発展途上ながら、小売業界で関心高まる ブロックチェーン :真贋の見極めで真価を発揮

2016年10月、ファッションブランドのベイビーゴースト(BABYGHOST)はプラットフォームのビーチェーン(VeChain)との提携を発表した。同社のブロックチェーン技術を活用して、販売するハンドバッグについてカスタマーが品質を確認できるようにすることが狙いだ。これは新技術によるマーケティングと同時に、本物であることを証明するというメリットももたらす取り組みだった。そして、ブロックチェーン技術が小売業界を少しずつ変革していく、その幕開けでもあった。

当時、ブロックチェーンはビットコイン(Bitcoin)をはじめ、支払いに関する分野ではすでに大々的な注目を浴びていた。だがそれだけでなく、ほかの分野でそれをさらに上回るほどの破壊的な変革をもたらすとされていた。とりわけ小売業界は、世界的な企業間の結びつきや商取引が行われており、ブロックチェーン技術による効率化が大きく進むとされていた。さらにファッション分野において、ブロックチェーンは素材や商品の真贋の見極めにおいて力を発揮すると指摘されてきた。

ブロックチェーンとは要するに、小売活動において透明性と信頼性を高めうる技術なのだ。だが、その浸透はなかなか進んでいない。

良いスタートダッシュを切ったブロックチェーン技術

ブロックチェーンが注目を浴び始めたのは5年ほど前、仮想通貨の分野だった。ビットコインやイーサリアム(Ethereum)といったプログラムが次世代のコマースにおける主役と目され、投資対象として注目され、その価値は急騰した。

その後、2017年にビットコインバブルがはじけて価格が暴落。その間に、消費者向けの技術としてブロックチェーンが導入されるようになり、より多くの人に知られるようになる。だが多くの場合において、ブロックチェーンは単なるギミックのような扱いを受けてきた。たとえばあるアイスティーのブランドでは、ナスダックに残り続けようともがくなかでブロックチェーンの採用を発表した。また昨年、オーバーストック(Overstock)はEC事業から脱却してブロックチェーン事業に移行する計画を発表している。

こういったケースがニュースとして話題になるなかで、IBMなどのコンピューター関連企業もブロックチェーン技術の試験運用を開始した。また、同技術をより広範囲で活用するスタートアップが多数登場するようになる。だが、ブロックチェーンに関する研究や設計の大半は、企業が直面する問題解決に向けられており、消費者向けのものではなかった。いまのところ、もっとも利便性が高いとされている活用分野もまた、こうした派手ではないが重要性が高い問題解決となっている。たとえばユニリーバ(Unilever)といった小売企業は、ブロックチェーン技術を使って広告キャンペーンの効率化を行っている。アリババもまた、自社の知的財産を守るための取り組みとして同技術を使いはじめたと報じられた

ブロックチェンジ・ベンチャーズ(Blockchange Ventures)のマネージングディレクターを務めるケン・シーフ氏は、ブロックチェーンの発達段階に関して一般的に誤解されていると語る。「ブロックチェーン技術はまだ初期段階にある」と、同氏は語る。2020年の時点におけるブロックチェーンは、いわば1995年時点のインターネットにあたるのだという。当時は「誰もFacebookやGoogle、エアービーアンドビー(Airbnb)のようなサービスは誰も予見していなかった」と、同氏は指摘する。

ブロックチェーンを取り巻く現状

小売業界において、ブロックチェーンを基盤とした、製品材料の出どころの可視性を高めるシステムが積極的に開発されつつある。過去3年間、IBMはウォルマート(Walmart)やアルバートサンズ(Albertsons)、ネスレ(Nestle)といった企業と提携し、ブロックチェーン技術に基づき食品サプライチェーンの可視性を高めたソリューションを提供してきた。

現時点では主に葉物野菜やマンゴーなどの商品が対象だが、同社は今後プラットフォームにデータを提供する食品サプライヤーをさらに広げていく計画を発表している。実際、ウォルマートは昨年はじめに、同年9月を期限として葉物野菜の全サプライヤーに対してブロックチェーンに商品データをアップロードさせる計画を発表した。米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダン・リテール(Modern Retail)は、ウォルマートに同プログラムのその後について尋ねたが、本記事の公開時点までに返答は得られなかった。

小売業界にとってブロックチェーンは、食品分野に限らず、サプライチェーンの効率化をもたらしうる重要技術となっている。たとえばスクチェーン(Skuchain)というスタートアップは、サプライヤーが安全にカスタマーとデータ共有できるブロックチェーンのソリューションを提供している。同社の共同創業者でありエグゼクティブバイスプレジデントのレベッカ・リャオ氏は、企業とサプライヤーがより多くのデータを利用できるようにすることで、「カスタマーの需要に対してより迅速に対応」可能なソリューションを目指すとしている。簡単にいえば、サプライチェーンに関わる全員がデータを容易に入力できるようにすることで、変化に迅速に対応できるようになる、ということだ。

現在、スクチェーンは多数のクライアントを抱えている。リャオ氏は具体的な企業名は明かさなかったものの、世界的な大手電子機器メーカーや世界的なファッション企業、日本の自動車メーカー、日本の商事会社などがクライアントに名を連ねているという。これらのクライアントは、「サプライヤーとの生産活動において」同社のソリューションを活用しているという。

フォレスター・リサーチ(Forrester Research)の主席アナリスト、サチャリタ・コダリ氏は、ブロックチェーンの活用はまだはじまったばかりだと指摘する。「どの小売企業も、いますぐに投資する必要に迫られているわけではない」と、同氏は語る。だが、スクチェーンが提供するサプライチェーンの可視性を高めるプラットフォームのように、実用性の高いソリューションも登場しはじめた。「商品の真贋確認に利用できる」と、コダリ氏は語る。「理論上は、非常に使いどころのある技術だ。偽物だらけの市場のなかで、なぜ使用例が少ないのか理解に苦しむ」。

シーフ氏が語ったように、やはり最初のバブルは弾けたとはいえ、ブロックチェーンはまだ生まれたての技術だ。同氏は、インターネットがコマースにおいて現在のように活用されるまで、何十年という時間がかかったと指摘している。現在はまだ、ブロックチェーンに関する合意上の取り決めもなく、その面でも議論が必要だ。「ブロックチェーンはまだ何十億というユーザーを抱える技術ではない」と、同氏は語る。

だが、「採用が進む速度はインターネットの普及速度よりはるかに速いだろう」と、同氏は予測しており、やがて何十億というユーザーが利用するようになるだろうと語る。シーフ氏はその時期について、10年はかからないのではないかと予測しており、次のように語った。「だからこそ各社とも、少しは準備をはじめておくべきなのだ」。

Cale Guthrie Weissman(原文 / 訳:SI Japan)
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