インターネットに常時接続し、さまざまな機能を搭載する「コネクテッドカー」。その規模は自動車メーカー、ベントリー(Bentley)にとっては無視できないほど大きくなったようだ。コネクテッドカーのための複数の異なるシステム群を実験的に試している。
インターネットに常時接続し、さまざまな機能を搭載する「コネクテッドカー」。その規模は自動車メーカー、ベントレー(Bentley)にとっては無視できないほど大きくなったようだ。コネクテッドカーのための複数の異なるシステム群を実験的に試している。
コネクテッドカーから得られるデータは会社にとって金脈となる可能性がある。デジタル・IoT・スマートモビリティ部門ディレクターであるハミッド・クレーシ氏によると、得られたデータをいかに『倫理的に』マネタイズするか、が英国クルー地区の本社における継続した議論となっているという。ストリーミング・5G・ジオロケーション・車内におけるeコマースといったビジネスチャンスが、すべて検討されている。ベントレーはこの分野において、大きな役割を担いたいと考えているようだ。
「自動車をメディアプラットフォーム化する、というアイデアは社内で話されている。しかし、まだ初期段階にすぎない。特に自動運転車という文脈において、データポイントが増え、それをどう分析するか、といった点が容易になれば、コネクテッドカーはメディア的な存在となる可能性を持っている」と、クレーシ氏は言う。
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1時間で映画10本分
高級車メーカーであるベントレー車は、広告主からするとスケール目的のプラットフォームとはならないだろう。彼らが1年に製造する自動車の数は1万台だ。一方でFacebookは、昨年の四半期ひとつだけでも2200万人の新規デイリーユーザーを獲得している。それでも、ベントレーが大きな力を持つ可能性はある。マッキンジー(McKinsey)によると、コネクテッドカーは毎時間25GBのデータを生み出す。これはHD画質の映画が毎時間10本以上も生み出されるのと同じ量だ。高級志向の消費者に関するデータという点では、メディア分野のどんな競合他社が持つデータも圧倒する自社データとなる。
もちろん、それだけのデータを抱えるということは責任も生まれる。データプライバシーに関する懸念が高まっているなか、どのようなデータを収集しマネタイズするか、ベントレーは慎重になっている。クレーシ氏によると、たとえば個人情報ではなく、自動車のGPSデータ、行動データから推測される統計データをもとに広告ビジネスを行うといった具合だ。
これらのデータがマーケターにとっていかに価値があるか、ベントレーはすでに確認しているという。
自動車内における支払いに独占的な契約を持つVisa、そしてAppleといったブランドとのビジネス関係をすでにベントレーは結びつけている。燃料、情報・エンターテイメント、メンテナンス、リテールといった分野におけるビジネスモデルを開拓するデジタルカー技術を売り込んでいるのだ。パートナーシップのうちいくつかは、ベントレー・ネットワークアプリ(Network App)に組み込まれているという。これはドライバー間のコミュニティとして機能するものだ。2018年10月、ベントレーは通信会社ビアサット(Viasat)とも契約し、アプリを搭載しているドライバーは、車内で高速Wi-Fiにアクセスできるようにした。
「コンテンツが本質」
マーケターと共同し、そしてデータをマネタイズするという業務は、簡単ではない。ビジネス規模がどれほど大きなポテンシャルを抱えていようと、それをサポートするための人材や技術は安くない。ベントレーは急いで飛び込んでしまわないように気をつけていると、クレーシ氏は言う。特に多くの自動車メーカーにとって、自動運転車が現実よりは夢に近い現在では、なおさらだ。「自動車内広告にまつわるビジネスチャンスを失ってしまうことは避けないといけない。しかし現時点では、ベントレー・ネットワークといったコネクテッドサービスを通じて行っている内容を活用して、人々が車内でどのような形であれば広告提供をしても良いと考えるのか、理解したいと思っている」と、クレーシ氏は語った。
「コネクテッドカーすらも含めた、あらゆるテックの成功は、技術そのものだけで決まるわけではない。そのプラットフォームに存在するコンテンツが本質だ。自律運転の発展が続いているので、将来のドライビングエクスペリエンスが、顧客に関連性のある、そしてターゲットされた内容によって支えられるであろうと、我々は期待している。このコンテンツは運転者の安全性を改善させるものであり、知的かつ楽しい運転体験を提供し、利便性とエンターテイメントを通じて、我々の顧客のライフスタイルを高めるものとして捉えている」。
より幅広く、自動車セクター全体が経験しているシフトとも連動しているようだ。日産(Nissan)とホンダ(Honda)はともに広告とリテールを軸に新しいビジネスモデルを探るべく、似た道筋をたどっている。両社とも、将来の自動車メーカーとしても重要性をキープしようとしているようだ。
変わる自動車のあり方
現在から7年も経てば、自動車所有のあり方や車内にいることが何を意味するかは変わっているだろう。これらのコネクテッドカーは効率性という点ではバスのようになると思われる」と、VMLY&Rのイノベーション部門リーダーであるグレイシー・ペイジ氏は言う。「これらの乗り物の内面が次世代型のスクリーンを装着することになれば、広告主にとっては非常に興味深い事態だ。これらの乗り物のコストが広告によって一部、もしくは全額サポートされる可能性もある。そうなると誰が、このスクリーンに動画や画像を送るのか、そこのパイプラインは誰が所有することになるのか、というメディア関連の論点が現れてくる。また、この形に対して最適なコンテンツをどうやって作り上げるのか、というクリエイティブ面での課題も生まれるだろう」。
Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)