この9カ月余り、コロナ禍を生き抜くために、マーケターとエージェンシー幹部はキャンペーンの再考、メディアプランの再構築、資金フローのやりくりを何度となく強いられてきた。そこで余儀なくされた変化のなかには、生き延びるための当座凌ぎでしかなかったものもあれば、加速する現在進行形のトレンドになったものもある。
この9カ月余り、コロナ禍を生き抜くために、マーケターとエージェンシー幹部はキャンペーンの再考、メディアプランの再構築、資金フローのやりくりを何度となく強いられてきた。
そこで余儀なくされた変化のなかには、生き延びるための当座でしのぎしかなかったものもあれば、加速する現在進行形のトレンドになったものもある。
2020年が幕を閉じた後も残るのはどの変化なのか。その答えを探すべく、マーケティングおよびエージェンシー幹部に話を訊いた。
Advertisement
eコマースはもはや後回しではない
多くの大手ブランドにとって、3月に活動自粛、一時停止を強いられるまで、eコマースの成長は決して2020年度の最優先事項ではなかった。もちろん、オンライン上で顧客の目を引くことは重要ではあったが、その必要度合いは今春から現在までのそれとは、比較にならなかった。大手企業にとって、地元小売店の棚やレストランのメニュー通じてブランドアフィニティ(Brand Affinity:ブランドへの親近感)を高め、ブランド名を消費者の脳内リストの上位に置いておくことは、重要な戦術のひとつであった。ところが、ステイホームが新しい日常になったことで、彼らは顧客との接触方法を変更せざるを得なくなった。
デジタル広告とeコマースプラットフォームをつなぐデジタルエコシステムの完備は、2020年を通じ、あらゆるマーケターにとっての必須業務だった。たとえば12月第2週、フランスのウォッカブランド、グレイグース(GREY GOOSE)のグローバルマーケティングVP マルタン・デ・デハイエ氏は、米DIGIDAYの取材に対し、同社は2020年、顧客とのつながりの構築に関して、もはやレストランやバーに頼れないなか、「オンラインでのカスタマージャーニーの劇的な改善」に注力し、成功したと語った。実際、オンライン消費の増加が止まらないなか、顧客とつながるためにeコマースの改善を強いられたのは、同社だけではない。それは、eコマースの完備は来年も引き続き重要課題となると語るマーケターやエージェンシー幹部の発言からも明らかだ。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)とカスタマーセントリシティ(顧客中心主義)を重要視し、以前から投資を進めていたブランドは2020年、利益を総取りした」と、マーケティング活動を支援するセイリエントMG(Salient MG)のCEO、マック・マッケルヴィ氏は語る。「デジタルへの移行を試みたところがある一方、腰が重く出遅れた企業は、コロナ禍が終わればすぐに、人と人が接触するのが当たり前の世界が戻ってくるのではないか、と淡い期待を抱いている。しかし実際、世界はこの1年で大幅に、おそらくは過去10年の変化を合わせても足らないほど変わった」。
CM制作は形式に囚われないものに
コロナ禍初期、エージェンシーたちはZoomでの効果的なCM制作に苦心惨憺していた。そしてその広告の多くは、「みんな、私たちはここにいるよ」といいたいだけの似たような内容で、すぐに飽きられた。現在もリモート撮影は行なわれているが、その一方で、従来型のCM制作もコロナ対策を施しながら再開されている。もちろん、以前の状態にほぼ戻った、というわけではない。代わりに数カ月前から、マーケターとエージェンシー幹部は大量のスタッフを必要とする大がかりな制作よりも、インフルエンサーやUGC(ユーザー生成コンテンツ)を優先するようになっている。後者は効率性の観点から非常に魅力的だと、エージェンシー幹部らは認めており、コンテンツ制作に対する従来の形式に囚われない姿勢は、今後も続くと思われる。
「ブランド勢はこのところ、軽いもの、つまり手早く制作できる、クリエイティブコンテンツを活用している。デジタルでは特にそうだ」と、IMGNメディア(IMGN Media)のチーフブランドストラテジスト、ノア・マーリン氏はいう。「当初はあくまで必要に迫られてのことで、3月と4月、大量の人員を要する制作が難しいなかで講じた苦肉の策だった。だが、興味深いことに、作り込んだ動画が相応しいと見なすブランドが少なくないインスタグラムをはじめとするプラットフォームにおいてさえ、あえて手を加えない、カメラ1台で撮影したような、素朴なクリエイティブが好反応を得た。事実、本格的な制作が再び可能になったにも関わらず、我々はそれを続けている。それが何よりの証拠だ」。
インフルエンサーマーケティングは加速
人手をかけないコンテンツ制作は昨今の大きな潮流だが、マーケターがますますインフルエンサーを重用するようになった理由は、それだけではない。インフルエンサーマーケティングが2020年加速したのは、人々のソーシャルプラットフォームに費やす時間が一層増えたからだと、マーケターとエージェンシー幹部は語る。そのためマーケター勢は今年、このホリデーシーズンはとりわけ、多くの資金をインフルエンサーマーケティングに投入したのであり、この傾向は来年も続くとエージェンシー幹部らは見ている。
「インフルエンサーを活用すれば、アイディエーション、プロダクション、ディストリビューションがワンパッケージで手に入る」と、クリエイティブエージェンシー、メカニズム(Mekanism)のパートナー兼チーフソーシャルオフィサー、ブレンダン・ギャハン氏は述べる。「私の予想では、この成長率は今後も高まり続ける。多くのブランドは今年、必要に迫られてインフルエンサーと組むことを(多かれ少なかれ)強いられたわけだが、彼らは間もなく、その高い効率性と効果を『明確に』意識すると思う」。
従業員はWFH(在宅勤務)を続行
エージェンシーとブランドは今年、従業員とコンテンツ制作のいずれについても、リモートでの管理を強いられた。Zoomにはいまや彼らの大半が辟易しているとはいえ、非対面での業務自体が実現可能であることは、はっきりと証明された。であれば、週5日通勤を強いられる状態を、人々が再び受け入れるとも、2時間のミーティングのためにわざわざ飛行機で出張する日々に戻ろうとするとも思えないと、マーケターとエージェンシー幹部は語る。いやもちろん、今後、誰もオフィスには戻らない、といっているわけではない。実際、多くは再び対面で仕事ができるほうが望ましいと考えているが、それを毎日の業務にしたいとは思っていない。米広告代理店TBWA\シャイアット\デイ(TBWA∖Chiat∖Day)ニューヨークのトップ、ロブ・シュワーツ氏は「準WFH(Work From Home)」が一般化すると予測する。「コロナ後はもう、誰も週5でオフィスに行きたいとは思わないだろう。WFHは生産的だ。それにそもそも、毎日通勤したい人がどこにいる?」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)