ウォルマートによって2017年に買収された、メンズアパレルのDTCブランド、ボノボス(Bonobos)。この買収劇は、両社にとって、主にふたつの利点がある。ボノボス側は、ウォルマートの規模とリソースの恩恵を受けられる。ウォルマート側は、デジタルブランドはどう構築されているのか、重要な教訓を学ぶことができる。
サイバーマンデーの日、ボノボス(Bonobos)のニューヨークにある本社では、間仕切りのないスペースに会社中から100人を超えるスタッフが集まる。そして、食べたり飲んだりしながら、顧客からの電話やチャットに対応する。「ニンジャパロッツァ」(ニンジャパーティー)という、ホリデーショッピングシーズンの同社の伝統だ。ボノボスには30人の「ニンジャ」、つまり顧客サービス担当スタッフがいるが、サイバーマンデーには殺到する問い合わせに対処するため、ほかの部署から70人ほどが加勢する。CEOのミッキー・オンバラル氏によると、このイベントは、会社のカルチャーと実地の顧客サービスをウォルマート傘下で維持していくための、重要な考え方を体現している。
「『闘志満々のスタートアップ』としてはじまった。1年のいちばん忙しい日には総出であたろうとなる。それがこのような、顧客を歓迎し、顧客を中心に据え、顧客フィードバックのループをさらに密にする機会へと発展した」と、オンバラル氏は語った。
ウォルマートによる買収劇
ボノボスは2007年、オンライン限定のメンズウェアの会社としてアンディ・ダン氏が創業した。ダン氏は9月にボノボスのCEOを辞め、現在はウォルマートのデジタルコンシューマーブランドのSVPを務めている(ボノボスは2017年、報道によると3億1000万ドル[約351億円]でウォルマートに買収された)。オンバラル氏はその後任で、ボノボスの元CMOだ。ウォルマートは近年、マーケットのJet.com、女性向けウェアのブランドであるモドクロス(Modcloth)、アウトドア小売りのムースジョー(Moosejaw)など、eコマース関連の買収を繰り返しており、ボノボスの買収はその一環だった。
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ウォルマートによる買収劇は、買収されたeコマースブランドは巨大なウォルマートに飲み込まれるしかないのかという問いを生むが、オンバラル氏によると、ボノボスをウォルマートから独立させておくことには、主にふたつの利点がある。ボノボス側は、ウォルマートの規模とリソースの恩恵を受けることができる。ウォルマート側は、生まれながらのデジタルブランドはどのように構築されているのか、ウォルマートがeコマース事業を大きくしていく際の重要な教訓を学ぶことができる。
「我々は完全に独立した組織として運営している」と、オンバラル氏。「購買力の観点から、配送コストやクレジットカード手数料など、バックエンドでウォルマートを活用している。(ウォルマートの)恩恵は、生まれながらのデジタルブランドは、どのように構築していくものなのかを学べるというもので、ウォルマートはWalmart.comやウォルマートのストアを通じて、こうしたブランドを流通させることを選んでいる」と、同氏は語った。
帝国拡大のための概念実証
ウォルマートはボノボス、エロクイ(Eloquii)、モドクロスなどの買収を通じて、そうした教訓を、自ら作るネイティブなデジタルブランドに適用できる(ウォルマートは今年、オールズウェル[Allswell]というマットレスと寝具を扱うオンラインのみのブランドを展開した)。ダン氏は最近のインタビューで、ウォルマートがデジタル限定ブランドに進出するのは「未来を勝ち取る」戦略の一環だと語っている。とはいえ、eコマースの「草の根」のスタートアップを大きな小売業者が買収するというアプローチには、買収された企業の計画に買収した側が過剰に関与すると見られるというリスクがある。ボノボスがウォルマート傘下でもブランドの価値を維持できれば、概念実証となり、ウォルマートがデジタルブランド帝国を拡大するのに役立つかもしれない。
日常的なカルチャーという点で、オンバラル氏によると、ボノボスの独特のカルチャーは維持されている。それは、従業員にはまず「ニンジャ」をやらせ、各状況への対処に関する厳しい規則がないなか、各自が一番適していると考える方法で顧客に対応する機会を従業員に与えるというもの。同氏によると、こうした個別の対応によって、顧客ロイヤルティやブランドのネットプロモータースコア(NPS)が高くなる(具体的な数字は明かさなかった)。目指しているのは、顧客インタラクションを、問題の処理から、個人的なスタイリストに相談するかのように顧客がスタッフに相談する継続的な関係へと移行させることだ。ボノボスの製品は、Jet.comでは見つかるが、ウォルマートの店舗やeコマースサイトでは売られていない。
「我々への問い合わせは55%が購入前のもので、このパンツに合わせるなら何を買うべきか、何が一番合うのかと相談される。店舗に行ってパーソナルショッパーにアドバイスしてもらうのに近い」と、オンバラル氏は語る。「この数と割合を増やし、『配送先を変更できないか』『支払い方法を変更できないか』といった問い合わせの数を減らしたい」。
これまでとは違う考えの顧客
遠隔による顧客サービスのやり取りを、店舗に行くのと同じようなものにすることを、ボノボスはいま、目指している。ボノボスには実店舗が59店あり(ソルトレイクシティには11月にオープン)、2019年にはフロリダ州タンパとノースカロライナ州シャーロットにも出店する計画だが、オンバラル氏によると、継続的な顧客関係を確保するということは、購入履歴など、その顧客についてわかっていることに基づいて顧客に合わせた対応をできるようにしていくということなのだ。ボノボスはSlack(スラック)のチャンネル経由でもフィードバックを集めている。データ主導のアプローチを取ってはいるが、オンバラル氏によると、本物のやり取りをするため、電話は録音しないという。
ウォルマートからすると、ボノボスなどの買収は、従来型の小売業者がこれまでとは違う考え方の顧客を相手にするのに役に立つとアナリストたちは語っている。
「ブランドとウォルマートを別々にすることが重要なのは、このふたつの顧客が違っているからだ。ブランドにはそれぞれの意味があり、価値提案がある」と、調査会社eマーケター(eMarketer)の小売アナリスト、アンドリュー・リプスマン氏は語った。「ウォルマートの客はお金より時間が多いのに対し、ボノボスの客は時間よりお金があることが多い」。
「まさに特別な関係を構築」
違う種類の顧客を理解する際に大切なリソースは、好みと行動に関するデータだ。オンバラル氏によると、ボノボスから親会社のウォルマートに積極的にデータを共有しているわけではないが、完全子会社なので、ウォルマートはボノボスの顧客データを利用できる。このことが、顧客の行動を高いレベルで、あるいはトレンドの点で理解するのに有益かもしれないこと、また、そのため、ボノボスの異なるワークフローや従業員と顧客の関係性を損なわないことが、若く裕福な顧客に向けてウォルマートがよいスタートを切る上で極めて重要であることを、オンバラル氏は認めた。
「(ボノボスを通じて)ウォルマートは従来とは違うウォルマートの顧客と、まさに特別な関係を築いている」と、データ分析企業ヤグアラ(Yaguara)のCEO、ジョナサン・スモーリー氏は話す。「ボノボスはウォルマートに、製品デザイン、マーケティング、コンバージョンにはじまる直接的な関係をもたらす。ウォルマートは、小売りの時間、購入サイクル、メッセージへの反応、デジタル体験への反応など、あらゆるものに関するデータを手にする」。
ボノボスの独特なカルチャーの維持は、従業員の熱意とロイヤルティの維持にもつながる。ボノボス歴4年で、ニンジャからはじめて現在シニアブランドマーケティングアソシエイトのコリン・キャニー氏は、「ニンジャパロッツァ」の席で、人と成長に関する視野の拡大は、自分をこのブランドに結びつけており、後々、顧客関係にも効果があると語った。
「ニンジャのあいだは、サイドプロジェクトの時間がある」と、キャニー氏は語る。ほかの仕事を柔軟に引き受けることが、昇進に役立ったという。「人間には成長の志があることが理解されている」。
Suman Bhattacharyya (原文 / 訳:ガリレオ)