eコマーススタートアップのマーケターたちは、セールや新製品発売のプロモーションにますますテキストメッセージを活用するようになっていると語る。というのも、顧客の多くが10年以上オンラインショッピングを続け、数十のブランドのメール通知を登録している現状において、eメールに気づいてもらうのは至難の業だからだ。
メッセージアプリは今、ブランドや小売業者がもっとも注目するデジタル空間になりつつある。
eコマーススタートアップのマーケターたちは、セールや新製品発売のプロモーションにますますテキストメッセージを活用するようになっていると語る。というのも、顧客の多くが10年以上オンラインショッピングを続け、数十のブランドのメール通知を登録している現状において、eメールに気づいてもらうのは至難の業だからだ。そのうえ、今後のiOS14のアップデートにより、マーケターはFacebookなどのサイト上でターゲット広告を利用できなくなるおそれがある。iOS14のアップデートの一環として、iPhoneユーザーは今後、オプトインしないかぎりアプリにブラウザ履歴をトラッキングされることがなくなる。顧客がオプトインしなかった場合、eコマースサイトを含む過去のサイト閲覧履歴を利用して、マーケターがターゲット広告を提示することは不可能だ。
このように、デジタルマーケティング業界にさまざまな変化が押し寄せるなか、企業は人々のもっとも親密なコミュニケーションツールに目をつけている。テキストメッセージは依然としておもに友人や家族との連絡に使われており、ブランドに完全に乗っ取られていない最後のデジタルコミュニケーション手段のひとつといえる。だが、マーケティングチャネルとして利用されてからの日が浅いため、マーケターはまだ、顧客がブランドからのテキストメッセージをどれくらいの頻度まで許容するのかを見極めている段階だ。あまりに多くのメッセージを送りつければ、顧客から完全にシャットアウトされる可能性が高まる。
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「SMSはいろいろな意味で、マーケティングとブランドコミュニケーションの最後のフロンティアだと思う」と、アウトドア用スキンケア用品(虫除けや保湿剤など)を販売するスタートアップ企業、キンフィールド(Kinfield)でCEOを務めるニコール・パウエル氏はいう。「消費者のひとりとして、理由はよくわかる。私は何年も前にメールの受信箱に見切りをつけたし、今ではソーシャルメディアでさえ飽和状態に思えることがよくある。インスタグラムで何年もフォローしているブランドはあるが、そのブランドの投稿を最後に見たのがいつかは思い出せない」.
投資家でマーケティングストラテジストのニック・シャーマ氏によると、SMSブームの中心にいるのは「顧客のエンゲージメントをどうにか維持し、購入につなげる」手段を模索しているブランドだという。マーケティングプラットフォームのオムニセンド(Omnisend)によると、同社のソフトウェアを利用する5万社以上の企業が送信するSMSメッセージの数は、2019年から2020年にかけて378%増加し、一方でeメールキャンペーンの増加は108%にとどまった。
新たなSMSストラテジー
eコマーススタートアップのマーケターの話では、彼らは顧客へのテキストメッセージ送信を控えめにしており、たいていは月に数回程度だという。ただし、彼らはまだどんなメッセージなら、そしてどの程度の頻度なら、顧客がブランドからのメッセージを許容するのかを探っている段階だ。ファッションノバ(Fashion Nova)は昨年、パンデミックによる経済損失の補填を目的とした給付金で商品を購入するよう促すSMSを顧客に送信し、大いに批判を浴びた。
マーケターがSMSを利用するもっとも一般的な方法のひとつが、セールの案内だ。これは、お買い得情報を教えてくれるなら、ブランドからのテキストメッセージでもうるさく思われないだろうという前提に基づいている。D2C(Direct-to-Consumer)下着ブランド「シンクス(Thinx)」のエンジニアリングディレクター、ブレンダン・ヘースティングス氏は以前、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、8月のセールのプロモーションにSMSを使ったと答えた。同社の調べでは、SMSメッセージの開封率は100%近いが、eメールの開封率は15~30%にとどまると、ヘースティングス氏はいう。
パウエル氏によると、キンフィールドはまだSMSを使ったセールプロモーションは実施しておらず、おもに今後の商品の包装について尋ねる顧客アンケートの目的でSMSを利用しているが、将来的にセール通知にも使う可能性はある。「時間をかけて顧客を理解し、どんな目的のSMSが期待されているのか直接知りたいと考えている」と、同氏は語る。
D2C炭酸飲料ブランド「オリポップ(Olipop)」で顧客体験・リテンション担当ディレクターを務めるイーライ・ワイス氏は、同社はテキストメッセージを使って新しいフレーバーの発売を知らせ、効果を実感したという。オリポップはインスタグラム上で、SMSリストにサインアップして新フレーバーを発売と同時に手に入れよう、と顧客に呼びかけている。
昨年12月にオリポップが期間限定ブラックベリーバニラ味を発売した際、SMSリストの登録者による購入で、同社は15分間に1万5000ドル(約164万円)の売上を獲得した。それでもeメールリストからの売上の方がわずかに上回ったが、eメール登録者の数はSMS登録者の10倍だ。
すぐに濫用される可能性
SMSが完全にeメールに取って代わることはないだろうとワイス氏は述べ、オリポップは「もっとも熱心なファンとのコミュニケーション」のためにだけSMSを用いるとした。また、顧客へのテキストメッセージの頻度は月に1~2回にとどめる予定だという。将来的には、オリポップはSMSを使って商品を販売したり、カスタマーサービスチームの各メンバーからよりパーソナライズされたメッセージを顧客に送ることも検討している。
「新しいマーケティングツールの例にもれず、SMSもすぐに濫用される可能性がある。すでに週に3通メッセージを送っているブランドもある。今後は限定性と明確な意図が重要になるだろう」と、ワイス氏は述べた。
[原文:Brands bet on texts to pique customers’ interest amidst digital marketing upheaval]
ANNA HENSEL(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:)