検索数は過去1年間で23倍に増えている。また、車全般に関する検索数は、前年比で26%増加した」。
「トヨタは自動車メーカーとして初めて、ピンタレストのクリエイター・パートナーシップに登録した」とホワイト氏はいう。同社のピンタレストアカウントのフォロワー数は現在、2万6000人に達している。
今後の見通し
ブランド各社が新興メディアの利用に慣れ、以前主力だったテレビのスポットCMやラジオ広告の施策に重点を置かなくなると、「企業が伝えたい自社のイメージを市場に向けて発信する力を一部失う」と語るのは、自動車業界向けデジタルマーケティング専門コンサルティングのピュアカーズ(PureCars)で製品マーケティング/セールス・イネーブルメント部門のディレクターをつとめるマット・コプリー氏だ。
またコプリー氏は、自動車ディーラーの動向について「ディーラーの場合、メーカーに比べて最新プラットフォームへの投資のペースは遅い」と指摘する。「ディーラーはマーケティング予算が限られているため、先端技術への投資リスクがない範囲で、高精度のオーディエンス・ターゲティングが可能なプラットフォームに注力している」。
ただし、今後の見通しについて、コプリー氏はこう述べている。「一部のプラットフォームではブランド側の自由裁量が少ないこと、プラットフォームの選択肢が増えつつあることから、最新のデジタルプラットフォームにはチャンスが生まれるだろう」。
「新たなデジタルプラットフォームを利用するにあたって、ブランドは自社のアイデンティティを前面に押し出すのをあきらめる必要はない」とコプリー氏はいう。「プラットフォーム側ではブランドと連携する場合にはむしろ、自らのアイデンティティをさらに明確にするようブランド側に求めるだろう」。
ヒュンダイのファビアン氏は次のように述べている。「今後、新たなデジタルプラットフォームを活用する人々、とくに若い消費者がますます増えていく。そうした状況の変化に、自動車メーカーは適応しつづけなければならない」。
「従来型のテレビ広告はこれからも一定の役割を果たすだろう。しかし企業のマーケターたちがデジタルメディアやSNSの台頭にうまく対応できなければ、消費者に対する影響力を失いかねない」とファビアン氏はいう。「最近の消費者は双方向のコミュニケーションを好み、対話に参加したい、自分のニーズに合わせてコンテンツをカスタマイズしたいという思いがある。デジタルメディアは従来型のテレビではできない方法で、その希望をかなえてくれるのだ」。
[原文:Car brands are promoting new models on digital platforms like Twitch and Instagram]
Maile McCann(翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)