MANAGING THROUGH CRISIS

マーケティング の 内製化 、ブームは新たな局面へ:普及しはじめたハイブリッドモデル

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マーケティング活動を外注せずに社員にまかせる企業が増えていた。この内製化のトレンドはなくならないだろうが、今は後退局面のようだ。

インハウスのマーケティングでは、大規模な施策の場合はコストがかさみ、複雑な対応を強いられ、駆け引きが必要になる。新型コロナウイルス蔓延による景気低迷を受けて企業がコスト削減を図っている今はなおさらだ。そんななか、広告代理店が提供する柔軟なサービスが、マーケターが難局を乗り切るのに役立つことがわかってきた

「自前でやる場合の選択肢は限られている」と語ったある社内マーケターは、匿名を条件に取材に応じた。「メディア広告費を主体的に管理して活用するにはどうすればいいのか、頭を悩ませているが、マーケティングは代理店の力を借りなければ効果的で実践的なものにならない。こう感じているのは自分だけではないと思う。昨年はインハウスマーケティング計画の多くが凍結された」。

業務遂行における柔軟性と能力

インサイダー(Insider)の記事によると、以前はマーケティングをほぼ社内で行っていたが今になって代理店の利用を増やしている広告主は多く、このなかにはファッションブランドのJ.クルー(J.Crew)、人工甘味料のスプレンダ(Splenda)、保険・金融サービスのプルデンシャル(Prudential)が含まれる。マーケティング内製化をピラミッドにたとえれば、広告主にとって頂上への道のりは険しいものになるかもしれない。

インキュベータ(Incubeta)傘下のメディア事業会社DQ&Aでデジタルマーケティング事業のマネージングディレクターをつとめるジェームズ・スリーフォード氏は次のように述べている。「2年前、複数のクライアントから、当社に求めるのはテクノロジーのみで、追加のサービスは不要だと言われた。社内のマーケティングチームで対応できるから、というのがその理由だった」。しかしここへきてクライアント企業のニーズが変わり、広告代理店からテクノロジーと付帯サービス両方の提供を求める傾向が強まったという。

そんななか、多くの広告主が協業する代理店の選定にあたり、事業の規模や安定性より、業務遂行における柔軟性と能力に重きをおいて判断するようになった。一方、代理店に支払う手数料の形態についても再検討の必要が出てきた。米DIGIDAYが今回取材した企業の経営幹部10人によれば、マーケターにとって魅力的なのは、キャンペーンの成果に連動した価格設定だ。代理店が提供するサービスと、それがもたらすビジネス上の成果との相関関係がより明確だからだという。

マーケティングサービスのTiPiグループ(TIPi Group)でクライアント・オフィサーをつとめるジェス・ホジソン氏は、同社が徴収する広告運用手数料について次のように説明している。「定額料金と広告費の一定料率の組み合わせもあれば、柔軟性をもたせたリテーナー契約料もある。後者は1カ月または1四半期ごとにクライアントが注力したいチャネルを切り替えられる料金体系になっている。この1年、我々はマーケティングにおけるさまざまな課題に取り組んできた。柔軟なサービスが当社のクライアントにとって非常に重要であることがわかった」。

何もかもまかせるつもりもない

かといって広告主も以前のように、代理店に何もかもまかせる形に戻るつもりはないようだ。

CMO(最高マーケティング責任者)の主導で業務の内製化を進めてきた企業では、マーケティングの専門知識が社内に蓄積されつつある。代理店は難易度の高い業務を引き受け、プログラマティック広告の買い付け、コンサルティング、広告在庫のキュレーション、データ管理などを行う。一方、社内マーケターは「自分が何を知らないか」をよく知っており、それを口に出して言うだけの自信がある。

つまりこれは、ハイブリッドモデルのアプローチといえる。まず広告主の社内チームがマーケティング活動の戦略を立てたうえで、実行方法に関するコンサルティングを代理店から受ける。日々の運用は代理店が請け負う場合もあれば、社内チームが一部の業務をこなす場合もある。いずれにしても広告主側が代理店に成り代わってマーケティングのすべてを取り仕切ることにはならないだろう。

「我々のチームはもともと、広告代理店に取って代わる組織として編成されたわけではない」と、ドラフトライン・ヨーロッパ(draftLine Europe)のマネージングディレクター、ドリース・メルテンス氏はいう。ドラフトライン・ヨーロッパはビール大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser Busch InBev)の社内マーケティング部門だ。「我々はマーケティングミックスを補完する立場にある。もちろん業務効率アップにも貢献するが、世界規模で事業展開する当社のような消費財メーカーの組織内ではふつう見られない、多彩な能力を発揮できるチームになっている」。

代理店の運用モデルの理解

こうした変化を敏感にとらえているのが、広告代理店やメディア事業会社だ。

「企業各社から送られてくるRFP(提案依頼書)を見ると、マーケターの主な関心は今、代理店の運用モデルを理解するところにあるようだ」と指摘するのは、英国と欧州・中東・アフリカでメディア代理店事業を展開するエム・シックス(m/six)のCEO、ジャック・スウェイン氏だ。「この理解の有無が『出向』と『内製化』の違いであり、広告主は自社の依頼で社外の代理店から出向させた専門家と、社内で代理店業務に取り組むマーケティング担当者を状況に応じて使うようになった。ひとくちに内製化といってもそう単純ではない」。

次に、マーケターが直面している課題に目を向けてみよう。マーケターは、自分の業務を推し進めるのに必要な自由裁量権を手に入れるため、ほかの権利を手放さなくてはならない。これはジレンマだ。ちなみに、米国に本社を置く広告代理店、OHパートナーズ(OH Partners)はフォーチュン1000に入る大企業にサービスを提供しているが、そうした大手クライアントの大半が社内にマーケティングチームをそなえているという。

それでもOHパートナーズは今、かつてないほど多くのブランド企業と商談中だ。CEOのスコット・ハーキー氏によれば、「ソーシャルメディア上で共感を得やすく、規模拡大に対応できるアイデアの創出を支援している」という。ハーキー氏はクライアントの動向について、マーケティング内製化を重点的に進めたあと、ふたたび代理店の利用を増やした企業もあると認めた。

ハイブリッドモデルの狙い

そんな状況下の昨年、一部の広告主はメディア代理店との関係を維持し、加えて新たな代理店と取引を開始した。慣行として代理店が行っていたメディア買い付けの交渉で、自社が主導権を握りたいという狙いがあるようだ。

「我々は広告主としてのメリットを確実に得られるように、デジタル広告取引の一部をテレビ広告と同様の取引形態にしたいと考えている」と語るのはある製薬会社のデータマーケティング・ディレクターで、取引に支障がないよう匿名を条件に取材に応じた。「これまでは当社の代理で買い付け交渉にあたっていた代理店だが、デジタルメディア運営会社相手だと、従来型メディア運営会社に対するのと同様の影響力を発揮できないことがわかってきた」。

ハイブリッドというと最先端のように聞こえるが、マーケティングにおけるハイブリッドモデルは目新しいものではない

内製と外注のハイブリッドモデルは、ホテルチェーンのマリオットや金融サービスのJPモーガン・チェイスのような事情通の広告主が長年支持してきたモデルだ。しかし今ではより広く採用されるようになっている。実のところ多くのマーケターが、自社のレパートリー(複数のブランドからなるメニュー)を充実させるにはどうすればいいか、確信がもてないでいる。マーケティングを内製化する必要があるか否かの判断となるとなおさらだ。そうした難しい判断を迫られるプレッシャーを和らげてくれるのが、ハイブリッド式アプローチである。

「クライアントは、代理店に事業を再編成できる力があるかをテストして実態を把握したいと考えており、運用モデルへの注目度が高まっている」と、アドバイザリー会社のメディアセンス(MediaSense)で主席戦略パートナーをつとめるライアン・カンジサー氏は語る。「ただし、もし昨年の難局をしのいだ社内マーケターの存在がなかったとしたら? テストの緊急度が高いとみなされたかどうかはわからない」。

計画をあらためて見直し

コロナ禍以前は、マーケターのあいだで広告関連業務の内製化がもてはやされていた。取引における透明性欠如の問題によって代理店の仕事が期待はずれと評価され、代わりに内製マーケティングの「より速く、よりよく、より安く」というスローガンが業界を席巻した。実際、インハウス・エージェンシー・フォーラム(In-House Agency Forum)がフォレスター(Forrester)と共同で実施した調査(有効回答数368社)の報告によると、2020年初頭の時点で10社に7社が「社内に代理店機能がある」と答えたという。

思惑通りにはいかない。

内製マーケティングの拡大や自前の代理店設立をもくろんでいたマーケターは、計画をあらためて見直している。先行き不透明な市場動向に合わせて経費を増減させる必要に迫られるなか、内製化による固定費の増加は望ましくないからだ。ただ、代理店の人員整理が進んだ結果、優秀な人材確保が容易になったことを受けて、アンハイザー・ブッシュ・インベブなど、社内マーケティングチーム拡大路線を推し進める企業もある。しかしそうしたケースは一般的ではなく、むしろ例外だ。小規模なコンサルタント組織を次々と生んだ内製化の波は、今や後退気味となっている。

総合広告代理店マッキニー(McKinney)のCEO、ジョー・マグリオ氏は次のように指摘している。「広告主は、主にクライアントサイドで推進してきた内製サービスに比べ、代理店パートナーが提供するサービスの迅速さと質の高さを実感したのだろう」。

[原文:Brands rethink their in-housing plans after tactic was ‘put on ice’ amid pandemic

KIMEKO MCCOY and SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)