店内で遊べる、子供の楽園のような店を目指して事業をスタートした米国のキャンプ(CAMP)。そのCEO、ベン・カウフマン氏はBuzzFeedでCRO兼CMOを務め、同社のミレニアル世代向けEC事業を起ち上げ、急成長を遂げるまでに貢献した経歴の持ち主だ。そんな同社は2020年、事業をB2CからB2Bへとシフトした。
店内で遊べる、子供にとって楽園のような店を目指して事業をスタートした米国のキャンプ(CAMP)だが、コロナ禍により大きな打撃を受けたであろうことは想像に難くない。実際、ほかの小売事業者同様に、オンライン事業へと戦略を切り替えることを余儀なくされている。
同社のCEO、ベン・カウフマン氏はBuzzFeedでCRO(最高収益責任者)兼CMO(最高マーケティング責任者)を務め、同社のミレニアル世代向けEC事業を起ち上げ、急成長を遂げるまでに貢献した経歴の持ち主である。
2018年創業のキャンプは、店舗が主役となる形で作られたブランドだ。カウフマン氏は「戦略上の観点から店舗中心のビジネスを選んだ。難しいのは分かっていたが、あえてその方向に踏み切った」と語る。
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2019年末までに、キャンプはニューヨークを皮切りに、コネチカットやテキサスに進出し、5店舗を展開。月平均で5万人の来客数を記録するまでに成長した。さらに勢いに乗り5~10店舗増やすことを計画していたが、コロナ禍でこの計画は破綻。「子供に遊び場を提供し、玩具を買っていただく」というコンセプトへの打撃はあまりにも大きかった。
だが、同社は2020年に前年比300%増という驚異的な増収を達成する(具体的な収益額は非公開)。さらに、2021年に新店舗開設を再計画しているという。
B2CからB2Bへのシフト
2019年、同社の主な収益源はチケット販売、店舗内イベント、玩具販売となっていが、実際には3番目の玩具販売は売上全体の2割程度に過ぎず、ほかの2事業(チケット販売および店舗内イベント)が収益の牽引役を担っていた。コロナ禍以前、カウフマン氏はコンシューマー事業の会社としてキャンプの操業に取り組んできたが、2020年に、これをB2Bへとシフト。オンラインのスポンサー契約などを次々に打ち出した。夏には、ウォルマート(Walmart)と提携して「バーチャルキャンプ」なるイベントを展開し、Appleやアライ・ファイナンシャル(Ally Financial)と「バーチャル誕生日会」を開催した。
カウフマン氏は、2020年11月末には編集部門を設立し、タナー・グリーンリング氏を編集長に起用。BuzzFeedに11年間勤務し、編集や戦略に関する重要職を歴任した人物だ。同氏のチームの目的は、キャンプのオンラインにおけるプレゼンスを高めることにある。
カウフマン氏によれば、これにより顧客第一主義がより強く実践され、具体的には同社の店舗やバーチャルイベントへの周知が進み、収益回復の原動力になっているという。これまでもオンライン戦略を進めてきたが、コロナ禍でそれが一気に加速したとも述べる。
キャンプによる「子供の遊び場としての店舗を、オンラインで再現する」という取り組みが、商品や楽しいイベントなどの売上増につながっているという。同社のホームページは、「ショップ」のタブをクリックするとマーケットプレイスに移行するようになっている。そしてマーケットプレイスでは、副大統領のカマラ・ハリス氏のアクションフィギュアやオレゴン・トレイル(The Oregon Trail:西部開拓時代をテーマにしたアメリカの大人気ゲーム)などが売られている。一方、ウェブサイト全体ではアートや料理などのコンテンツの人気が高いものの、これらのコンテンツは必ずしも商品紹介や販売につながっていないのも特徴的だ。
「我々は小売メディア企業だ。メディアとしての活動も行うことにより、顧客ロイヤリティの向上につなげる。引いては、商品の販売増をもたらしてくれる」とカウフマン氏は自信に満ちた口調で語る。しかしウェブサイトのメインターゲットは、あくまでも子供とその親で、「今日は何をしよう?」と考えている家族に、楽しみを提供することを最優先にして運営しているという。
「ECはあまりにも退屈な世界」
カウフマン氏は、2021年にはオンラインの売上が総売上の50%前後にまで上がると予測している。オンライン事業をブランドマーケティングのツールとして活用し、知名度や評価を上げて、パンデミック終息後に店舗への多数の来客を見込む。
「このコロナ禍で、当社はデジタル技術を駆使して、できる限り多くの取り組みを進めてきた。コロナ禍終息後にはその努力が実を結び、店舗や体験型イベントへ一気に客足が戻ってくるはずだ」と、カウフマン氏は言葉に力をこめる。
同社は、前述の3州においてウェブサイトを介したオンライン店舗を運営しているが、それ以外の地域のオーディエンスにもリーチを試みている。ほかのオンラインショッピングよりも「楽しい」同社の顧客体験は、競争の激しいEC業界のなかでもひときわ目立つ存在になっている。
「ECは、隔絶した、あまりにも退屈な世界だ。『検索して、買う』。ただそれだけの場所になり下がってしまっている」とカウフマン氏は語る。
たとえば、キャンプは2020年のクリスマスシーズンに「バーチャルプレゼント交換」イベントを開催した。家族や友人グループがログインして、プレゼントをバーチャルで贈り合い、交換して開封するというイベントだ。これが終わると、キャンプが注文を処理して開封した人たちにそのプレゼントを送るという仕組みになっていた。カウフマン氏によれば、このイベントは開始から10日以内に2万5000人もの参加者が集ったという。
この成功を受けて、同社は誕生日パーティーや出産祝い、バレンタインデーといった特別な日に向けて新たなオンラインショッピング体験を提供していく予定だ。
ECコンサルタントの見解
ベン・ゼトラー・デジタルメディア(Ben Zettler Digital Media)の創業者で、デジタルマーケティングおよびECコンサルタントを務めるベン・ゼトラー氏は、「オンラインマーケティングを通じて知名度や顧客ロイヤリティを上げ、店舗への来客数を増やす」というアプローチを採用しているブランドは決して多くない」と語り、次のように述べる。
「このキャンプの取り組みは、ほかの玩具メーカーと同様、激しい競争の中で生き残りをかけた一手だ。しかし既存顧客に優れた体験を提供しつつ、実際の店舗へと誘導するという点において、大変興味深いアプローチである」。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:長田真)