多くの実店舗が閉鎖している今、ブランドは集客のため、あらためてARに注目している。こうしたAR機能は特にビューティー業界でブームとなっており、ユーザーはスワイプ操作ひとつでアイシャドーや口紅を試すことができる。それだけではない。いくつかのカテゴリーでは、AR機能は販売促進にも役立つというデータが蓄積している。
バーチャルメイクを提供するブランドやプラットフォームが増加しているが、そのリストにピンタレスト(Pinterest)が加わった。
ピンタレストは1月22日、同社のユーザーがランコム(Lancome)、YSL、ニックス・プロフェッショナル・メイクアップ(NYX Professional Makeup)といったパートナーのアイシャドーをデジタルで試すことができるAR(拡張現実)機能を発表。ピンタレストはすでに、口紅の同機能を提供している。バーチャルメイクのピンが増えるということは、顧客との交流が増えることを意味し、メイクアップ用品のショッピングのニューノーマルになる可能性を秘めているのだ。
同社でエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントを務めるジェレミー・キング氏は「このテクノロジーはパンデミック後も生き残ると思う」と話す。「店舗に行ってメイクアップ用品を試す世界には戻らないと思う。すべてスマートフォンで済ますことができる」。
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ウェイフェア(Wayfair)、イケア(IKEA)などの小売企業は数年前、3DやARによる商品視覚化サービスを開始しており、ワービーパーカー(Warby Parker)は2019年初頭に、眼鏡をバーチャル試着できるアプリを公開している。
しかし、多くの実店舗が閉鎖している今、ブランドは集客のため、あらためてARに注目している。こうしたAR機能は特にビューティー業界でブームとなっており、ユーザーはスワイプ操作ひとつでアイシャドーや口紅を試すことができる。それだけではない。いくつかのカテゴリーでは、AR機能は販売促進にも役立つというデータが蓄積している。
Qリアル(QReal)のゼネラルマネージャー、マイク・カドゥ氏は「ARはかつてブランドとのエンゲージメントを促すためだけのものだったが、今はeコマースへの活用が増えている」と話す。QリアルはSnapchatの3Dレンズをつくった企業で、複数のブランドとともに3D広告商品を開発している。
3DとARで売上が30%増加した
それでも、課題はある。顔や足はマッピングしやすいため、眼鏡、帽子、靴といった商品に関しては、ARの導入は比較的容易だ。しかし、大きな商品はレンダリングに何時間もかかる場合がある。キング氏はメイクアップ用品を試すために店舗を訪れる人はもういないと予想しているが、実店舗の客足を伸ばすためにARを活用したいと考える小売企業もある。
Snapchatなどのソーシャルプラットフォームに組み込まれていることもあり、ARのユーザー基盤は着実に拡大している。eマーケター(eMarketer)は2021年、米国のソーシャルネットワークARユーザーは4700万人になると予測している。2019年は3800万人だった。
パンデミックはデビッズ・ブライダル(David’s Bridal)のAR投資を加速させた。デビッズ・ブライダルは2020年後半、3D、ARコマースソリューションを提供するバータブレイ(Vertebrae)と提携し、50商品の詳細をARで見ることができるツールを公開した。最高デジタル体験責任者のリジー・エリングソン氏によれば、ツールへの反応は上々で、実店舗への予約が100%、売上が30%増加したという。
過酷な写真撮影が報われた形だ。1着のウェディングドレスを再現するために12~16時間をかけて300枚の写真を撮影した。デビッズ・ブライダルでは、5月までにアクセサリーを含めて100商品追加する計画だ。
「これが店舗での体験に取って代わるとは思っていない」とエリングソン氏は話す。「しかし、花嫁たちが少なくとも試着したいドレスだと確信する助けになると考えている」。
「そのうち一気に花開くだろう」
消費者の確信はパーフェクト(Perfect Corp)のバーチャルメイクアプリ、YouCamメイク(YouCam Makeup)の成功の原動力にもなっている。創業者兼CEOのアリス・チャン氏はバーチャルメイクの方が衛生的だと指摘する。チャン氏はメール取材に対し、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以前も、消費者のあいだで、店舗に置かれたテスターの衛生状態に対する懸念の声が聞かれた」と述べている。「パンデミックをきっかけに、衛生に対する人々の意識が高まり、物理的なテスターはより安全、便利でとてもリアルなバーチャルメイクに急速に置き換えられている」。
口紅はマスクで隠れるうえ、多くの人が自宅では口紅を塗らないにもかかわらず、パンデミック以降、YouCamメイクを使ったバーチャルメイクは32%増加している。さらに、パーフェクトは最近、5000万ドル(約52億円)の資金調達を行った。
「ARが研究開発(R&D)の手を離れ、市場への投入が進めば、そのとき、一気に花開くだろう」とカドゥ氏は話す。「もちろん、もっと真剣に予算を割り当てた方がいい」。
[原文:Why more brands are looking to augmented reality product try ons to drive sales]
ERIKA WHELESS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)