エージェンシー開拓ではなく、マーケティング機能の多くを内製化する企業が増えている。だが、どの機能を内製化するのが一番よいかを決めるのに万能のアプローチはない。米DIGIDAYの調査では、2019年には「プログラマティックメディア購入を内製化する」が37%、「クリエイティブ戦略を内製化する」が35%だった。【※本記事は、一般読者の方にもnoteにて個別販売中(480円)です!】
エージェンシーを開拓するのではなく、マーケティング機能の多くをインハウス化する企業が増えている。だが、どの機能をインハウス化するのが一番よいかを決断するにあたっては、万能のアプローチはない。むしろ、さまざまな企業のマーケターたちが、さまざまな理由で、多種多様な機能をインハウス化していると言っている。
米DIGIDAYが2018年12月にクライアントサイドのマーケター161人を対象に行った調査で、回答者は同様に、2019年には「プログラマティックメディア購入をインハウス化する」が37%、「クリエイティブ戦略を内製化する」が35%だった。
一方、回答者の3分の1は、2019年には検索エンジン収益化(SEM)と検索エンジン最適化(SEO)をインハウス化するだろうと言っている。プログラマティックメディア購入やクリエイティブ戦略とSEOやSEMは、マーケティングの世界では真逆にある作業だが、DIGIDAYの調査によると、インハウス化すると答えた割合はほぼ同じだった。
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マーケターたちは多種多様なマーケティング機能を同じくらいの割合でインハウス化するつもりでいるようだが、彼らが現在実際にやっていることとのあいだには大きな差がある。たとえば、DIGIDAYが調査したクライアントサイドのマーケターの75%は、クリエイティブ戦略の一部もしくは全部に責任を負っていると答えたのに対し、プログラマティック広告の購入について同じように答えた割合はたった29%だった。
クライアントがインハウス化を望むマーケティング機能は何かについて、広く受け入れられたロードマップはない。ブランド向けのマーケティング内製化コンサルティング業務を行うエージェンシー、ジャニュアリーデジタル(January Digital)の最高経営責任者(CEO)を務めるビク・ドラビッキー氏によると、マーケターがインハウス化しようとしているサービスは、企業によって規模も違うし、業界の種類によっても違うという。
もっとも注目を集めるもの
そうは言っても、プログラマティックバイイングのような機能は、たとえ、内製化率がほかのサービスと同程度であるとしても、世間の目を惹きやすい。「プログラマティックメディアバイイングは、もっとも注目を集めるもののひとつのようだ。同時に、自分の支出が実際にどう使われているかの透明性がもっとも少ないものでもある」と、ドラビッキー氏は話す。
プログラマティックをインハウス化するトレンドはある程度、近年、大手メディアの報道でターゲット広告やアドフラウド、ブランドセーフティが受けてきた扱いへの反動だ。メディア支出がどこで使われているかを直接コントロールしていないマーケターは、アドフラウドや望まない場所に表示された広告にひどい目に遭わされてきた。メディアバイイングで横行するキックバックの習慣の詳細を伝える全米広告主協会(ANA:Association of National Advertisers)の報告も、エージェンシーのサービスのいい宣伝にはならなかった。
プログラマティックメディアのインハウス化が注目を浴びるもうひとつの理由は、広告エージェンシーは多くの場合、クリエイティブ開発のようなサービスを提供することより、メディア支出のマージンに売り上げを依存している。バイエル(Bayer)、Uber(ウーバー)、グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)、JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)のようなクライアントがエージェンシーでのメディア支出を削減すると、メディアエージェンシーや持ち株会社のすでに不安定な売り上げモデルにとって大きな脅威になる。
外部利用の付加価値
メディアバイイングをインハウス化する企業がどれくらいあるかには限界がある。内部のメディアバイイングを売り上げにつなげるためには、企業は、億単位ではないにせよ数千万ドルをデジタル広告に費やさなければ投資を回収できないだろう。規模の小さい会社では、プログラマティックをインハウス化することによって実現される節約はほとんどない。社内でのプログラマティックバイイングには、節約の可能性を消し去ってしまい得るアドサービング技術に加え、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)またはデータ管理プラットフォーム(DMP)への支払いのように、人材以外の隠れたコストがいくつか存在する。
同様に、TVや印刷物など「従来の」広告購入では、クライアントはまだ、エージェンシーを指揮する支出力の恩恵を受けることができる。単独企業では、大手メディア企業や持ち株会社がやっているような方法で広告価格の交渉に影響力を持てない。
チョバーニ(Chobani)は、社内にクリエイティブチームを作ったが、米DIGIDAYに語ったところによると、メディア支出の価値を管理するのに十分な予算を使っていないそうだ。クロロックス(Clorox)もまた、社内にクリエイティブエージェンシーを作ったが、メディア購入を自社で所有することに、それほど明確な付加価値はないという。ボーダフォン(Vodafone)のような、より大手のマーケターはすでに、プログラマティックのインハウス化計画から手を引こうとしている。メディア購入をうまくやり通すのに必要な技術的専門知識の壁が立ちはだかるからだ。
成功するインハウス化
ドラビッキー氏は、技術的に課題の多いマーケティング機能をインハウス化するより、自社のブランドイメージに焦点を合わせたインハウス化作業を進めるほうがクライアントにとっては容易だと気づいた。「クリエイティブ戦略、メディア戦略、オーガニックなソーシャル、あるいはブランドを第一に考えたその他の機能のほうが社内チームが持っているスキルセットを拡張しやすい」からだと、ドラビッキーは語る。
エクスペリアン(Experian)やJPモルガン・チェース、ソーファイ(SoFi)、ソニー・ミュージック(Sony Music)などの企業も、社内でクリエイティブスタジオを運営している。そうした社内チームは、長期的に社内でのメディアバイイングが生み出すことができるレベルの節約にはつながらないかもしれないが、いくつかのメリットはある。クライアントは、社内チームはエージェンシーより早くキャンペーンを作れることに気づき始めている。さらに、社内の従業員は当然、エージェンシーの従業員よりブランドイメージをしっかり理解しており、各キャンペーンの成功により投資しやすい。
昔ながらの大手エージェンシーではなく小規模な専門ショップを好む人が増えるにつれ、クライアントとエージェンシーの関係が変わりつつある。マーケターたちはマーケティングに関わる幅広い種類の責任を社内で果たし、エージェンシーには、マーケティングチームがしていないことのギャップを埋めてくれることを期待する。
Mark Weiss(原文 / 訳:ガリレオ)