反人種差別のブランドも、かつて同様の インフルエンサー を敬遠していた

多くのブランドがいまでは「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター:黒人のいのちは大切だ)」を受け入れているが、インフルエンサーにとって、この話題に公然と触れることは、以前ならキャリアを危険にさらすような行為だった。

ロレアル・パリ(L’Oréal Paris)は、2017年にトランスジェンダーの黒人モデル、マンロー・バーグドルフ氏を解雇して批判の的となったが、2020年6月、彼女に償いをしようとした。ロレアル・パリのグローバルブランド担当プレジデントを務めるデルフィン・ビギエ氏は、ソーシャルメディアでの声明で「契約終了した頃にロレアルがマンローと十分な対話を行わず、サポートをしなかったことを残念に思う。我々がいま行っているのと同じくらい、変化に向けた話し合いをするためにできたことがもっとあったはずだ」と述べた。これを受けロレアルグループは、英国に多様性とインクルージョンに関する諮問委員会を作り、バーグドルフ氏をそのメンバーに加えようとしている。

バーグドルフ氏もまた、自身のソーシャルメディアアカウントで声明を出した。「3年前に私に起こったことは、個人としても、また私のキャリアにとっても非常に大きなトラウマになっているが、委員会に加わり、美容業界にいる黒人やトランスジェンダー、クィアの声を代弁し、彼らを擁護することは、私にとって重要だ」。

ファッションライターのアジャ・バーバー氏は「この問題についてマンローとロレアルが合意に達したことを、私は喜んでいる」と話す。バーグドルフ氏を支援するバーバー氏の動画は、6月1週目にインスタグラム(Instagram)で口コミで広がり、100万回近く視聴された。「これを機にすべてのブランドが、褐色や黒い肌の人間への不当な扱い、人種差別、企業の責任に関して、過ちを正すのに遅すぎることなどないと思い出してくれることを願うだけだ」。

この数週間、Black Lives Matterへの新たな支援を示す多くのブランドと並行して、インフルエンサーや有名人たちも、かつては公然と語るとキャリアに傷がつくと思われていた話題についてはっきり声に出して話すようになってきた。

「ずっと沈黙が保たれてきた」と、バーバー氏はいう。「いつの時代にも、話せることと話せないことについての決まりがあった。ブランドは白人至上主義というフレーズを好まない。このフレーズはブランドをかなり不快にさせる」。

自己検閲してたインフルエンサーたち

人種に対する不平等について声を上げることは、ある人々にとっては依然としてキャリアに終止符を打つ行為だと思われている。これは、『スターウォーズ(Star Wars)』に出演した俳優ジョン・ボイエガが最近のBlack Lives Matterの抗議行動のなかで表明した考えだ。一方、それを実行した人物として、もっとも有名なのがアメリカンフットボールのコリン・キャパニック選手で、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)による直接の対応はまだないが、Black Lives Matterや黒人フットボール選手を支持する新しい声明も出している。コリン・キャパニック選手を起用した2018年のナイキ(Nike)の広告は、彼を活用しようとするブランドがほかになかったことを考えると、当時は「画期的」とも「危険」とも「挑発的」とも思われた。

クリエイターでデジタルコンサルタントのシャードウ・セフィロス氏は、「政治活動家と手を組んだり、民族コミュニティと提携してクリエイターが主導するキャンペーンに参加したりするブランドをいままで見たことがない」と話す。

複数のインフルエンサーの話によると、「人種差別のような問題について、はっきりと意見を言うことは避ける必要がある」という思いは、暗黙の了解になっているようだ。なかには、潜在的なブランドパートナーとしてより魅力的に見えるように、自己検閲するインフルエンサーもいるという。

「私はいつでも、テレビ業界やファッション業界で仕事をしてきた経験から、PC(political correctness:ポリコレ、政治的妥当性)レベルを維持してきた。皆が私を見ているとわかっているので、注意していなければならない」と、語るインフルエンサーのメリッサ・シャテーニュ氏は、過去にはエスティーローダー(Estée Lauder)やニックス(NYX)のような美容ブランドと仕事をしたことがある。「さまざまなブランドと一緒に仕事をしているなら特に、『ありきたり』でいるほうが良いと知っている」。

「以前より行動を起こすようになった」

インフルエンサーの多くは、最近の一連の出来事を受け、人種差別の問題について前よりはっきり考えを表明するようになったというが、自分たちの言っていることをすべてブランドが自動的に受け入れるかどうかはわからないとも話す。シャテーニュ氏もこの数週間は、「より明確に意見を伝えてきた」という。「『彼女は少々物議を醸すところがある』とブランドに思われないか心配だが、それならそれでいい」。

コンテンツクリエイターのランビヤ・ロマス氏は、人種差別とイスラム恐怖症についてはっきり主張をしてきたが、この意見に同意する。「政治に無関心で、似たような支持者やアイデンティティを持っていたほかのインフルエンサーたちが、以前より行動を起こすようになった気がする。これが私の価値だと考えることはできるが、私が話すことが私にとって不利なものになる可能性はある。多くの白人インフルエンサーは特に、声を上げることを恐れていると思う。大手ブランドのキャンペーンを逃したくはないからだ。というか実際――私は(この仕事を)はじめてからずっと、(案件を)逃し続けている」。

近年、特に2016年の大統領選挙以来、多くのブランドが、社会問題に対する姿勢では、政治的に中立な立場をとるように変わってきた。なかでも、LGBTQ+の権利のようなテーマは、ほかより早く受け入れられた。

ブランドになにが求められているのか?

2017年のロレアルの決定についてバーバー氏は「政治的アイデンティティを複数持つことはできるし、企業文化のなかで最終的に受け入れることが可能なマンローの政治的アイデンティティのひとつを収益化できるため、彼女を雇用したいと考えるに至った。しかし当時の彼らは、マンローが複数の政治的アイデンティティを持つことに対応する準備ができていなかった」と説明した。

「ブランドにとって、分断を招くと見られたくはないので、政治に無関心でいることは好ましいと考えられている」と、ロマス氏はいう。「実際には、政治に無関心でいることのほうが分断を招きうる。人々のサブセット全体を締め出し、機会を奪うことになって、不公平になるからだ」。

多くの著名人がBlack Lives Matterへの支援を表明しているなかで、各ブランドは自社の企業文化をよく見て、ロレアルのような状況になることは避けなければならないだろう。

「全体構造を変えなければならない」

「いま、物事を本当に変えるには、企業は、全体構造を変えなければならない。誰かを解雇し、新しい人を雇う。彼らは、理解できる人を必要としている。そうでなければ、変化は不可能だ」と、セフィロス氏は語る。「よく見落とされる重要な要素が企業文化だ――企業文化は、そこで働く一人ひとりの拠り所となる属性を定義するので、もっとも重要なものだ」。

Liz Flora(原文 / 訳:ガリレオ)