スーパーボウルが開催された週末に、「フォートナイト(Fortnite)」内で開催されたDJマシュメロ(DJ Marshmello)のライブを約1000万人のプレイヤーが見ていたという。これにより、フォートナイトが広告主に向けて、最終的にどのように新しいステージへと進化しうるのかを垣間見ることができた。
スーパーボウルが開催された週末に、「フォートナイト(Fortnite)」内で開催されたDJマシュメロ(DJ Marshmello)のライブを約1000万人のプレイヤーが見ていたとき、広告業界の頭脳が動き出したのを感じることができたはずだ。
現在、登録ユーザーは全世界で2億人、同時接続ユーザーは830万人といわれる「フォートナイト」。マルテデバイスでプレイできる、この三人称視点のシューティング&バトルロイヤルゲームは、いまもっとアツいゲームのひとつだ。ただ打ち合うだけではなく、建物を建築して敵の攻撃を阻止するというユニークな仕組みが搭載されており、そのため日本ではジャニーズ事務所の人気グループTOKIO(トキオ)がテレビCMキャラクターを努めている。なお、DJマシュメロは、マシュマロのマスクを被った、謎だが実存する人気アーティスト。「フォートナイト」のプレイヤーとしてもプロ級の腕前を持つことでも知られている。
スーパーボウルにおける、どのハーフタイムショーよりも素晴らしかったこのゲーム内イベントでは、フォートナイトが広告主に向けて、最終的にどのように新しいステージへと進化しうるのかを垣間見ることができた。
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ライブの広告効果
ゲームをしている人たちに向けたダンスパーティー感覚の仕掛けというだけでなく、シェアもできたこのイベント。eスポーツのスペクテーターシップ(見方)と、1回きりのイベントの組み合わせが、このバーチャルコンサートの数日後に広告主の興味をかき立てたと、スペシャリストワークス(Specialist Works)のグローバルニュービジネス・シニアバイスプレジデントであるリチャード・ダウニー氏はいう。
しかし、それは簡単ではないだろう。ダウニー氏によると、好評を博すマシュメロのコンサートのゲーム内プロモーション作成コストは高くつくという。そしてeスポーツで勝ち抜くには、ブランドはオーセンティックかつクリエイティブでなければならない。「ゲーマーたちは、ブランドに挑戦してめちゃくちゃにしてしまうかもしれない。信頼もない状態ではフォートナイトのようなコミュニティで宣伝をすることはできない。そのコミュニティ特有のブランドでない場合は特にそうだ」と、ダウニー氏は述べた。
アナリストのホセ・アローヨ氏によると、マシュメロのYouTubeチャンネルは、イベントの翌日に約69万9000人のチャンネル登録者を獲得し、1月の1日平均のサブスクライバー数3万7000人から約1800%も増加した。そして、彼のYouTube動画の再生回数は、1日当たり780万から4280万、つまり約500倍に跳ね上がった。
ウェンディーズの事例
フォートナイトですでに成功している広告主たちは、いまではそのゲームと同義になっている、そのコミュニティの一部だ。
ファストフードレストラン、ウェンディーズ(Wendy’s)は、昨年11月にAmazonが所有するTwitch(ツイッチ)で同ゲームの最初のライブストリームを開催したときにこれを実践した。ウェンディーズは、同ゲームの「フードファイト」ミッションに選出された昨年11月、無償でこの動画サイトに配信を開始した。フォートナイト上のミッションは期間限定で、ウェンディーズのようなブランドにとって、既存のアクティベーションの繰り返しというよりむしろ、「はじめて」のアクティベーションを行う機会を生み出している。
イベントでは、ゲーム内でプレイヤーをデュル・バーガー(Durr Burger)とピザ・ピット(Pizza Pit)のいずれかに分け、ウェンディーズファンにバーガーチェーンと対戦するよう求めた。ブランドのメディアおよびソーシャルのシニアディレクター、ジミー・ベネット氏は、デュル・バーガーにつくことは、ウェンディーズのライバルであり冷凍バーガーを使うチェーンに敵対することを意味すると語った。
ウェンディーズはゲームに登場しないが、ブランドの認知度は急上昇した。同レストランは1日で約10時間動画を配信し、そのあいだにウェンディーズのフォロワー数はTwitch上で0から7400人以上になった。この10時間で、合計150万分を超える動画がユーザーによって視聴された。この配信中に約4万3500件のコメントがついた。この話題で、ウェンディーズはTwitterで1日あたり約3000のコメントについてメンションされている。
「我々の実績は、Twitchやフォートナイトとの金銭関係に依存したものではない。ブランドの存在感を高めるために有料メディアに飛びつき、利用しようとしているブランドが数多くあるが、実際にそれを試み、実行することはさらに大変だ。我々は有機的に経験に委ねることができたので、それをサポートするためにそれほどの重労働は不要で、それほど多くの費用もかける必要はなかった」と、ベネット氏は述べた。
米保険会社の場合
ほとんどの広告主はまだこの段階に達していない。その代わりにフォートナイトで人気があるプレイヤーたちのスポンサーになっている。
知名度の高いフォートナイトのインフルエンサーであるDr.ルポは、2月はじめに米保険会社ステイト・ファーム(State Farm)がスポンサーにつき、最初のプロeスポーツプレイヤーになった。その一方で、Twitch上でもっとも多くのフォロワーがついているストリーマー、ニンジャ(Ninja)は昨年夏に、ゲームを宣伝するためウーバーイーツ(UberEats)からお金を受け取っている。ウーバーイーツのプロモーションでは、試合中にニンジャが達成したキルの数に割引レベルをリンクさせた。1週間に渡るプロモーションが予定されていたが、割引の適用回数が多すぎて、同ファストフード配達サービスはたった1日後にそれを終了した。
「ブランドの参加は個々のストリーマーやチームに非常に偏っているようだ。ニンジャのようにTwitchやYouTubeといった複数のプラットフォーム全体で獲得できる急激なリーチやエンゲージメントレベルのために、こうしたパートナーシップを正当化することは消費者ブランドにとって簡単だ。それによって、オーディエンスを刺激し、スポンサーブランドに対する親近感が生まれ、またはプロモーションを利用する新規顧客を呼び込むことがいとも簡単になる」と、革新的なコンサルタント会社DDGのソーシャルメディアおよびモバイル担当ディレクター、クリストフ・ジャメ氏は述べた。
フォートナイトにゲーム内広告機能はないが、その開発元であるエピック・ゲームズ(Epic Games)は、適切な機会にブランドコンテンツをコーディングすることが可能だ。先月、NFLはプレイヤーが購入できるNFLユニフォームのスキンを2週間にわたって販売した。
広告価値を生むために
「スポーツブランドの価値をフォートナイトといったゲームに持ち込むことは、リーチのために必ずしも必要ではない。それらのゲームがどのように彼らのコミュニティに見返りを与え、実際の生活のなかでそのプレイヤー基盤に見返りを与えることができるか、そこから価値が生まれる。それはスポーツブランドが、ゲームとのパートナーシップにもたらすことができることであり、同時に興味深く、そして価値のあることだ」と、デジタルスポーツコンサルタント会社セブン・リーグ(Seven League)でコンサルティングパートナーを務めるダニエル・エアーズ氏はいう。
フットボールクラブのウェストハム(West Ham)は昨年、独自のeスポーツトーナメントを開催したときにこのことを実感した。現在、同クラブはTwitchとYouTubeでさらに多くのゲームに関連したコンテンツを作成している。「フットボールクラブとして、そして2人のFIFA19プロプレーヤーがいるクラブとして、このコンテンツの大部分はFIFA19を中心に作られている。しかし、フォートナイト・アクティベーションをいくつか実行している。直近では、フォートナイトの大ファンであり、アクティベーションへの参加に熱意を示したチーム1の有力選手、デクラン・ライスと一緒にライブ配信を行った」と、同クラブのコンテンツ責任者、アマール・シン氏は語った。
こうしたすべての影響力をみても、フォートナイトは広告主なしでうまくやっている。
ニールセン(Nielsen)のスーパーデータによると、フォートナイトは2018年に24億ドル(約2400億円)を稼いだが、そのすべてはマイクロペイメントプレイヤーが2ドルから20ドルの範囲で、彼らのキャラクターが欲しくて着せ替えスキン、ダンスやプレリリースのゲームモードに費やしたお金から生まれている。
状況は変わっていく
しかし、現在エピックがより多くのブランドに接触を図っているという報告をエージェンシーが行うようになっており、状況は変わっていく可能性がある。「エピック・ゲームズは、音楽や映画のようなポップ・カルチャーの分布範囲全体におけるトップブランドに対し、積極的に接触を図っている」と広告代理店コル・マクヴォイ(Colle McVoy)の技術ディレクター、ポール・ランメルト氏は述べた。
フォートナイトの成功により、新世代のバトルロイヤルスタイルのゲームが誕生している。そのなかには、新しい経験を模索しているフォートナイトプレイヤーをすでに引き寄せている。「マーケターたちにeスポーツ業界を理解させることは難しいだろう。なぜなら、それはいまだに効果が証明されておらず、誕生して間もない状態だからだ。しかし、マーケターが、これまでと異なる斬新で大胆なアイデアに抵抗を示さないのであれば、その業界人たちははるかに好意的であることがわかるだろう」と、ランメルト氏は語った。