いま書体が注目されている。
フォントビジネスが活況な証拠に、フォントスタジオや独立系デザイナーが増加しており、ブランド企業でも一般企業でも需要が高まっているという。「アトランティック(The Atlantic)」誌のような有名刊行物のほかにも、フォード(Ford)やシティバンク(Citibank)などの優良企業が、独自のカスタムフォントを発注しているのだ。
いま書体が注目されている。
フォントビジネスが活況な証拠に、フォントスタジオや独立系デザイナーが増加しており、ブランド企業でも一般企業でも需要が高まっているという。「アトランティック(The Atlantic)」誌のような有名刊行物のほかにも、フォード(Ford)やシティバンク(Citibank)などの優良企業が、独自のカスタムフォントを発注しているのだ。
また、主流メディアもフォントに関心をもちはじめている。タイポグラフィーと視覚文化に関するドキュメンタリー作品『ヘルベチカ~世界を魅了する書』が2007年に公開(映画レビューサイト「ロッテン・トマト(Rotten Tomatoes)」では、肯定的な評価が88%だった)。その後2011年には、書籍『ジャスト・マイ・タイプ:書体の本(Just My Type: A Book About Fonts)』が出版され、「ニューヨークタイムズ(The New York Times)」で絶賛された。インスタグラムに100万人のフォロワーを擁する、アーティストでデザイナーのセブ・レスター氏は、「ザ・ニューヨーカー(The New Yorker)」誌に「インスタグラム在住のカリグラフィーの有名人」と称されている。
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書体が人々を引きつける
タイポグラフィーの国際団体「タイプ・ディレクターズ・クラブ(Type Directors Club:TDC)」の会長で、ムッカ・デザイン(Mucca Design)のプレジデントであるマテオ・ボローニャ氏は、何かが変わったとわかったのは、12歳の娘がレスター氏を追いかけるようになったときだ。「書体を語っても人々があくびをしなくなった。書体が人々を引きつけるようになったのだ」と、ボローニャ氏は語る。
デザイン業界の人々は、この流行について、いくつかの要因を考えている。近年の技術の発展によって、フォントをWebでより幅広く使うことが可能になり、Webデザイナーは創造性の幅が広がった。また、書体の専門性も深まっている。
米国の私立大学クーパー・ユニオンは、2010年に新たな書体プログラムを開講し、オランダのハーグ王立芸術アカデミーも2002年に大学院コースを開設した。一方、書体デザインプログラムの修士課程が有名な英国のレディング大学は、アラビア文字やインド語派系文字など、かつては軽視されていた非ラテン語文字に注目している。
広がるフォントビジネス
書体のレビューを掲載する「タイポグラフィカ(Typographica)」の調査によると、2004年~2013年の10年間で新しい書体のメーカーが、少なくとも203社は新設されたという。その前の10年間の新設は126社だった。
「製作される書体の数に本当に驚いている」と、ボローニャ氏。同氏がカスタムフォントの製作を請け負う場合、その料金は、規模にもよるが、1セットあたり2万ドル~50万ドルだ。「困るくらい見事な質で、新しい書体が信じられないほどたくさん――よい意味であまりにもたくさん――生まれている」。
フォントの編集ツールや販売方法が増え、書体デザインはグラフィックデザイナーのあいだで副業として人気が出た。その結果、市場にあまりにもたくさんの書体が供給されたのだ。
有名な雑誌デザイナーで、カスタムフォントを販売するフォント・ビューロー(Font Bureau)の共同創業者、ロジャー・ブラック氏は、「1960年代、有名なデザイナーは世界に20人だったのではないだろうか。それが、いまでは1000人。まさにビジネスになった」と、語った。フォント・ビューローの顧客には、フォードやシティバンクが名を連ねる。
Webでフォントを再認識
需要側では、Googleが「Google Docs」を開発した際に、大量のフォントを開放し、ユーザーは選びきれないほどたくさんある選択肢からフォントを選べるようになった。また、増加する人材に対しても新しい需要が引き受けている。ビジュアルがあちこちに氾濫し、デザイン全般の水準が高まるなかで、ブランドは人々に注目して欲しがっているのだ。デザイン業界のキャッチフレーズにあるとおり、差をつけるもっとも手っ取り早い方法は、色、そして書体だ。
「タイポグラフィカ」の編集者スティーブン・コールズ氏は、次のように述べている。「みんながコンピューターを手にしたために、誰もがフォントを意識している。また、いまは普通の人がデザインして製作するのがずっと簡単になった。カスタムフォントは、あらゆる種類の商業活動に少しずつ広がってきた。これまでカスタム書体の重要性を考えたことなどなかったであろう企業の責任者たちが、いまではブランドの重要な要素だと考えている。以前は、ブランド構築の現場や雑誌以外の場では検討されていなかった」。
ブランドはまた、古い書体の改良も実施している。リチャード・ターリー氏が、「ブルームバーグ・ビジネスウィーク(Bloomberg Businessweek)」誌のデザインを、画像と目立つ見出しと視覚効果を多用して一新した際、主要書体であるヘルベチカの改良が行われた。
GoogleとAppleが果たす役割
GoogleとAppleがフォント界で大きな役割りを果たしつつあることも重要だ。Googleはフォントの見直しを進めている。Google Designのクリエイティブ主任であるロブ・ジャンピエロト氏が最近、クーパー・ユニオンの書体プログラムで講演をした。そのプログラムの共同創設者であるアレキサンダー・トチロフスキー氏によると、Googleは「よい書体の重要性を理解し、書体の働きを向上させるために大きな投資を進めている」と語った。
また、書体デザイナーにとって、Appleの2015年の「世界開発者会議(WWDC)」は画期的な瞬間だった。デザイナーのアントニオ・カベドーニ氏が登壇し、Appleの新フォント「サンフランシスコ」について語ったのだ。「タイポグラフィカ」のコールズ氏はこれについて、書体は、製品の重要な側面だと捉えるのが賢明なことだと、Appleが気付きはじめたしるしだと考えた。「書体デザイナーにとっては間違いなく大きな瞬間だった。デザイナーたちは、外部の人の注目が高まっていることをとても誇らしいと思った」。
出版はかねてより書体に注力している業界だ。しかし、モバイル機器が普及したことで、デジタル上でさまざまな画面サイズに適応できる柔軟性を備え、メディアプラットフォームが変わっても、一貫性のあるブランド構築が可能なフォントに対する需要が高まっている。
早くも低価格競争が勃発
たとえば「アトランティック」は、有名デザインスタジオのコマーシャル・タイプ(Commercial Type)によるカスタムフォントを6月号ではじめて採用したばかりだ。同誌のクリエイティブディレクターを務めるダーヒル・クルックス氏によると、新しいフォントはサイト全体に加え、イベントなど同ブランドのほかの活動にも広げていく計画だという。
クルックス氏は、「記事はこうしたあらゆるプラットフォームに広がっていくので、どこで目にしても『アトランティック』の記事だと気がついてもらえるように、統一感のある視覚言語を採用することがこれまでより重要になっている」と語った。
書体が盛り上がる一方で、グラフィックデザイン業界には懸念が広がっている。コールズ氏によると、フォントデザイナーたちが心配しているのは、Googleやアドビ(Adobe)がフォントを無料で、あるいはとても安く提供していることだ。また、フォント大手であるモノタイプ(Monotype)が何度も値下げをしたことで、小規模なフォント業者は、書体の価格と価値が大きく低下するのを恐れ、不安を感じているという。
「より多くのオーディエンスがフォントを利用しやすくなることにはメリットがある。問題は、価格の低下と釣り合うくらい市場が拡大していくかどうかだ」とコールズ氏は語った。
Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)