ブランド各社は、トレンドとして急速に普及しつつあるVR( 仮想現実 )が、最新の小売技術であるライブ配信やソーシャルコマースで成功することを期待して、徐々に採用している。このテクノロジーは主にゲームと関連するものだが、フィットネスや職場での生産性向上のソフトウェアにも応用できる可能性がある。
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トレンドとして、VR(仮想現実)が急速に普及してきた。このテクノロジーが、最新の小売技術であるライブ配信やソーシャルコマースで花開くことを期待して、ブランド各社は徐々に採用しはじめている。
新しい形式のオンラインショッピングをすでに試みた各企業は、この生まれたばかりの技術のアーリーアダプターになりつつある。このテクノロジーは主にゲームと関連するものだが、フィットネスや職場での生産性向上のソフトウェアにも応用できる可能性がある。ダイソン(Dyson)は11月下旬、自社のD2Cビジネスをより多くのプラットフォームに拡大する促進の一部として、メタ(Meta、旧Facebook)のオキュラスクエスト2(Oculus Quest 2)ヘッドセット用のVRアプリをリリースした。ブランド用の仮想店舗を作成している企業であるオブセス(Obsess)の創設者でCEOを務めるネーハー・シン氏は、すでにゲームや拡張現実を実験している小売業者も、VRに興味を示しているという。同社のクライアントにはトミーヒルフィガー(Tommy Hilfiger)や、美容品ブランドのシャーロットティルベリー(Charlotte Tilbury)やダーマロジカ(Dermalogica)などがある。
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現在のところ、VRはニッチチャネルに留まっている。テクノロジーおよびメディアの分析企業であるオムディア(Omdia)は、オキュラスクエスト2ヘッドセットが2020年の発売から最初の3カ月に240万台売れ、今日までもっとも迅速に売上を伸ばしたVRヘッドセットであり、今年末までにさらに700万台が売れると予測している。このヘッドセットの価格は299ドル(約3万4100円)からとなっている。ゲーム関係の筆頭アナリストであるジョージ・ジジャシビリ氏は、「北米と西ヨーロッパ全体のVRヘッドセットの世帯普及率は、2021年でわずか4.1%であり、VRの普及にはまだ長い時間を要することが示されている」と、述べている。
視野に入りはじめたコマースへの応用
シン氏は、完全なeコマースのオプションが利用可能になれば、Facebookを親会社に持つオキュラスが構築したVRプラットフォームを採用するブランドは増えると期待している。シン氏は次のように述べている。「問題になるのは、オキュラスには簡単な購入ルートがないことだ。しかし、この機能の実現は視野に入りはじめている。我々は今それに取り掛かっている最中だ。購入は確実にデバイス自体に移行していくだろう」。
ダイソンが11月にVRアプリを発表したとき、同社のグローバルeコマースディレクターを務めるショーン・ニューマーチ氏は、顧客がクエスト2ヘッドセットから商品を購入できるようにする「完全なエンドツーエンドのeコマースソリューション」を開発中だと述べた。メタはこの点についてコメントしていない。
現在ダイソンのVRアプリでは、ユーザーがバーチャルな製品に触れることができるようになっている。顧客は新しい体験の一環として、熱を加えると色が変わるヘアドライヤーを髪に使ったり、フーバー(Hoover)のV15コードレス掃除機でゴミを吸い取ったりすることができる。今後計画されている多くの新機能の一環として、カスタマーサービススタッフとのビデオチャット機能を追加しようとしている。ARやライブショッピングの取り組みと同様に、このVR体験も、テクノロジーを駆使したダイソンのD2Cビジネスを拡大しようとする試みの一部だ。
同社は消費者向け家電機器メーカーとして、全世界で318の実店舗を運営しており、パンデミックの禍中に実店舗での顧客との物理的な接触が失われたことから、VR体験を作り出すことを決定したと、ニューマーチ氏は語る。ダイソンは今年19の店舗を開設し、来年にはさらに23店舗の開設を計画している。決算書によれば、ダイソンホールディングス(Dyson Holdings)の昨年の利益は、12%増の7億9700万ポンド(約1200億円)で、収益は5.7%増の57億ポンド(約8550億円)に達した(同社はオンラインやD2Cの収益を公表していない)。
ダイソンは、VRを利用して、研究開発の過程で社内で作成した仮想資産と同じものを使い、自社製品の内部構造を消費者に説明する新しい方法をテストしていると述べている。創設者でチーフエンジニアを務めるジェームス・ダイソン氏は、「当社の顧客は、当社から直接購入することを望むようになってきている。我々が技術開発を行い、その技術を保守するために最適な立場にいることを考えれば、これは納得できることだ」と声明で語っている。
しかし、仮想現実がメインストリームの消費者に対して魅力があるかどうかについてはいまだ疑問がある。専門家たちは、VRが大々的に採用されるかどうかは、VRがより自然で、人々の暮らしと統合されたものに進化することにかかっていると考える。シン氏は、「VRは、単に顔に装着する大きな機械ではない」と述べる。大手の企業がVRを採用するにつれ、普及にも火がつくことになるだろう。「AppleがVRを使用すれば、爆発的な推進力になるだろう」とシン氏は言及している。
メタバース経済
ダイソン以外の企業も、各種のプラットフォームでVR(仮想現実)とAR(拡張現実)による小売を試みている。グッチ(Gucci)とナイキ(Nike)は、オンラインマルチプレイヤーゲームのロブロックス(Roblox)のなかで、ファッションショーを開始した。バレンシアガ(Balenciaga)は最近、フォートナイト(Fortnite)内で高級アパレルの販売を開始した。また、ラルフローレン(Ralph Lauren)とアディダス(Adidas)は韓国のソーシャルアバターアプリのゼペット(Zepeto)でインタラクティブな体験をはじめた。一方で美容品ブランドのシャーロットティルベリーは、自社ウェブサイトに仮想店舗を作成した。
ラルフローレンは8月、ゼペットでのデジタル衣料ラインによって仮想経済への参入を果たしたと述べた。ロブロックスにおけるナイキのナイキランド(Nike Land)レベルでは、インタラクティブ性をさらに高め、ユーザーがミニゲームをプレイしたり、作成したり、デジタルスポーツウェアを購入したり、スマートフォンのセンサーを使用して、ゲーム内で現実の動作を真似ることができるようにしている。同社はこの立ち上げが、「スポーツと遊びをライフスタイルに変える」という使命の一環であると述べている。
これらのブランドが取り組んでいるプログラムは、自らをメタバースプラットフォーム(これは、VRを利用した新しい種類のインターネットから、たとえばフォートナイト内におけるアリアナ・グランデのバーチャルコンサートのような、ソーシャルエクスペリエンスと対戦型ゲームを組み込んだマルチプレイヤー体験まで、あらゆるものを大まかに使用される用語である)としてブランド化している。メタはメタバース商品への投資を重視しており、これが数千億ドル相当のデジタル商品の市場を生み出すと述べている。同社はすでに自社のクエスト(Quest)というプラットフォームで、ユーザーがアプリ内のデジタルアイテムを購入できるようにしている。
新しい視聴者層
現在、小売業者がこうしたサービスを開始する主な目的は、若い年齢層の消費者のあいだでブランドの認知を高めることだ。「彼らは、将来の顧客が成長し、自らの消費力を持ったときに、その顧客とつながるための準備をしているのだ」とシン氏は説明する。また小売業者は、自社の顧客と重なるコミュニティを持つプラットフォームを選択している。FacebookのVRプラットフォームは主に男性向けで、ロブロックスやフォートナイトのような無料ゲームと比べてより裕福なユーザーに使用される傾向があると、同氏は語っている。
メタは、ハードウェアの普及を拡大するため、価格を助成することを表明した。これにより、このテクノロジーの採用が拡大する可能性がある。インペリアルカレッジビジネススクール(Imperial College Business School)の戦略マーケティング修士課程と経営学修士課程の講師を務めるマリアリーナ・ジノポロー氏は次のように述べている。「VRヘッドセットの価格が低下するにつれ、消費者が日常的に使用するインタラクティブなプラットフォームの一部になるだろう。近い将来、あらゆるブランドは仮想コンテンツと、自社商品のデジタルツイン(現実世界に実在するものをデジタル空間でリアルに複製したもの)を検討する必要に迫られるだろう」。
シン氏は、ダイソンなど初期にVRを採用した企業は、一部の人々が予測するように、このテクノロジーが花開いた場合、競合上の優位を得られるだろうと考えている。同氏は次のように述べている。「オキュラスクエスト2にもっとも興味を抱いているのは、将来を見据えたブランドだ。これらの企業は、今はVRがまだ小さな市場で、成長には2年か3年を要する可能性があることを理解している。早期に参入し、得られたデータや教訓を活用することは、VRの採用が拡大したときにこれらの企業を優位にするだろう」。
[原文:Brands are betting that shopping in virtual reality is on the horizon]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Dyson