英国は2020年1月、EUから正式に脱退した。協定では、英国はブレグジットがもたらすさまざまな変更への準備のために2021年1月1日までの期間が与えられていた。しかし実際には、英国の近隣諸国との貿易に関する正確な詳細は年末まで公表されず、新規則が施行される前にブランドたちが準備する時間は1週間もなかった。
英国は2020年1月、EUから正式に脱退した。メイ前首相によって結ばれた協定では、英国はブレグジットがもたらすさまざまな変更への準備のために2021年1月1日までの期間が与えられていた。しかし実際には、英国の近隣諸国との貿易に関する正確な詳細はクリスマスイブまで公表されず、新規則が施行される前にブランドたちが準備する時間は1週間もなかった。複数のイギリスのブランドが、米DIGIDAYの姉妹サイトであるグロッシー(Glossy)に語ったところによると、新しいガイドラインの下での最初の数週間は、新しい現状に関して誤った管理と伝達が行われており、それに適応するのに苦労しているブランドたちは、混乱とフラストレーションを抱えているという。
さまざまな問題がすぐに発生した。驚くような額の追加配送料が課せられたり、ブランドたちが準備していた以上のコストが発生したり、そして新しいルールを伝える役割の政府高官でさえ、このルールがどのように相互に影響を与えるのか理解していないという有様だ。ブランドにとっての最大の課題は、EU各国の個別輸出規制に対応するために必要な管理業務の増加である。これは以前であれば、存在しなかった問題だ。
ロンドン・ソックス・カンパニー(London Sock Company)の共同創業者、ライアン・パーマー氏は「当社の売上は、D2Cが90%を占める。そのため、顧客がどこにいても、あらゆる商品を本人に届けるのが当社の責任だ」と述べた。「突如として、EUには国ごとに異なる要件や書類が存在するようになった。そのため、これらの要件がすべて満たされているかどうかを確認するための事務処理上の大きな障害が生じている。そうしないと、荷物が拒否されて送り返されたり、国境で積み重なったりする。政府からの情報伝達が不足しており、すべてを自力で把握することは非常に困難だ」。
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新しい関税や手数料のルール
ブレグジットの協定は、EUや英国で生産された製品には関税を適用しないとしているが、EUや英国以外で生産された部品の割合が40%を超える製品は関税が適用される可能性がある。その場合も、パーマー氏によると、関税や手数料を適用するかしないかは価格によって判断され、その基準価格は、国によって異なるという。ある国では22ユーロ(約2800円)以下の商品に関税がかからないかもしれないし、別の国ではその基準価格は100ユーロ(約1万2600円)に設定されているかもしれない。また、化粧品やスキンケアと革製品で異なる関税が課されるといった具合に、商品ごとに必要な関税がまったく違う国もあるかもしれない。パーマー氏によると、同社のサプライチェーン責任者はこの2週間を、クリスマス前に発表された1500ページに及ぶ新しい貿易規制に関する文書を熟読することに費やしてきたが、会社が何をすべきかを知るには、試行錯誤が一番の方法のようだという。
たとえば、ロンドンに拠点を置くD2Cブランド、ビーコン・アンド・アーマー(Beacon&Armour)の共同創設者であるザッド・イェオ氏は、フランスの消費者に配送された最近の注文を例に挙げ、予想をはるかに上回る58ユーロ(約7300円)以上の追加料金が課せられたと述べた。これは同氏が予想していた20%から25%の価格をはるかに上回った。これらの追加料金は、多くの新たな規制を考慮しなければならないなかでの業務管理上の過ちが原因だったかもしれないし、特定の規制が政府から伝達されなかった可能性もあるとイェオ氏は述べた。同氏のチームは、そのような過剰な請求を避けるために、配送とサプライチェーンの慣行を改善し続けている。そして出荷関連の料金の責任はルール上には消費者、または商品の輸入者にあるべきであるにもかかわらず、同社がすべての追加料金を支払っているとイェオ氏は述べた。
同氏は、「現在のところ、顧客の体験をできる限り均質なものにしたいと考えているため、これらの料金を自社で負担している」と語った。「ある価格で何かを注文して、それを実際に手に入れるには、さらに60ユーロ(約7600円)かかると言われるのは良いことではない。しかし長期的にはこのようなコストを避けたいと思っている」。
EU離脱の協定が交渉される前であれば、英国のブランドたちはEUに輸出されるすべての商品に一律で8%の関税がかかることを予測していたが、クリスマスイブに発表された合意内容は「関税ゼロ」のものだった。しかし、関税がかからなくとも、海外への配送にかかるその他のコストはブランドにとって積み重なり、場合によっては(想定していたフラット関税)8%を超えている。ウール製品ブランドのジョンストンズ・オブ・エルギン(Johnstons of Elgin)のCEOであるサイモン・コットン氏は、英国ブランドとしてヨーロッパでビジネスを行うための年間コストは、ブランドの市場分野が何で、どのくらいの製品を動かしているかにもよるが、以前よりも30〜40%高くなる可能性があると述べた。ブランドはこのコスト増に対応するために予算、価格、慣行を調整することができるが、最大の問題は、小規模のブティックとの取引がはるかに困難になることだと同氏は述べた。
同氏は、「ハロッズ(Harrods)のような卸売りパートナーは、これらの変更と追加費用を簡単に処理することができる」と語った。「しかし、当社の商品を多く販売しているが、リソースは大きくない小規模ブティックの場合、影響を受けるだろう。今では、一緒に販売をすることは、我々にとっても彼らにとっても難度が上がってしまった」。
文化交流にも目に見えない影響
新しい規制が素材関連の事業に与える影響に加えて、英国ファッション界がほかのヨーロッパ諸国と持つ文化的な関係にも目に見えない形で影響が出ている。何十年ものあいだ、ヨーロッパ人はEU内での移動や労働の自由を享受してきた。その結果、フランスのデザイナーたちが完全にイタリア製の服を作り、スペイン製のモデルを起用し、英国のデパートで販売するといった国際的なシーンが可能となった。しかし今では英国外のEUブランドにとって、英国の魅力は減ってしまった。たとえば、フランスのブランドが、英国のモデルやフォトグラファーを雇おうとすると就労許可を得るために、ほかのEU諸国に住むモデルやフォトグラファーを雇うよりも業務が増えることになる。そのため、このブランドにとっては英国の人材を雇うインセンティブが少なくなっている。英国は2021年には就労ビザの申請が3倍になると予想している。
(パンデミックが鎮静化して)旅行がもう一度可能になったときには、イギリスのブランドは技術的にはまだ国際的に活動することができる。モデルやフォトグラファーを写真撮影のためにヨーロッパ中に送り込み、ミラノやパリでファッションイベントに参加させることができる。しかし、ブレグジットの規則による複雑さが加わることで、より多くのブランドがその必要性を疑問視するようになるだろう。
「ある意味ではこれはポジティブなことだと捉えられる」とパーマー氏。「たとえば、スペインに飛んで、どこか景色の良い場所で大規模な写真撮影をしたいとする。しかし今となっては、これを実現するための業務が増えたことで、『これは本当に必要なのか?』と一度立ち止まって考えることになる。(これらの大規模な写真撮影は)必要なこともある。しかし、多くのブランドは必要でない、と判断するかもしれない」。
イェオ氏によると、英国のブランドは今は、ブレグジットが長期的にどのような影響を及ぼすかを正確に見極め、待っている段階にあるという。しかし、少なくとも今では、イギリスのファッションと高級品への初期の影響のいくつかがようやく目に見えるようになった。
[原文:Brexit is causing new logistical headaches for British brands]
DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)
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