プログラマティック企業は過激なウェブサイトを自社のプラットフォームから締め出している。ブラックリストで、直接販売されるインベントリーを除外し、リスクを回避しているのだ。しかし、度重なる再販や登録ミスのため、完全に防ぐことはできていない。「ブランドセーフティ」の取り組みは、モグラたたき状態の様相を呈している。
「ブランドセーフティ」という言葉が、いまや大流行となっている。
だが、広告分析サービスのアドヤッパー(AdYapper)が、クライアントから依頼を受けてある広告キャンペーンを分析したところ、そのクライアントの広告が、ポルノサイトやフェイクニュースサイト、ファイル共有サイトに表示されていることがわかった。その広告主のバイイングプラットフォームでは、そういったサイトをブロックしていると考えていたにもかかわらずだ。1カ月の調査期間中、そのブランドの広告は70万以上のドメインに表示されたが、DSP(デマンドサイトプラットフォーム)側はその数を2500と報告していた。プログラマティック広告には、まだ多くの漏れがあるようだ。
エージェンシーレベルでは、ブラックリストはうまく機能していない。ブランド担当者とプログラマティックバイヤーとのあいだでコミュニケーションが取れていないためだ。だが、アドエクスチェンジとDSPが実装しているブラックリストにも問題がある。アドエクスチェンジ側のレポーティングが十分でないうえに、アドネットワークがドメインを明らかにしていないからだ。そのため、ブロックされたはずのウェブサイトが、そのようなサイトを締め出したと主張するチャネルを介して、いまもこっそりインベントリー(在庫)を販売している。
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「おそらくこれが、多くのバイヤーの泣き所になっている」と、DSPプロバイダーのロケット・フューエル(Rocket Fuel)でインベントリー品質担当ディレクターを務めるアリ・レビンフェルド氏は言う。
ブランド広告が不適切なコンテンツと並んで表示される現象は、インターネットではいつ偶然に起こっても不思議ではない。だが、現在の政治環境では、ブライトバート(Breitbart)のような極右サイトやYouTubeで人種差別的なコンテンツと並んで広告が表示されているブランドに対して、大きな圧力がかかる。この状況に対応するため、プログラマティック企業は過激な内容のウェブサイトを自社のプラットフォームから締め出している。ブラックリストを用いることで、アドエクスチェンジを介して直接販売されるインベントリーを除外し、問題があるサイトに広告が表示される可能性を減らしているのだ。しかし、度重なる再販や登録ミスのために、こうしたサイトがすり抜けるのを完全に防ぐことはできていない。
レポーティングの問題
このような混乱の多くは、レポーティングの不備が原因だ。いかがわしいウェブサイトと、そのサイトに協力しているアドネットワークは、隠しURLや偽装URLを使ってブラックリストをすり抜けようとする。隠しURLがあると、SSP(サプライサイドプラットフォーム)やアドエクスチェンジはそれを「不明」と認識する。一方、偽装URLは、ウェブサイトを別のウェブサイトに見せかけるものだ。たとえばihatesports.comというサイトが、バイヤー側からはespn.comというURLに見える。
「ブラックリストのレポーティングはひどいものだ。オープンエクスチェンジ側のウェブサイトレベルのレポーティングがどうしようもないレベルだからだ」と、あるアドテクアナリストは匿名を条件に語った。
一部のアドエクスチェンジは、ウェブサイトを1つ締め出すたびに売上が減ると考え、いかがわしいパブリッシャーを受け入れるだろうと、このアナリストは述べている。そうしたパブリッシャーは、自社のドメインが大手のバイヤーのブラックリストに登録されたことに気づくと、そのドメインを隠すようアドエクスチェンジに依頼する。アドエクスチェンジは、商売のためにその依頼に応じ、広告主が隠しドメインを購入できるようにするのだ。しかも、アドエクスチェンジはたいてい、この手のドメインを安く販売する。ウェブで追跡しているユーザーにリーチしたいと考えているバイヤーに、リスクを引き受けようと思わせるためだ。一方、偽装URLの場合は、ウェブサイト側が、疑わしいウェブサイトをインベントリーに混入させるためにアービトラージ(裁定取引)や再販に関与するため、話は少し複雑になる。
「メディアバイイングプラットフォームは、契約で義務付けられている範囲にしか注意を払おうとしない」と、アドヤッパーのCEO、エリオット・ヒルシュ氏はいう。「DSPによって登録されているドメインは、2007年の住宅ローン危機を招いた『組み合わせ金融商品』と同じようなものだと考えたほうがいい。表面上はCプラスと評価されているかもしれないが、実際には多くの隠しサイトが交ざっている」。
インラインフレーム(iframe)を利用して、自分たちのコンテンツがまったく関係のないURLで表示されるようにする悪党もいる。たとえば、「filesharing.com」という悪質なサイトのコンテンツを、インラインフレームを利用して「ilovedogs.com」のコンテンツに見せかけるのだ。こういった連中は、ロシアのマトリョーシカ人形のように、自分たちのウェブサイトをインラインフレームに次々と埋め込むことで、正体を見破られないようにしている。
締め出しを受けるようなウェブサイトには、人々を欺こうとする動機がある。だが、プログラマティック広告のごまかしは、自分たちの利益だけを考えてトラフィックの獲得目標を達成しようとするアドネットワークが元凶だ。
「いかがわしい金儲けでなんとか生き延びている二流、三流のアドネットワークが数多く存在する」と、アドエクスチェンジのオープンX(OpenX)で市場品質担当バイスプレジデントを務めるジョン・マーフィー氏は言う。「本来ならアドエクスチェンジの側で、このようなことが起こらないようにする必要がある。(中略)だが、再販を制限するには、多くの時間と技術が必要だ。そこでアドエクスチェンジの多くは、(販売が許可されているかどうかをアドネットワークに)質問し、答えがイエスであれば、それでよしとしているのだ」。
検証の限界
怪しいウェブサイトに広告が表示されるのを防ぐには、検証サービスを使うのも役に立つ。だが、このサービスに限界があることを、広告主はあまり理解していない。それぞれの入札に関してオープンエクスチェンジから得られる情報は限られている。バイヤーがインベントリーを購入した後でないと、そのインベントリーを提供したパブリッシャーに関する詳しい情報は得られないのだ。
購入前にDSPとベンダーが得られる情報は、インベントリーとウェブサイトのユーザーについて説明した入札リクエストだけだ。この情報がどれほど詳しいかは、アドエクスチェンジによって異なる。そのため、検証サービスでは購入前に十分な情報を得られず、販売者が自らの情報を偽っていないかどうかを事前に正しく判断するのは難しいと、独立系アドテクコンサルタントのブラッド・ホルセンバーグ氏は言う。
購入してからでないと、ベンダーのJavaScriptをページ上で実行して、広告がどこに表示されるのかを確認できない。その情報を利用すれば、バイヤーは次回の購入について通知したり、リベートを要求したりできる。ただし、すでにブランドの広告がヘイトスピーチの近くに表示されてしまっていれば、激しい抗議にさらされるといったダメージを受けることになる。
この問題を解決するには?
こうした問題を手っ取り早く解決できる方法はない。ホワイトリストは、リストに登録されたウェブサイトにのみ広告が表示されるようインプレッションに制限を加えるものだ。そのため、ブランドの安全性を損なう広告の購入を減らすのに役立つ。しかし、アドネットワークが、「watchpornvids.com」を「nytimes.com」に見せかけるようなことをSSPやアドエクスチェンジにやらせている場合は、やはりうまくいかない。心配なバイヤーは、オープンマーケットから購入できる製品をダブルチェックすべきだ。アドテク幹部は、自社の利益にかなうベンダーを勧めてくるだろう。アドエクスチェンジからの購入に懸念があるバイヤーは、パブリッシャーに直接コンタクトを取るべきだと、プログラマティックエージェンシーのジ・エクスチェンジ・ラボ(The Exchange Lab)でベンターパートナーシップ責任者を務めるベン・アルプレン氏は述べている。
悪質なウェブサイトに広告が掲載されにくくするために、広告主ができる対策はいくつかある。一部のブランドにとっては、それで十分なこともあるだろう。インプレッション数の少ないキャンペーンが非難を受けることはないからだ。ただし、政治が混迷を深めているいま、悪質なサイトを締め出すだけでなく、アドエクスチェンジから根絶するには、アドネットワーク、アドエクスチェンジ、プログラマティックプラットフォームが互いに協力し、相当な努力を払う必要がある。ただし、価値の高いインベントリーの数が広告量より少ないため、こうしたプレイヤーは量に基づいて報酬を得ているのが現状だ。
大手のアドエクスチェンジやバイイングプラットフォームのほとんどは、締め出したウェブサイトがひそかに入ってこないようにベストを尽くしていると、ロケット・フューエルのレビンフェルド氏は考えている。
「だが、そうしたことを気にしない企業もある」と同氏は認める。「注意を払おうとしない人々がいるため、簡単に利用されてしまうのだ」。
Ross Benes(原文 / 訳:ガリレオ)
Image: courtesy of Mike Towber, via Flickr.