「 ブランデッドムービー は必ずメインストリームになる」:オプト 金澤大輔氏 × SSFF & ASIA・別所哲也氏

動画マーケティングが一般化した現在、企業のメッセージをストーリー仕立てで伝える「ブランデッドムービー」に注目が集まっている。その肝は、ストーリーと映像の力で受け手を振り向かせ、引き込み、「自分ごと化」してもらうことにある。

なかでも、スポンサードショートフィルムともいえる数分の動画広告を「ブランデッドショート(Branded Shorts)」と銘打ち、年に一度の祭典で評価しているのが、俳優の別所哲也氏(TOP画像右)が代表を務めるアジア最大級の国際短編映画祭・ショートショートフィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)だ。企業やクリエイターらの関心の高まりをいち早く捉え、2016年にブランデッドショート部門を立ち上げた。

この領域のさらなる研究と分析、また企業へのマーケティングおよび制作支援を進めるために、SSFF & ASIAを運営するパシフィックボイス(Pacific Voice)はパートナーにデジタルを軸にマーケティング事業を展開するオプト(Opt)を迎えている。現在両社は、ノウハウの蓄積や効果の可視化を図る「Branded Movie Lab.(ブランデッドムービーラボ)」をともに運営。同時に、たとえば格安スマホNifMo「轟満(とどろきみつる)の先入観」(ニフティ)や、海外旅行保険【off!】「新感覚リズミカルムービー【off!】」(損害保険ジャパン日本興亜)など、ブランデッドムービーの事例に取り組んできた。

ブランデッドムービーの可能性を見出し、それを拡張して文化にまで高めようという点で、別所氏とオプト代表の金澤大輔氏(TOP画像左)は互いに多くを語る前に一致をみたという。両者の対談から、ブランデッドムービーの効果と今後の可能性を探る。

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金澤大輔氏(以下、金澤):SSFFのことは以前から知っていましたが、2016年のブランデッドショート部門の立ち上げに先駆けてご連絡を受けたときには驚きました。事務局の方から「ブランデッドショートの活性化に一緒に取り組めないか」と打診をいただいて。

別所哲也氏(以下、別所):僕らは、ショートフィルムとそのコンペティションには20年にわたる知見があるものの、進化のスピードの速いネット広告における動画の領域の専門家ではありません。事務局の皆で話すなかで、パートナーとして、動画マーケティングを先駆的に模索しているオプトさんの名前が挙がったんです。

金澤:嬉しいです。私はもともとテレビ局のADからキャリアをスタートしていて、映像でメッセージを届けていくことにずっと興味があったので、そのお声かけにはふたつ返事で応じましたね。2015年にオプトの代表に就任して直後に着手したのも、ダイレクト広告とは別のブランド広告の専門部隊を立ち上げたことでした。なかでも、ストーリーをもって企業が生活者と関係を築いていくブランデッドムービーは必ずメインストリームになるし、我々がクライアントの事業成長に貢献する際にこれから欠かせない手段になるとも思っていました。この2年でも、相当進んだ感覚があります。

別所:そうですね、同感です。

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SSFF & ASIAの別所氏(左)と、オプトの金澤氏(右)

数年で予算規模が100倍に

金澤:別所さんはもともと、どういった気付きからブランデッドショートという領域を深掘りしようと思われたんですか?

別所:古くは2001年のBMWフィルムズ、それからネスレが続き、数年前からストーリーを伴った映像でブランドメッセージを伝える手段がどんどん広がるなかで、これは映像作家たちの力を活かせる新しい場所としても、非常に伸び代が大きい世界だと感じていました。同時に映画と広告が双方から近づき、監督をはじめクリエイターも越境していくなかで、「このネット広告の時代には映画祭と広告祭もハイブリッドにつながるのだろう」と思うようになったんです。それがブランデッドショート部門の立ち上げの発端です。僕らがオプトさんと組んだのも、プレイヤーが両側から近づいている表れですね。金澤さんは、ネット広告に携わってこられた立場から、どういった潮流を捉えていたんでしょうか?

金澤:2012年の前後あたりからネット上の動画の可能性は感じていて、50人規模の動画広告の専門組織を業界でもいち早くつくっていました。生活者の通信環境やデバイスの変化から、動画視聴の機会が急速に拡大していたので、この市場はもっと大きくなるはずだと考えていました。

別所:実際に数字の上でも、動画コンテンツへの企業の投資は高まっていますか?

金澤:はい、確実に。デジタルコンテンツ全体に企業が割く予算は、数年前だと大きくても数百万円規模でしたが、今では100倍近い規模のご予算をいただくこともあります。そのなかで動画が占める割合は決して小さくありません。専門組織を立ち上げてクライアントのニーズに向き合うほど、その課題もよくわかるようになっていきました。この情報過多の時代、企業のメッセージはどんどん届きにくくなっている。さらにサービスや商品の機能による差別化も難しくなるなか、生活者はどこを見ているかというと、スペックではなく企業の世界観や目指す未来なんですよね。そのうえで企業や商品を判断しているので、それをストーリーに乗せて伝える施策はまさに最適だと考えました。

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「デジタルコンテンツへの投資を増やす企業は増えた」と金澤氏

いまある材料をどう料理?

別所:予算規模が100倍になっているとは驚きました。僕らとオプトさんとで立ち上げたBranded Movie Lab.では、企業のブランデッドムービー施策を支援しながら、しっかりと事後の分析をすることに注力していますが、それが企業の次の意志決定につながって予算が増えている…と捉えていいんでしょうか?

金澤:確実に、そうなっていると思います。意志決定の材料になるデータの提供は、Branded Movie Lab.の大きな役割ですし、映像制作に携わるクリエイターの方々にも貢献できる部分でしょう。市場が広がれば、より大きな仕事をお願いできるわけですから。逆に、クリエイターサイドだと、ブランデッドムービーのようなスポンサードコンテンツに携わる際は、純粋な作品づくりとはやはり異なる点があるのでしょうか?

別所:クライアントがある場合もない場合も、まずは「人を引きつける物語をつくろう」というところから入るという出発点は同じです。引きつける、の意味合いはケースバイケースで、面白さや楽しさ、驚きや共感、ときには反発や、けれん味を効かせて振り向かせることもありますが、原点はそこですね。そのうえで、条件や予算、クライアントの目標など、与えられた材料でシェフとしてどう料理するかが腕の見せ所です。特に短編の場合、ネット上だと非常に速く離脱されがちですが、それを防いで最後まで興味を失わない、かつ音声が遮断されていても伝わるような工夫が必要です。最終的に「自分ごと化」して、企業や商品との距離を縮める。そこがポイントだと思います。

金澤:クリエイティビティとロジックが、繊細なバランスで両立されているんですね。

別所:そうですね。ハリウッド映画をはじめ、純粋な作品でも最近ではマーケティングの観点を重視して、感覚と理論やデータを行き来しながら制作されたりしています。ただ、クライアントがある場合はそのあたりを重ねて検証し、積み上げていくような感覚がありますね。各種のデータが取れるようになったことで、ブランデッドムービーを科学する視点を得られたのは、新鮮です。

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「データによって、映像を科学する視点が得られたのは新鮮」と別所氏

購買まで見据えた取組み

金澤:ブランデッドムービーを顧客へ提案するにあたって、企業のイメージや好意度の向上だけでなく、その後の購買行動までこだわった、企画とマーケティングの両立を目指しています。そうやってクリエイターの方々に尽力いただいた結果、たとえばニフティの格安スマホNifMoで制作したブランデッドショート「轟満(とどろきみつる)の先入観」では、動画を視聴していない人に比べて、視聴した人のサービス利用意向率が66.1%も向上しました。加えて、デジタルでの申込み促進施策と組み合わせることで、効果の最大化も狙っています。

別所:もともとクライアントには、格安スマホに持たれがちな「サポートがよくなさそう」「通信速度が遅そう」といった先入観を払拭したいという課題があったんですよね。そこで、普遍的なアイデアとして着目した「日本人は思い込みや偏見に捕らわれがちでは?」という点から想像を広げ、ひとつのストーリーに仕立てた。配信後に数値で得られた効果には、クリエイターをはじめ、僕らも手応えを感じました

金澤:損害保険ジャパン日本興亜の海外旅行保険【off!】の「新感覚リズミカルムービー【off!】」では、日常のなかで聞こえる音でリズムを取った小気味よい映像で引きつけて、主に若年層女性に対して保険商品への関心喚起を図りました。こちらも130万回以上視聴され、視聴者へ配信したバナー広告の申し込み率は動画の非接触者に比べて500%を記録しました。わかりにくくて敬遠されがちな保険商品を、リズムに乗せてポップに伝えてもらえたことの成果だと思います。それから、注目すべき事象ということでは、ブランデッドムービーを通して企業理念をストーリーで伝えることで、社内の理解が非常に高まったという事例にもつながりました。

海外旅行保険【off!】の「新感覚リズミカルムービー【off!】」

別所:インナーモチベーションの向上ですね、そこにも大きな可能性がありそうです。まだケーススタディも積み上がっていないので、案件ごとに「どうしたら受け手と気持ちをつなぐことができるか」を探っているところだと思うんです。先の「リズミカルムービー」も、正直、観ないとわからないところがある。ときに、提案を受ける企業や代理店の方々が戸惑うこともあるかもしれないのですが、お互いに模索し合う時間はきっと関係者の皆にとって貴重なナレッジになるはずです。

金澤:そうですね。科学的な要素だけでは、絶対に心に響くものはつくれない。だからこそ、コンテンツ制作はクリエイターへのリスペクトからはじまらなければいけないと常に思っています。この新しい市場が映像クリエイターにとって次なる活躍の場として魅力的でないと、継続的な活性化につながりません。なので、企業のニーズとクリエイターのつくり出す世界観、そして生活者の知りたいことが上下なくフラットに重なり合うように、今後もエージェンシーとして、ブランデッドムービーの価値を可視化、最大化することをしたいですね。

新しい伝え方を常に模索する

別所:それは、ありますね。実際、クリエイターがいかに優秀で素材がいかに素晴らしくても、いま求められているのは懐石料理なのか、それとも渾身の一品料理なのか、的確な采配がなければ結果は全然違ってきてしまう。スポンサードコンテンツは予算のハンドリングも重要なので、ディレクターというよりはプロデューサーが確かに必要だと感じます。

金澤:逆にクリエイター側の視点だと、ネット上でのブランデッドムービーの需要がこれからますます広がるなかで、どんな課題や展望を描かれていますか?

別所:そうですね、新しい領域がいかに広がっても、従来のマス広告の仕組みや効能が消えるわけじゃない。ただ、機能をうたって売れる時代ではないので、冒頭で金澤さんもおっしゃったように、やはり企業の世界観や目指す未来像をもって人の共感を得ることが大事になっていくし、そこではクリエイターが得意としてきた「物語をつくる力」が大きく貢献するのでしょう。突き詰めると、人間は皆、物語る動物だと思うんです。自分の驚きや共感を、誰かに伝えたい。その気持ちは変わらなくても、伝え方は時代とともに変わっていくから、そこを随時、Branded Movie Lab.のような形で掘り下げていきたいです。

金澤:まさに、そうですね。我々はクライアントへの事業貢献の視点をもって、同じように新しい伝え方を模索し続けたいと思います。現在のマーケティングはデジタルを中心に目まぐるしく進化してきていて、その新たな環境に適応することが大切です。共感されるストーリーにのせて企業の想いを伝えていく取り組みが有効であることを示し、その価値を高めていくということは、とてもやりがいがあり我々のひとつの使命だと思っていますね。実際に手応えを感じていて非常にワクワクしています。SSFFも、時代とともに今後も積極的に変容していきそうですね。

別所:そうしたいです。僕らも今年でちょうど20周年、成人です。SXSWしかり、TEDしかり、長く続いている会議体は変容しているから常に魅力的な場で居続けています。僕らも、ブランデッドショートのようなショートフィルムの可能性を拡張させる新たな要素を抱き込みながら、格好良く面白くあるようにリフレッシュしていきたいですね。

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金澤 大輔(左):株式会社オプト 代表取締役社長 CEO。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、2005年9月アカウントエグゼクティブとしてオプト入社。営業本部長、広告ソリューション事業執行役員を経て、2015年4月株式会社オプト株式会社 代表取締役社長CEO就任。2017年4月株式会社オプトホールディング 上席執行役員に就任。

別所哲也(右):ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 代表。1965年静岡県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。90年、日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビュー。近年では、「レ・ミゼラブル」「ナイン ザ・ミ ュージカル」、「ユーリンタウン」などの舞台に主演。 第1回岩谷時子賞奨励賞授賞。99年より、日本発の国際短篇映画祭「ショートショート フィルムフェス ティバル」を主宰し、文化庁長官表彰を受賞。観光庁「VISIT JAPAN 大使」、内閣官房知的財産戦略 本部コンテンツ強化専門調査会委員、カタールフレンド基金親善大使、横浜市専門委員、映画倫理委員会委員に就任。

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Written by 高島知子
Photo by 今村拓馬