コンテンツマーケティングをめぐる問題はさまざまだ。ブランドの場合、作り出すメッセージがオーディエンスを満足させることなく、単にノイズを増やすだけになってしまう危険がある。エージェンシーの場合、経営コンサルタントやパブリッシャーのほか、クリエイティブを制作する各種企業との競争に直面しまう場合があるのだ。
コンテンツマーケティングをめぐる問題はさまざまだ。ブランドの場合、作り出すメッセージがオーディエンスを満足させることなく、単にノイズを増やすだけになってしまう危険がある。エージェンシーの場合、経営コンサルタントやパブリッシャーなど、クリエイティブを制作する各種企業との競争に直面してしまう。
米DIGIDAYは11月29日、ロンドンで1日限りのイベント「WTFコンテンツマーケティング(WTF Content Marketing)」を開催。一流のブランド、パブリッシャー、コンテンツマーケティングを手がけるエージェンシーを集め、現在直面している課題やチャンスを論じた。メディアコム(MediaCom)のコンテンツマーケティング部門「ビヨンド・アドバタイジング(Beyond Advertising)」を率いるトム・カーティス氏は、「あらゆる方向から脅威が迫っている」と指摘する。
このイベントでは、日産自動車、英石油会社BP、独大手旅行代理店TUI、米コンピュータ企業HPといったブランドと、カーマラマ(Karmarama)、マッキャン(McCann)、オグルヴィ・アンド・メイザー(Ogilvy & Mather)といったエージェンシーが、配信、技術、社内組織、インフルエンサー、測定をめぐる課題を論じた。この課題のポイントを4つ紹介する。
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1. 社内の再編は難題
関連性の高いリアルタイムのコンテンツを制作するためには、ブランドとエージェンシーの緊密な連携が重要だ。だが、それは容易ではない。旅行代理店のTUIでグループソーシャル責任者を担うレイチェル・ホークス氏は、各国チーム間の業務重複を減らすため、同社が取り組んでいるコンテンツ制作プロセスの一元化についての説明をした。
TUIの英国支社では、70人のチームが紙媒体、Web、ソーシャルのコンテンツ制作にあたっている。これがドイツだと30人で、ほかの市場では社内でコンテンツマーケティングを担当する社員はさらに減る。ホークス氏によると、コンテンツの一元化はTUIにとって、業務重複の回避やコスト削減といった恩恵があるという。これによって、現地コンテンツの制作をより迅速に進めることが可能になる。
「たとえば、コンテンツを一元化したことで、もしニューヨークで3000人分の宿泊を確保した場合、我々は社内チームに指示を出しソーシャルコンテンツを制作して、これをグループ全体に拡散することができる」と、ホークス氏は説明する。2017年まで、英国でTUI傘下の「トムソン(Thomson)」というブランド名で知られているTUIは、一元化アプローチの一貫したメッセージは同社のブランド再編にとって重要だ。
2. プラットフォームへの過信に要注意
配信戦略の裏づけがないままコンテンツを制作しても意味がない。石油会社のBPは、自社コンテンツに関心を示すであろうオーディエンスとして、求職者、政府関係者、地域コミュニティー、一般顧客などの7つを挙げた。このようなオーディエンスが単一のプラットフォームですべて見つかるわけではない。最大のプラットフォーム、急成長中のプラットフォーム、競合相手が利用しているプラットフォームなど、どれかひとつを選んでも成功しないだろう。
「私はプラットフォームを切ることを恐れない」と、BPでデジタルパブリッシングのグローバル責任者を務めるベン・ジェフリーズ氏は語る。2010年、同社にとってFacebookは最大のプラットフォームだったが、フォロワー数が頭打ちになったのを見て(現在フォロワー数は約25万人)、Linkedin(リンクトイン)向けのコンテンツ制作を増やしはじめたという。2年がたち、LinkedInのBPのフォロワー数は20万人から120万人に増えた。
「オーディエンスに合わせてコンテンツを使い分けることを考え、それを中心に枠組みを組み立てる」と、ジェフリーズ氏は説明する。「コンテンツとオーディエンスが求めるものの関連性を考慮し、その中心にプラットフォームを据えるのだ」。
3. ボットは次なるブランド体験
「消費者が信頼するプラットフォームにおいて、ボットはオプトインのブランド体験だ」と語るのは、オグルヴィ・アンド・メイザーのイノベーション責任者、ジェイムズ・ワトリー氏。同氏によると、クライアントの傾向として、ブランドのアプリを作るよりも、Facebookの「Messenger(メッセンジャー)」向けボットを開発する例が増えているという。「アプリは膨大な開発費がかかるうえに、ユーザーにダウンロードしてもらい、その後もアップデートを続ける必要がある」。
オグルヴィ・アンド・メイザーは、禁煙を支援するチャリティキャンペーン「ストップトーバー(Stoptober:StopとOctoberを合わせた造語)」を成功させた。キャンペーンの結果はまだ公表されていないが、ワトリー氏によると、このボットが禁煙に役立ったと証言する人は驚異的な数に上るという。有用な情報(たとえばフライト情報など)を提供するボットは、最適な活用事例になる。
「広告に関しては、ボット次第だ」と、ワトリー氏は語る。「しかし、私なら(メッセージングプラットフォームにおけるサードパーティーの広告に)挑戦してみたい。そこは聖域だ。我々は、いま最前線にいて、ここで何が有用かを考えている」。
4. コンテンツマーケティングのROIは依然として課題
ブランドは引き続き、コンテンツマーケティングを販売に結びつけるのは難しいと感じている。TUIの場合は、個々のユーザー生成コンテンツから、自社サイト「クリスタルスキーホリデー(Crystal Ski Holidays)」のプロダクトページにリンクを張って対処した。ただし、コンテンツマーケティングの評価基準は、必ずしも販売だけではない。
「ROI(投資利益率)は、必ずしも車を売ることではない」と、日産自動車のアフリカ・中東・インド地域デジタル責任者を務めるデビッド・パーキンソン氏は語る。「投資の目的はつねに販売に繋げることというわけではない。『ユーザーの口コミ、評判、認知が目的のこともある」。
日産とエージェンシーのTBWAは、ドバイで「エージェント23(Agent 23)」を制作した。招待者たちを日産の最新SUV「Nissan Patrol」に乗せて、彼らがまるでアクション映画に出演しているかのような映像を撮影した。参加した1000人に個別のコンテンツを作る、膨大なコストがかかるマーケティングだった。パーキンソン氏によると、これはそのまま販売につなげられるものではないが、カーディーラーへの来店者の減少という背景があり、新車を体感してもらうことのほうが、単なるデジタル体験の提供よりも有益だと考えた。「新しいテクノロジーには要注意だ」と、パーキンソン氏は付け加えた。
Lucinda Southern (原文 / 訳:ガリレオ)
Image: Courtesy of Nissan.