インストアテクノロジーがもたらす便利さを通じて小売業者は、顧客の店舗滞留時間を引き伸ばすという、業界の古い戦略を転換しようとしている。いまは、店内での体験をできるだけ効率的にすることが焦点なのだ。簡単に取り引きができ、繰り返し訪れたくなるようにすることで、ブランドへのロイヤルティを築くことが目的となっている。
2018年のホリデーシーズンがやってくる。そして小売業者は、顧客たちが時間をかけずに来店してくれることを望んでいる。
11月第1週、ウォルマート(Walmart)、ターゲット(Target)、コールズ(Kohl’s)が揃ってモバイル決済機能を発表した。Apple Storeでの体験と同様に、従業員はモバイル機器を利用して顧客の決済処理ができるようになる。他の大手小売りブランド各社もまた、顧客を誘導して商品がある通路をすぐに見つけたり、同じブランドの他の店舗を探したり、顧客の自宅へ発送したりといった支援を行うためのデジタル案内ツールを発表している。
インストアテクノロジー(店頭技術)が実現する便利さを通じて、小売業者は、顧客を店に呼び、長く滞留させれば結果的により多くのお金を使うという業界の古い考え方を転換しようとしている。いまは、店内での体験をできるだけ効率的にすることが焦点なのだ。低価格のアイテムを引き取るのに数分を過ごすだけだとしても、それはマイナスとは見なされない。簡単に取り引きができ、繰り返し訪れたくなるようにすることで、ブランドへのロイヤルティを築くことが目的となっている
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オプション提供が大事
イーマーケター(eMarketer)のeコマースならびにリテールアナリストであるアンドリュー・リップスマン氏は次のように語る。「小売業のレガシーモデルは、在庫を持って、顧客に店に来てもらい選ばせるというものだった。在庫型小売りにエンゲージしているなら、勝つための唯一の方法は、顧客の今日、いますぐ必要だという気持ちに応えることだ。Amazonが即日配達を増やしているので、そうしないと勝ち残れない」。
小売業者は現在、従来からの在庫モデルを使って、店にある品物がなんであれ、それが顧客の購買意欲を掻き立てることを期待しながらAmazonと戦う代わりに、便利さを通じてもたらされる体験に焦点を絞っている。そのために小売業者は、決済時のフリクション(摩擦)を減らし、品物がない場合は店に配送してそこで受け取れるようにするオプションを顧客に与え、店舗かオンラインのどちらかで製品を見つけやすくするためのデジタルツールを追加している。
つまり、もっと簡潔にいうと、顧客をできるだけ長い時間店内に留め置くことで栄えていた大手小売業者も、顧客が店で少額しか使わなくても気にしなくなってきたのだ。彼らは、より多くのオプションを提供することでその埋め合わせをしようとしている。オンラインでしか販売していない靴をウォルマートの店舗に送り、同日中に顧客がそこに取りに来るとしたら、それは、小売業者が他の手段ではなしえないであろう販売になる。
ウォルマートのラガン・ディケンズ氏は、「顧客にオプションを提供することが重要だ。(顧客の)チョイスが個々の買い物につながる。それはオムニチャンネルであり、現在はそれがうまく機能している」と話す。1人の顧客が1日のうちに違う目的で店に足を運ぶこともありえ、ウォルマートとしてはもっとも便利な方法でそのニーズに応えたいのだと、ディケンズ氏は付け加える。
より便利な店舗が理想
ターゲットは11月1日(米国時間)、従業員を手助けするモバイル決済を導入すると明らかにした。「スキップ・ザ・ライン(skip the line)」と呼ばれる便利な新サービスは、店内でもっとも混雑しているところにモバイル機器を持った店員を配置し、顧客がレジに並ばなくても精算ができるようにするものだ。ターゲットではすでに、注文済みの品を道端や店内で受け取れるサービスも行っている。
しかし、ターゲットは、ほんの数分だけ立ち寄る必要がある人と、ゆっくりとくつろいで品物を見て回りたい人、それぞれに応えることで、店を使ってふたつの目的を達成しようとしている。将来の店舗設計のために検討しているプランには入り口がふたつある。店で時間を過ごしたい人に「インスピレーションを与える」入り口と、急いでいる顧客のために設計された便利さをさらに追求した入り口だ。これはターゲットがテキサス州ヒューストンに作った「新世代」店舗の背景にあるコンセプトであり、2019年までに改装予定の600店舗の設計に影響を及ぼすという。
ターゲットのエディー・バーブ氏はこう話す。「店で過ごす時間が減ることは問題ではない。トラフィックは一貫して増え続けている。より便利な店を作ることができれば、(顧客の)ライフスタイルにより深く関われるようになる」。
目指すはロイヤルティ
テック系企業と小売サービスで提携しているアドエージェンシー、ブリッツメディアグループ(Briz Media Group)でCEOを務めるデイビッド・ブレイ氏は、1人の顧客が店にいるあいだの購入量の増加にばかり集中するのではなく、長い目で見てロイヤルティが果たす役割を考えるのが新しい戦略だ、と述べる。テクノロジーは体験をより簡単に、より楽しいものにし、ブランドについてのより肯定的な連想を引き起こす。
「古い哲学は、客を店にとどめて、靴でも、化粧品でも、店にあるものを買わせるというものだが、いまは商品がオンラインでも提供されているので、オフラインの世界は消費者とブランドとの関係を築くことがポイントになる」と、ブレイ氏は語った。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:ガリレオ)