ブランドやマーケターがついにゲーム内広告のパワーに目を向けはじめた。米DIGIDAYは今日のゲーム内広告業界の成り立ちの経緯を考察するとともに、将来的な進化の方向性について、業界関係者たちに話を聞いた。
ブランドやマーケターがついにゲーム内広告のパワーに目を向けはじめた。
ゲームコミュニティの規模が拡大すれば、ブランドが自社にふさわしいエンターテインメントメディアを選び、直接ゲーマーにリーチする機会もおのずと広がる。実際、ブランドの関心が高まるに伴い、ゲーム内広告を扱う企業も急増している。新たに台頭してきたゲーム内広告企業がめざすのは、代替可能でプログラマティックなゲーム内広告や、没入型のエクスペリエンスだ。そしてそのような広告やエクスペリエンスは、プレイヤーたちのゲーム内での体験を向上させることもあれば、期待外れとなることもある。
これほどの成長にもかかわらず、この業界は、ゲーマーとブランドの関係性について、よくありがちな誤解をいまも払拭できずにいる。2022年に向けて、ゲーム内広告業界のステークホルダーたちは、ゲーム内広告のリーチ力や効果に関して広範な認知を形成するとともに、ゲーム空間への進出をもくろむゲーム業界外のブランドをより積極的に支援したいと考えている。
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テックナビオ(Technavio)の報告書「プラットフォーム別および地域別に見るゲーム内広告市場の動向」によると、ゲーム内広告市場は今後3年間で110億ドル(約1.2兆円)近くの成長が見込まれている。米DIGIDAYは今日のゲーム内広告業界の成り立ちの経緯を考察するとともに、将来的な進化の方向性について、業界関係者たちに話を聞いた。
01 黎明期
ゲーム内広告の歴史は、実はゲーム業界そのものと同じくらいに古い。黎明期のゲーム内広告は、ゲームのソースコードに直接記述(いわゆるハードコーディング)していた。そして開発者やその代理人が、この種の広告に懐疑的なブランドを説得して、ゲーム内に商品を掲出してもらうのが常だった。
ゲーム内広告のインフラ企業で、パブリッシャーと広告主にサービスを提供するアドミックス(Admix)のサミュエル・ヒューバー最高経営責任者(CEO)はこう語る:1年前、ポッドキャストの取材でゲーム内広告の先駆者たちを追跡した。もっとも古いゲーム内広告は1980年代半ばまでさかのぼる。任天堂(Nintendo)のあるゲームに広告出稿を試みたケースだ。1999年にはペプシ(Pepsi)のキャンペーンがあった。コインの代わりに缶を集めるという趣向で、ブランドをネイティブに統合するだけの試みだった。この頃から、すでにブランドはゲームのオーディエンスにリーチしようとしていた。しかし、それはもっぱら「このゲーム、あるいはあのゲームでキャンペーンをやろう」という企画ありきの話で、その工程は基本的に手作業だった。つまり、ゲームの開発者が文字通りペプシ缶をデザインし、ゲーム内に組み込むなど、能動的にキャンペーンの実装を担当しなければならなかった。
開発企業とブランドをつなぐゲーム内広告のプロバイダー、ビッドスタック(Bidstack)でCEOを務めるジェイムズ・ドレイパー氏はこう話す:ゲーム内広告の起源は1980年代にさかのぼる。ズール(Zool)というゲームが最初だったと記憶している。プラットフォームベースのゲームの背景に、チュッパチャプス(Chupa Chups)という商品が表示された。ブローカー的な人物が、広告代理店に出向いてスポンサー契約の話を持ちかけ、その後ゲームのプロデューサーを個別に訪問しては、ストーリーの一部にブランドを組み込むよう交渉していた。
ゲーム内広告企業のアンズ(Anzu)は、昨年、ロブロックス(Roblox)のクリエイターと連携して、ロブロックスのプラットフォームに広告を導入すると発表した。アンズのマーケティング担当バイスプレジデント、ナタリア・ヴァシリエヴァ氏はこう語る:ゲーム内広告の起源は80年代にさかのぼる。このころ、ゲーム内にハードコーディングの広告がはじめて出稿された。広告主はチュッパチャプスだった。ソースコードに直接記述したハードコーディングの広告が個別に出稿された。いうまでもなく、当時はプログラマティックなど存在しなかった。
02 過渡期
2022年、ゲーム内広告は急成長が期待される。アドミックスの報告書によると、今後1年間の見通しとして、メディアバイヤーの81%がゲーム内広告費の増額を検討しているという。しかし、このような状況は昔からあったわけではない。ゲーム業界の黎明期から現代ルネッサンス期にかけて、いくつかの企業がゲーム内広告の持続可能な事業化を試みたが、成功や技術革新の程度はさまざまだった。
ヴァシリエヴァ氏:2000年代初頭に、成功を収めた先駆的な企業がいくつか現れた。そのうちのひとつは、マイクロソフト(Microsoft)に買収されるほどの成功ぶりだった。マイクロソフトは買収したテクノロジーを活用してゲーム内広告の構築を本気で試みたが、うまくいかなかった。理由はいくつかある。要はやはり技術だが、その技術が欠けていた。規模も不十分で、ゲーム内広告への向き合い方も適切でなかった。初期のゲーム内広告企業としては、ダブルフュージョン(Double Fusion)やマッシブ(Massive)が挙げられる。マッシブはマイクロソフトが買収した会社だ。ちなみに、ダブルフュージョンの元CEOは我々の会社の戦略アドバイザーを務めている。過去の失敗に学ぶことは重要だ。
ドレイパー氏:2003年から2010年にかけては、ゲーム内広告を扱う3つの企業が相争う時代だった。そのうちのひとつはマッシブだ。2003年から2006年まで、良くも悪くも、業界はゲーム関連の企業だけで成立していた。広告フォーマットを標準化する、広告業界にこれを認めさせる、その一方でゲームのプロデューサーから賛同を取りつけるという点では、彼らは実に良い仕事をした。ところが2006年に、マイクロソフトが1000万ドル(約11億円)をくだらない金額でマッシブを買収した。マイクロソフトがXboxをスタートさせると、ソニー(Sony)にもチャンスがめぐってきた。マッシブ以外の2社、ダブルフュージョンとIGAワールドワイド(IGA Worldwide)はソニーのゲーム内広告に狙いを定めた。この時期、業界はある種のカオス状態だった。プログラマティックのテクノロジーはいまだ未成熟。サプライサイドは不在も同然。ゲームやインターネット接続も今日のようなものではなかった。デマンドサイドもサプライサイドも基本的に未成熟で、2010年には消滅していた。
ヒューバー氏:この時期、マッシブをはじめ、多くの企業が現れては消えていった。マッシブはマイクロソフトに買収され、結果的に潰(つぶ)された。それからIGA。この会社も買収されたと記憶している。ラピッドファイア(RapidFire)は開店休業状態だ(同社のソーシャルメディアは2017年以降更新されていない)。このように、5年くらいごとに明るい兆しが見えるのだが、技術的な観点からゲーム内広告を発展させようという動きは見られなかった。
03 テクノロジーの発展
テクノロジーがゲーマーの消費意欲に追いつくようになると、ゲーム内広告企業も復活した。プログラマティック広告をはじめ、より新しく広範なアドテクアプリケーションが、ゲーム内広告で機能するようになった。
ヒューバー氏:プログラマティック広告は2010年に誕生した。モバイル版は少し遅れて2014年から2015年あたり。それ以前は、キャンペーンの規模を変更することはできなかった。変更が必要なら、パブリッシャーに頼るしかない。基本的に、パブリッシャーと直接取引する時代だった。スケーラブルな広告配信を実現するための技術はなかったし、RTBに対応するオープンなアドネットワークも存在しなかった。当時の状況は、いまとはまったく違っていた。5年前、すでにテクノロジーは一応存在してはいたが、広告主にとって、ゲームは優先順位が低かった。ゲームはニッチなものと見なされており、フォートナイト(Fortnite)もロブロックスもいまほど大きくなかった。
ヴァシリエヴァ氏:デジタル時代の到来、そしてプログラマティックの台頭によって、誰もがパフォーマンスマーケティングに傾き、古き良きブランド広告は捨て置かれた。それがいま、デジタルの世界でようやくブランド認知のための広告が可能となった。ただし、いまはまだきわめて初期の段階だ。埋めるべき溝は多々あり、いまは改善に向かう途上にある。
ビッドスタックの最高技術責任者(CTO)を務めるフラン・ペトルッツェリ氏:進化ははるかに複雑になり、ゲームの世界にプログラマティックの標準が持ち込まれるようになった。多くのハードルがあり、多くの技術革新がある。プログラマティック広告はもともとインターネットとモバイル向けに開発されており、標準のフォーマットに対応している。逆にいえば、動きの速い、あるいはどんな形にせよ動きのある、動的な環境には対応していない。基本的に静的なウェブページで機能するように作られている。そのため、携帯電話の画面に対応するための技術や、他社の広告表示の見え方に対する理解など、ゲーム業界の標準と、標準的な世界で使われる効果指標のすり合わせが必要となっている。
04 ブランド側の関心の高まり
ゲーム内広告の成長に伴い、それまでゲームの領域とは距離を置いてきたゲームと無関係のブランドからも関心が寄せられるようになった。
メタバースのゲーム開発企業、デュービット(Dubit)のマシュー・ウォーンフォードCEOはこう明かす:妙な話だが、実はいま、ある保険会社と話をしている。しかし製品を売ろうとしているわけではない。我々の狙いは、このブランドとのつながりを築くことだ。
ヒューバー氏:ここ2、3年のあいだに、ブランド側に起きている変化にこそ目を向けるべきだ。ブランドはもはや、ゲームを単なるクリエイティブの表現手法とは考えていない。日々20億人もの人々が利用する有用なチャネルと捉えている。18歳から34歳の年齢層は、オンラインで消費する時間の20%から25%をゲームに費やしている。ブランドにとってはまさにターゲティングの盲点といってよい。ゲームそのものよりも、ゲームの背後にいるオーディエンスと、彼らの振る舞いこそが重要なのだ。20億人のプレイヤーとは、20億人の潜在的な消費者だ。
モバイルに特化したゲーム内広告企業、アドメイジング(Admazing)のマネジングパートナーを務めるエドワード・カスティーヨ氏はこう話す:多くのクライアントから、ゲーム内広告に関する今後の対応について問い合わせがある。ゲーム関連の企業だけでなく、ゲーム以外のブランドも含めてだ。
05 新種のeコマース
ゲーマーたちがバーチャルな物品を所有することに慣れてきたいま、ゲーム内広告はもはや、プレイヤーたちにフィジカルな商品を買わせるための広告媒体ではなくなった。実際、最近ではバーチャルコマースがひとつの産業として急成長している。そこでは、たとえば、ドレスエックス(DRESSX)がバーチャルな衣類を販売するなど、デジタルオンリーの商品が売られており、ゲーム内広告がその消費の促進にひと役買っている。
ウォーンフォード氏:私が若いころ、多くの高級ブランドが香水やフレグランスを販売しはじめた。シャネルの服を買うことに比べれば、香水やフレグランスは手頃な価格帯だった。そこには、消費者に若いうちから自社のブランドに親しみを持ってもらうという戦略もあった。私自身、いまもカルバン・クラインの服には手が届かないが、年に一度、香水を買うくらいならできる。私とカルバン・クラインの関係作りはこうしてはじまった。バーチャルな商品の販売にも、この理屈が通用するのではないか。ブランドに対する思い入れと購入には、何かしらの興味深い心理的効果があると思う。
ヒューバー氏:ゲーム空間で広告を配信しはじめた結果、ゲームは非常にリッチなエクスペリエンスとなっている。広告だけでなく、商品も容易に販売できるはずだ。現在我々はその実験をおこなっている。将来的には、エクスペリエンスに近いフォーマットや、ゲーム内の非代替性トークン(NFT)を商品として販売することも可能になるだろう。
06 メタバースへの進出
メタバースの開発競争では、ゲーム分野からリーダーが生まれている。ゲーム内広告も例外ではない。今日のゲーム内広告企業の多くが、明日のメタバース内広告企業となることをめざしている。
ペトルッツェリ氏:実際のところ、我々の仕事の本質として、メタバース内広告のエコシステムに最初から積極的に関わっている。プレイヤーたちが互いに交流し、スキンを交換し、あるいはゲーム環境とインタラクトする。実質的に、それがメタバースという空間だ。ゲーム内広告も本質的につながっていると思う。
ウォーンフォード氏:メタバースのおもしろいところは、これらプラットフォームのなかに、誰でも何かを構築できることだ。「四角い広告枠を買って、四角いバナーを出す」といった制約はない。フォートナイトであれ、ロブロックスであれ、レックルーム(Rec Room)であれ、何でも好きなものを作ることができる。ブランドは人が向かうところについていく。ユーザーがメタバースに向かうなら、ブランドも必ずや追ってくるだろう。問題は、メタバースのユーザーがブランドにとっていくらの価値があるのかということだ。
[原文:‘Brands follow where people are’: An oral history of the evolution of in-game advertising]
Alexander Lee(翻訳:英じゅんこ、編集:猿渡さとみ)