新型コロナウイルスの感染拡大で到来したオンラインショッピングブーム。そんななか、もっとも大きな影響を受けているのが物流業界だ。とりわけ、商品の返品に関する事情が目まぐるしく変わっている。
新型コロナウイルスの感染拡大で到来したオンラインショッピングブーム。そんななか、もっとも大きな影響を受けているのが物流業界だ。とりわけ、商品の返品に関する事情が目まぐるしく変わっている。
返品業務を支援するハッピー・リターンズ(Happy Returns)の共同創業者、マーク・ゲラー氏は「ブランドはこの3年から5年で、返品についてイノベーションを進めてきた」と語る。「しかし、コロナ禍はその流れを一気に加速させた」。
企業の柔軟な返品ポリシー設計は、2020年の前倒しされたクリスマス商戦の盛り上がりを後押しした。しかしいまでは、消費者はそうした対応が当たり前になることを期待している。PwCのアンケートによれば、「返品ポリシーを購入の判断基準にしている」と回答した消費者は53%にも上るという。これを受け、各社は返品処理をいかにスムーズに進めるかを競い合い、かつそこにかかるコストをできる限り削減しようと努めている。
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物流網の調整
そのための施策のひとつが、返品商品の受け取り場所を増やすことであった。たとえば、eコマース支援を行うナーバー(Narvar)の調査によると、2020年は消費者の22%がドラッグストアやシェア用ロッカーに代表される、一時的な返品先を利用していたことが分かり、これは前年の13%から飛躍的に伸びている。また、約3分の1の回答者が、スーパーやコンビニといった最寄りのスポットで返品することを望んでいる。
なお、前出のゲラー氏によると「現在、郵送や宅急便ではなく、商品を店頭に持ち込む消費者が大幅に増加」おり、実際「返品件数全体の半分以上が、来店者によるもの」だという。その背景には、店舗での返品が安全であり、店舗であればついでに買い物もできたり、すぐに返金や交換を受けられるという、消費者の考えがある。
店舗での返品は、顧客にとってメリットはある。しかしウォルマートは、返品の多い時期であってもフェデックス(FedEx)による無料集荷サービスを受け付けている。また、Amazonは全米のコールズ(Kohl’s)やUPS、ホール・フーズ(Whole Foods)からの返品を受け付けている。さらにハッピー・リターンズは、フェデックスの拠点における、梱包不要のQR返品サービスを開始している。
ナーバーのCEO、アミット・シャーマ氏は「過去12カ月で、業界におけるQR返品サービスの利用率は、ほぼ倍増している」と語る。実際同社の調査によると、梱包不要の返品サービス利用率は、2019年の15%から2020年には28%と大きく伸長。背景にある要因のひとつは、現在、オフィスでの梱包作業が制限されているという事情があるという。
返品なしで返金
運用コストを下げるもうひとつの方法は、出荷と返品両方の機能をひとつの倉庫に集約することだ。「これまで、返品を多く抱える大手企業のあいだでは、返品専用の拠点を持つ例がほとんどだった」とシャーマ氏は語る。「しかしいまでは、新規注文だけでなく、返品にも対応する拠点として、倉庫を活用する」例が見られているという。これにより、製品の輸送距離が短くなり、複数の倉庫の容量も増え、返金処理もはやくなる。結果、コスト削減につながるということだ。
また、Amazonやターゲット(Target)をはじめとする小売企業のあいだでは、安価な商品であれば、購入者が商品を返品せずとも返金対応を行う例も見られている。PwCで、消費者市場部長を務めるタイソン・コーネル氏は、「小売企業は商品のコストや取り扱い、再販売にかかる各コストを網羅的に把握している。ときには商品を回収しない方が、収支上見合うこともある」と語る。
加えて、商品によっては企業側が寄付を薦めるケースも増えている。たとえばサイズが合わなかった幼児向けの服は、返品ではなく寄付をするよう薦めるのだ。
消費者は満たされない
こうした対応についてコーネル氏は、顧客が購入した商品を「誤って返品してしまう」可能性を、念頭に置く必要があると指摘する。また、「我々は、消費者による柔軟な返品システムの『悪用』も防ぐ必要がある」と付け加える。もちろん、多くの小売企業は、意図的にこのような行為を行う消費者の割合が、わずかであることは認識している。
ただ、D2Cブランドの場合は、製品を返品させずに返金するほどの余裕はない。ゲラー氏は、D2Cブランドに対しては、購入者に十分な商品情報を事前に提示することで、そもそもの返品率を下げることを奨励する。店頭で触れたり見たりできない商品については、写真やレビュー、詳細な説明が非常に重要なのだ。情報提供が十分になされていれば、ユーザーも確信を持って購入でき、返品は減少するはずである。
一方シャーマ氏は、ロイヤルティプログラムに、迅速な返品や返金システムを盛り込むといった考え方もあると述べる。「ロイヤルティプログラムというと、単純な割引を行う企業が多い。しかし、今後は返金を迅速に行ったり、返品可能期間を伸ばすといった特典も、検討されるべきだ」。
またコーネル氏は、次のような懸念材料を指摘する。「いまや、かつてないほど優れた返品システムが確立され、サービスも充実している。しかし消費者は、今後もさらに優れたサービスを求めるようになっていくだろう」。
[原文:“Covid was a huge catalyst” Brands look to maintain improvements in returns process]
ERIKA WHELESS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)