[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ここ数年、ピューディパイ、ライザ・コシなど、YouTubeのトップスターたちの多くが活動を休止し、ビジネスの健全性だけでなく自らの健康にも注意を向けるようになった。しかし、こうした決断は、彼らにとって恐ろしいことでもある。再開後に自身のビジネスを元の水準にまで戻せる保証はないからだ。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]アリーシャ・マリー氏は2018年5月、絶好調な時を過ごしているはずだった。その1カ月前、YouTubeのスターであるマリー氏は、一時は700万人を超えるサブスクライバーを集めた自身のメインチャンネル開設10周年を祝ったばかりだった。だが予測に反し、マリー氏はどん底に落ちようとしていた。
マリー氏のYouTubeチャンネルは10年という時間をかけて、女子高校生が趣味を披露する機会から、25歳にして一軒家を買えるようになった魅力的な生活を見せる場へと成長してきた。だが、そうしたビジネスを確立する過程でマリー氏は燃え尽きてしまった。1日の休みを取ることさえ選択肢にはなかった。マリー氏は、支払いを続けていくための数々の動画を常に作り続ける必要性を感じていたからだ。長期のパートナーシップや持続的収入を生み出すかもしれないブランドとの契約につながりうるネットワーク作りに期待して、業界イベントにも足を運んだ。だが、マリー氏は2018年5月に少しやり過ぎてしまった。
「まさか自分がそんなことをするなんて、思いもよらなかったことをしているのに気づいた。ただ、視聴数だけを追いかけ、なんの自慢にもならない動画をアップしていた」と、マリー氏は話す。
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パニックに襲われたマリー氏は、2カ月間YouTubeを休もうと決心した。活動休止期間中、マリー氏はここまでのビジネスを振り返り、自分自身はボスであるが、ただ1人の従業員にはなれないという事実に気づいた。マリー氏は、「すべてを1人でやり続けることはできない、特にもっと大きなプロジェクトをやりたいと思うなら無理だとすぐわかった」と言い、マネージャーに加えてアシスタントと制作アシスタントを雇った。
燃え尽きるユーチューバー
ファイン・ブラザーズ・エンターテインメント(Fine Brothers Entertainment)のプレジデントであるラフィ・ファイン氏は、YouTubeのスターは「最高経営責任者(CEO)だが、ソーシャルメディア部門であり、制作会社であり、編集者でもある。文字通り週7日、24時間休みなく、多くの仕事をこなして行かなくてはならない」と話す。ファイン・ブラザーズ・エンターテインメントは、ラフィ氏が兄のベニー氏とともに2007年にYouTubeチャンネルとしてはじめ、現在は80人以上の従業員を抱えるメディア企業にまで成長した。
YouTubeのスターたちは、自分は、趣味に端を発するメディア企業のボスだと思ってきた。ここ数年、マリー氏をはじめピューディパイ、ライザ・コシ、リリー・シン、グレース・ヘルビッグ、デビッド・ドブリックなどYouTubeのトップスターたちの多くが活動を休止し、ビジネスの健全性だけでなく自らの健康にも注意を向けるようになった。しかし、こうしたYouTubeのスターたちにとって、活動休止の決断は恐ろしいことでもある。再開後に自身のビジネスを元の水準にまで戻せる保証はないからだ。ファンの注目は移り変わってしまうかもしれない。プラットフォームのアルゴリズムは彼らのコンテンツに有利に働かなくなるかもしれない。それに、マーケターはほかのYouTubeのスターと手を組んでしまうかもしれない。
ブランドやエージェンシーの幹部たちによると、YouTubeスターの燃え尽きは、多くのマーケターのレーダーに捕らえられるようになった問題ではないという。マーケターの多くはインフルエンサーマーケティングに馴染みがなく、YouTubeスターとの仕事の進め方を理解し、不敬行為や攻撃的内容のコンテンツを示す危険信号を探すことには関心を向けているが、YouTubeスターが不安やうつと闘っているかどうかは気にも留めていない。
ブランドとの信頼関係
ワンダーマン(Wunderman)でマーケティングパートナー担当シニアバイスプレジデントを務めるバック・ワイズ氏は「ブランドはインフルエンサーの健康をチェックしているか? リーチ目的やキャンペーン型の関係でインフルエンサーを使っているなら、その答えはノーだ」と話す。しかし、YouTubeスターが、そしてより多くのマーケターが長期にわたるビジネス上の関係性を求めるようになると、ブランドはYouTubeスターの健康を気にしはじめると、ワイズ氏はいう。
問題の表面化でブランドとの契約が危険にさらされるとYouTubeスターは心配するかもしれないが、反対の効果があるようにも思える。「いまの時代、真実の生々しい生活や人々の実際の体験を扱うコンテンツが増えている。公に知られた事柄を体験している人に、ブランドはより強く惹かれると思う」と、ワイズ氏は述べる。
モバイルゲーム会社シリアスリー(Seriously)はこの4年間、インフルエンサーマーケティングへの投資を続けてきた。同時に、YouTubeスターが不安や精神面の健康問題を抱えていて、取引を遅らせる必要があると、そのマネージャーが個人的に連絡してきた例も複数あったそうだ。だが、それが問題になったことはないと、同社のブランドおよびデジタル担当エグゼクティブバイスプレジデントのフィル・ヒッキー氏は語る。「我々は後日改めて話し合い、インフルエンサーと信頼関係を築いていくことに同意しているし、後に彼らと何かをしている」。
マリー氏のその後
マリー氏が昨年活動を休止したとき、ブランドとの契約が危険にさらされた。彼女はあるブランドと、彼女のメインチャンネルでプロモーションを行う契約をしていたが、活動休止時点でまだそれをやっていなかった。マリー氏はブランド側に事の次第を説明した。ブランドは幸いにも理解を示し、契約については後日再考できると言った。
だが、活動を再開したとき、マリー氏は、契約内容が双方にとってよいものでないことに気づいた。ブランド側も同意し、将来彼女と一緒に仕事をするための道筋は残しておいてくれた。「この出来事は、休んだあとに物事をクリアに考えられるようになったことを示している」というマリー氏は現在、周りにチームを従え、ポッドキャストやグッズ製作を開始している。
Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)