インフルエンサー戦略といえば、若年層に目を向けるのが常道だ。だが、アラスカ航空(Alaska Airlines)は今春、ユニークな手法を採る――今年後半にカリフォルニア州でAKブーマー・ハウス(AK Boomer House)を構え、そこでコンテンツを制作させるベビーブーマーのインフルエンサーを現在、物色中だ。
インフルエンサー戦略といえば、ミレニアルとZ世代のインフルエンサーに目を向けるのが常道だ。だが、アラスカ航空(Alaska Airlines)は今春、ほかとは異なる手法を採る――今年後半にカリフォルニア州でAKブーマー・ハウス(AK Boomer House)を構え、そこでコンテンツ制作に従事させるベビーブーマーのインフルエンサーを現在、物色中だ。
ベビーブーマーとは1946年から64年生まれの世代を指す(日本でいう団塊世代)。その多くが米国でいち早くワクチンを打っていることを考えると、現在、旅行を早期に再開できる潜在力がもっとも高い層とも言える。実際、彼らのあいだで旅行需要はかなり高まっていると、アラスカ航空のマーケティング部門ディレクター、ナタリー・ボウマン氏は言う。
「我々のリサーチによれば、旅行の復活が近づくなか、その日をもっとも強く待ちわびているのも、[それに関して]もっとも興味深いストーリーを[SNSに]アップしているのもベビーブーマーだ」とボウマン氏。「彼らはもっとも厳格なルールのもと、もっとも長く閉じ込められてきたと同時に、最初にワクチンを打てた世代にほかならない」。
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「ハイプハウス」の団塊世代版
その調査結果を念頭に置き、アラスカ航空は「ベビーブーマーの春休み(boomer spring break)」というコンセプトを掲げ、旅行を早期に再開できる同層の潜在力を最大限に引き出すことを狙っていると、同社のベビーブーマーインフルエンサー戦略の実施を任されているエージェンシー、メカニズム(Mekanism)のクリエイティブディレクター、レイチェル・カールソン氏は指摘する。
アラスカ航空がひな形にしているのが、大勢のインフルエンサーがひとつ屋根の下で影響を与え合いながら動画を制作し、互いの動画にもたびたび登場する、というクリエイティブ戦略だ。「ハイプハウス(Hype House)」とは、TikTokで人気を博すそんな10代の集団が広めた言葉で、これは彼らの拠点の名称でもある。
そんなハイプハウスをアラスカ航空が作ろうと思い立った理由について、カールソン氏は「ハイプハウスはZ世代が集う、TikTok界のもの」と語る。「春休みという若者向けの概念を取り入れるにあたり、同じく若者の流行語であるハイプハウスと合体させたら面白い「と考えた]」。
現在の構想では、AKブーマー・ハウス――カリフォルニアのホテルになると思われる――に8~10人のベビーブーマーインフルエンサーを集めてコンテンツを制作させ、それをアラスカ航空およびインフルエンサー各人のSNSにアップしていく。配信の場は主にインスタグラムとTikTokを考えており、制作に必要な機材だけでなく、振付師なども同社が提供する。撮影期間を含め、インフルエンサーの拘束時間は一回につき2日を予定している。報酬はインフルエンサーのリーチ/レートカード[媒体料率表]次第であるため、具体的な金額は現時点では不明だが、「相応の額は支払う」とボウマン氏は断言する。
目下の課題は絶対数の少なさ
現在、アラスカ航空はメディア予算の約60%をインスタグラムやTikTokをはじめとするデジタル/ソーシャルチャンネルに割いており、ベビーブーマー世代に向けて、同航空を使った旅行欲を刺激するとともに、インフルエンサーとしてAKハイプハウスへの参加を促す広告を打っている。ちなみに、残り約40%のメディア予算はOOH広告が占めている。
リサーチ会社カンター(Kantar)によれば、アラスカ航空のメディア費は2019年が1080万ドル(約12億円)、2020年が910万ドル(約10億円)だった。なお、ソーシャルプラットフォームへの支出は、カンターのリサーチ対象外であるため、この数字に含まれていない。
ボウマン氏によれば、これまでのところ、ベビーブーマーインフルエンサー探しにおける最大の問題は「その世代のインフルエンサーがあまり多くないこと」だという。
実際、それはベビーブーマーインフルエンサーを探すブランドに共通の悩みだと、インフルエンサーマーケティング企業スウェイ・グループ(Sway Group)CEO、ダニエル・ワイリー氏は指摘する。「ベビーブーマー向けのキャンペーンに対する需要は大きいのだが、それに注目を集めてくれる同世代のインフルエンサーが圧倒的に不足している」とワイリー氏は語る。事実、氏のエージェンシーが擁するインフルエンサーネットワークにおいても、総勢3万5000人に占めるベビーブーマーの割合は、わずか3%弱だという。
「楽しみ/遊び」の分野で起用
また、ベビーブーマーインフルエンサーを求める大半のブランドは、彼らをヘルスケアといった、「楽しみ/遊び」とは別のカテゴリーで起用し、年齢とともに現れる身体の不調を緩和/改善する製品の、いわば押売に仕立てる。だが、今回のアラスカ航空のような「楽しい」キャンペーンにベビーブーマーインフルエンサーを起用するのは、実は理に適っていると、ワイリー氏は指摘する。というのも、「ベビーブーマーには財力があり、実はネットに長時間を費やしているからだ。したがって、彼らを有力なオーディエンスとして認識することは[ヘルスケア関連の専門要員に限定しないことは]、ブランドにとって有益となる」。
また、キャンペーンの種類に関わらず、アラスカ航空は困難な1年を乗り越え、いち早く広告を打ちはじめた旅行業社の1社でもある。同社の場合、夏季は例年、メディア費をさほど投じないのだが、今年は異なり、メディア費を2019年夏の約25%増額すると、ボウマン氏は言う。
「航空会社は普通、夏に広告費をあまり使わない。人々はすでに旅をしているか、あるいは少なくとも、旅行計画を立て終わっているからだ。しかし、今年は違う」と、ボウマン氏は断言する。
[原文:‘Boomer spring break’: Alaska Airlines is creating its own hype house for boomer influencers]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)