バービーコア(Barbiecore)が今夏、最高の盛り上がりを見せている。マーゴット・ロビー主演、グレタ・ガーウィグ監督による、マテル(Mattel)社の大人気人形を主題にした実写版映画の全米公開日(7月21日)が迫るな […]
バービーコア(Barbiecore)が今夏、最高の盛り上がりを見せている。マーゴット・ロビー主演、グレタ・ガーウィグ監督による、マテル(Mattel)社の大人気人形を主題にした実写版映画の全米公開日(7月21日)が迫るなか、数々のブランドが限定バービーグッズをすでに発売している。また、多くの企業が同社とのコラボを進めている。
しかしながらこれは、ブランドの製品および知的財産(以下、IP)を映画化するという、ハリウッドのスタジオとブランド勢のコラボの一例にすぎない。
これまでにも、ナイキ(Nike)、テトリス(Tetris)、スーパーマリオブラザーズ(Super Mario Bros.)、ホットチートス(Hot Cheetos)などが、ハリウッドから熱い視線を注がれてきた。ハリウッド側の狙いは、こうしたブランドとともに育ち、いまや有意な購買力を有するに至った世代「ミレニアル」とのエンゲージメントにある。さらに、ベン・アフレック監督作「AIR/エア」、ベン・ロンゴリア監督作「フレーミングホット! チートス物語」「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」で証明されたとおり、人気ブランドのIPはZ世代の消費者も惹きつけている。
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エンターテイメントへの進出が大きな成長の糧に
「我々のファンにエクスペリエンスをどう届けるのか? ファンが我々の青写真の中心にいるのなら、重要なのはファンたちと、彼らが実際に買い物をしている場でどう出会うのか、あるいは彼らが新しい何かを経験したいと思っている場で、どう出会うのかだ」と、玩具メーカーのハズブロ(Hasbro)で、ライセンス消費者製品担当プレジデントを務めるケイシー・コリンズ氏は話す。
コリンズ氏はさらに、同社のIP「ダンジョンズ&ドラゴンズ(Dungeons & Dragons)」も最新映画が2023年3月に公開されて以来、そしてNetflixのシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」に登場したことも手伝い、多大な関心を集めていると付け加える。いまやZとミレニアルの両世代のコンテンツクリエイターらも、そのテーブルゲーム版をプレイする様子をTwitchやYouTube、TikTokでストリーム配信している。
映画は今後も社会の一部であり続けることに間違いはなく、新作映画の公開前後、その勢いの持続を図ってブランドが行うことに、人々が大いに注目するのは間違いない。そしてそれこそが、コリンズ氏いわく、ハズブロが自社IPを利用してエンターテインメントに進出する一番の理由だという。
また、同社は自社ブランドを拡大する新しい方法を常に模索しており、ソーシャルメディアを意識したロケーションベースのエンターテインメントこそ、ハズブロ社にとって成長分野となりつつあるとみている。
映画に絡めたマーケティングキャンペーンを大々的に
夏の興行成績が観客の関心の変化を示すなか、自社のIPをエンターテイメントに変換する方法を見出そうとするブランドの関心が高まっている。過去10年間、スーパーヒーロー映画やコミックの映画化が夏のシーズンを席巻してきたが、マーケターによると、この種の映画は市場を飽和させすぎており、今後10年間で観客の関心はブランドのIPに基づく映画に移行する可能性が高いという。たとえば、マテル社のバービーに加え、ハズブロ社のモノポリー(Monopoly)やクルー(Clue)といったゲームも来年公開予定の映画に登場する予定だ。
「バービー」の公開に備え、マテル社は映画に絡めたマーケティングキャンペーンを大々的に実施した。同社はまず、GAP(ギャップ)やアルド(Aldo)、フォーエバー21(Forever 21)、プライマーク(Primark)、ホットトピック(Hot Topic)、スピリットハロウィーン(Spirit Halloween)といったリテーラー勢と手を組んだ。
また、ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)ともオンラインおよびインストアポップアップショップを介して提携し、バービーと同百貨店のオリジナルブランド「アクア(AQUA)」との限定コラボ商品や、ウィンドウディスプレイ、ビューティスタイリングスタジオなどを展開した。
「自社のポートフォリオ全体を通じて、我々のブランド、フランチャイズ、キャラクター、ストーリーに生命を吹き込んでおり、複数のタッチポイントを介した繋がりのあるコンシューマーエクスペリエンスによって、そして我々の玩具事業を補完する高品質な商品、ストーリー、エクスペリエンスを通じて、自社のファンとの感情的繋がりを拡大させている」と、マテル社のチーフフランチャイズオフィサー兼コンシューマープロダクツ部門グローバルトップのジョシュ・シルヴァーマン氏は話す。「その手助けをしてくれる、我が社のIPの価値を理解する適切なパートナーを常に探している」。
もっとも高価値なものはオンラインにおける継続的繋がり
一方、テトリスを率いるCEOマヤ・ロジャーズ氏は、「パンデミックによりゲーミング業界はオーディエンスの惹きつけという点において、エンターテイメント業界のレベルに達した」と確信しており、その証拠として、ロックダウン中に起きた関心の急騰を挙げている。
ゲーミングへの関心が具体的にどの程度高まったのかは定かでないものの、ロジャーズ氏によれば、同社が今年10月にオレゴン州ポートランドで主催する大会「2023 Classic Tetris World Championship Regional Tournament(2023年度テトリス世界大会)」に参加を申し込んだZ世代のプレイヤーの大半は、3月に公開された映画「テトリス」から来たという。
「世界的に人気のあるブランドは、オーディエンスとの関連性および繋がりを保持する方法を常に探している」と、デジタルコンテンツスタジオであるザソウル・パブリッシング(TheSoul Publishing)のオペレーションズ部門VPパトリック・ウィルケンズ氏は話す。「ブランドIPを主題にしたハリウッドレベルの映画は、ストリーミングおよびTV番組同様、世界的な注目を集めるが、それと同時にきわめて重要なデジタル関係を活性化する。実際、価値がもっとも高いと思われるのは、そのオンラインにおける継続的繋がりだ」。
ハリウッド映画の公開には、一般的にソーシャルメディアからデジタル屋外広告、リテールに至るまで、数々のマーケティングが付随する。ただし、ブランドIPに基づく映画の場合、「ファンは定型的なマーケティング戦略を求めない」と、ロジャーズ氏は断言する。「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」はその好例であり、一般とハードコアの別を問わず、ゲーマーは一様に同ゲームのことをよく知っているため、「内容を伝える説明が不要だ」と同氏は説明する。
必要なのは多様なタッチポイントの所有とブランドの文化的影響力
既存IPを利用した映画製作は無論、目新しい試みではない。「たとえば、レゴ(Lego)は映画をいくつか公開し、テーマパークのレゴランド(Legoland)でその補完的エクスペリエンスを提供することで、長年に渡ってこれを成功させてきた」と、広告エージェンシーのヒューズクリエイト(FUSE Create)でSVPおよびマネージングディレクターを務めるアリーナ・マズハー氏は話す。ただし、「今日のブランドによるストーリーテリングには必然的に、あらゆるタッチポイントの所有とブランドに関する文化的影響力の構築が伴う」と、同氏は指摘する。
また、「IPの所有が可能にするこのレベルのイマージョンは、いわゆるノスタルジックなブランドが今日のメディアランドスケープに合うように自らを再活性化し、新たなかたちでストーリーを伝えられる大きな機会を創造する。そして上手くいけば、新たな消費者をそのブランドの世界に連れて来てくれる」と言い添える。
[原文:Brands take their intellectual properties to Hollywood — with marketing mixes to go along with them]
Julian Cannon(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)
Illustration by Ivy Liu