これまで、ゲッティイメージズ(Getty Images)にとって、外部エージェンシーとの提携は機能していなかった。そこで、この問題を解決すべく、同社はインハウスの制作能力の強化に着手。現在、同社の社内エージェンシーは50人以上で構成され、さまざまなデジタルマーケティング施策を実行している。
ゲッティイメージズ(Getty Images)にとって、印刷媒体・ディスプレイのキャンペーン制作のために行う外部のクリエイティブエージェンシーやメディアエージェンシーとの提携は、機能していなかった。このアプローチはあまりに無秩序で、適切なオーディエンスへのターゲティングができておらず、投資に見合った効果もあげられていなかった。
この問題を解決すべく、同社はインハウスの制作能力の強化に着手した。現在、同社の社内エージェンシーは50人以上で構成され、グローバルデジタルマーケティグ、ターゲットを絞ったB2Bキャンペーン、営業およびプロダクトマーケティング、ペイドサーチ、ペイドソーシャルテスト、リマーケティングおよびプログラマティックの実行を手がける。また、同社はクリエイティブサービスチームも立ち上げ、営業用素材、メールマーケティング、ウェビナー、動画およびシズルリール(短編プロモーション動画)の制作を行っている。インハウスへの移行により、同社はデジタルチャンネル(とくにペイドサーチとペイドソーシャル)を通じて、マーケティングを狙い通りのオーディエンスに届けられるようになり、投資利益率が向上した。
「単純に(外注の)費用に対する成果の質と量が、社内制作でできることに及ばないと判断した」と、最高マーケティング責任者のジーン・フォカ氏はメールで述べた。
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LTV的に最適な判断
ゲッティイメージズがインハウス化を決断したのは「決して節約のためではない」と、フォカ氏はいう。「その方がうまく管理できると考えたからだ。我々のプロダクトはかなり複雑で、投資の管理を、広告の費用対効果だけでなく、顧客生涯価値(LTV)の観点からも行っている。こうしたことを現在の基準で効率的に実施するには、内製化するのが最適だと判断した」。
インハウス化以来、同社はデジタル中心に戦略を転換し、とりわけペイドサーチ、ペイドソーシャル、アフィリエイト、リマーケティングに重点を置いた。マーケティング費の具体的な額は明かさなかったものの、同社によれば2017年以降、前年比10%の増額を続けており、来年度も継続の予定だという。ソーシャルメディアを除くすべてのチャンネルの広告費測定を行っているカンターメディア(Kantar Media)によると、2019年の第1四半期、ゲッティイメージズはメディアにマーケティング費を一切使っていない。2018年のメディア広告費は57万7000ドル(約6270万円)で、2017年の72万2000ドル(約7850万円)から減少した。新規顧客の獲得に特化したデジタル中心のアプローチの採用後、同社のブランド「iStock」は、新規顧客による初回購入が35%以上増加したと、ゲッティイメージズのグローバルデジタルマーケティグ担当バイスプレジデントを務めるデイン・ウェストン氏は述べる。
過去3年のあいだに、ゲッティイメージズは南北アメリカ、アジア太平洋(APAC)、欧州・中東・アフリカ(EMEA)の3地域それぞれのマーケティングチームを立ち上げた。社内チームの規模と能力が成長するにつれ、メディア予算の増額が可能になった。「時とともに追加予算をより的確に配分できるようになった」と、フォカ氏はいう。「より多くの可能性を見い出せるようになり、それによって予算の増額をスムーズに正当化できるようになった。現在では、良好な投資利益率を示すだけで、広告費の増額を認められる」。
マーケター側の願望
マーケティング業務のインハウス化に関して、ゲッティイメージズは決して例外的な存在ではない。NHL、エレクトロラックス(Electrolux)、バイエル(Bayer)などのマーケターは、マーケティング業務の一部を社内チームに移行した。インハウス化の目的は支出削減だけではなく、その裏には支出管理を徹底し、より臨機応変に動けるようにしたいという、マーケター側の願望があることが、米DIGIDAYの調査でわかっている。
ゲッティイメージズは、以前に提携していたエージェンシーの具体名を明かしていない。また、今後、メディアエージェンシーと提携し、テストの実施だけでなく、広告購入を行う可能性も否定していない。
「特化型エージェンシーへの支出とメディアへの支出を比較したところ、多くの場合、少なくとも業務の中心部分に関して、社内で管理できることがわかった」と、フォカ氏はいう。
内製化は今後も増える
自社のマーケティングに明確な目的意識が欠けていると判明したことが、インハウス化の決断につながった。同社は従来行っていた定期的なブランドキャンペーンを廃止し、マーケティング費をデジタルに集中的に投資すると決めた。ゲッティイメージズはプロダクトの販売チャンネルをほぼ自社で保有し、こうしたチャンネルでの顧客のビジュアルコンテンツ購入の増加を目的としているので、顧客にフォーカスした予算配分の改革は理にかなったものだった。
「我々にとって、自社のデジタルチャンネルを中心に据えた方が、ほかのチャンネルに投資するよりも効率的だった」と、フォカ氏はいう。「このようなマーケティングは、3年前に我々が行っていた投資よりも、はるかに実り多いものだった。率直に言って、ディスプレイ広告などへの当時の多額の出費は、投資利益率の点ではまったくお粗末だった」。
とはいえ、同社はデジタル以外に一切投資をしないわけではなく、あくまでデジタルマーケティングを主戦力としているだけだ。「今日では、画期的な仕事や受賞、あるいはパートナーシップや関係の構築を祝福することに関連して、才能ある写真家たちへの支援と賞賛のためプリントを維持している」と、フォカ氏はメールで述べた。
フルサービスエージェンシーのOHパートナーズ(OH Partners)で共同創業者およびマネージングパートナーを務めるスコット・ハーキー氏によれば、インハウス化の影響はブランドと社内チームの能力次第だが、ゲッティイメージズのケースは戦略的な転換であり、ほかのブランドも注目すべきだという。「メディアバイイングのインハウス化を検討するブランドは今後も増えるだろう」と、ハーキー氏はメールで述べた。
Kristina Monllos(原文 / 訳:ガリレオ)