D2C 業界の未来を占う、「先駆者」キャスパーの行く末

キャスパー(Casper)は、設立から5年のマットレスブランドだ。キャスパーがこれからたどる運命は、同社だけにとどまらず、DNVB(Digitally Native Vertical Brand:デジタリー・ネイティブ・バーティカル・ブランド)やD2C業界全体の行く末を占う材料として、特に注目を集めている。

同社は最近、ターゲット(Target)やNEA、IVPやノースウェスト(Norwest)をはじめとするこれまでの出資企業からシリーズDの資金調達を受けてユニコーン企業となり、IPOの引受会社を探していると伝えられている。D2Cブランドであり、市場価値の高いキャスパーの上場はD2Cが長期的にどれだけのところまで到達しうるかを知るうえで大いに役立つだろう。

あるD2Cブランドの創設者は「過去半年、業界の誰もが今年は成功を左右する1年になるだろうと話している。これはキャスパーの影響力も大きいはずだ。キャスパーが成功すれば、それは明るい兆候だ」と明かす。

別の創設者も「つまりキャスパーの行く末は業界全体を占っているのだ。キャスパーがIPOをするか、そして成功するか大失敗に終わるか、エグジットはどうなるのかといった点についてだ」と指摘する。

「キャスパーは先駆者」

なぜキャスパーが特に注目を集めているのだろうか? その理由のひとつに、D2Cブランドは現在爆発的に流行しているが、その歴史は浅く、ある程度の期間成長を続けてきた企業の数が少ないことが挙げられる。つまりは時間がひとつの理由といえる。

ダラーシェーブクラブ(Dollar Shave Club)を除けば、ここ数年の業界で大きな買収はなかった。男性用衣類ブランドのミゼンプラスメイン(Mizzen + Main)の創設者兼CEOのケビン・ラベル氏は「業界に十分なデータがないため、貴重な情報となるはずだ」と語る。同じ考えのベンチャーキャピタルは多く、2019年は注目度の高いエグジットやIPOが行われる年になるだろうと予想している(メガネブランドのワービー・パーカー[Warby Parker]も候補として注目されている)。

さらに、キャスパーはDNVB業界初期のビジネスモデルを体現したような存在だ。ブランドをオンラインで立ち上げ、オンライン販売を主体とし、そして実店舗での小売へと迅速かつ急速に拡大している(あまり語られることがなく、また線引きの難しいところではあるが、DNVB2.0のビジネスモデルはソーシャルネイティブで、インスタグラム[Instagram]で大きな支持を集めることやコミュニティをより重視する。グロッシアー[Glossier]やアウェイ[Away]が代表的といえる)。

別のD2Cブランドの創設者も「キャスパーはDNVB初期モデルの先駆者であり、この初期のビジネスモデルで立ち上げる企業はいまでも多い」と指摘する。

この業界で最高の企業

ラベル氏は「私もキャスパーのマットレスを持っている。キャスパーは成功例になると思っている。なにより成功してもらったほうが、業界にとってありがたい」と語る。だがラベル氏をはじめD2Cブランドの創設者らの多くは、もしキャスパーのIPOがうまくいかなかったり、あるいはそもそもIPOを行わなかったり、イグジットできなかったりした場合は業界全体に不当な影響が波及しないかを懸念している。

ラベル氏は次のように予想している。「ほかのDNVB企業にも影響があるだろう。投資家心理が変わってしまうからだ。そこまで事情に通じていない投資家もいるだろうが、大半の投資家はそういったことにも目を光らせている。頭の片隅に、キャスパーにすらできなかったのにこの企業でできるのだろうか? という考えがよぎってしまうのではないか」。

実のところ、キャスパーを判断材料とみなすのは公平ではない。ひとつの企業が業界の行く末を決めることなどありえない。「オンラインで生まれた」消費者ブランド業界は複雑で、商品やカテゴリー、マーケティング力、戦略、持続可能性などのさまざまな要素が絡みあう。あるD2Cブランドの創設者は「それでも目の前に判断材料があれば飛びついてしまうものだ」と指摘する。

別のD2C寝具関連ブランドの創設者も「結局のところ、キャスパーはこの業界で最高の企業のひとつなのだ。当社とキャスパーはさまざまな面で異なっている。当社のほうが歴史は浅く、規模も小さい。だが、それでもキャスパーを見て『自分たちがどうなれるか』を思い描くことはできる」と、胸の内を明かした。

問題視されてしまう特徴

はじめに述べた創設者は、「キャスパーがこれまで調達した資金額を考えれば、今回の動きは戦略的に選択したというよりも、唯一の選択肢だったのではないか」と指摘する。キャスパーからすれば、企業価値が高まるにつれて、投資企業を探すのは不可能ではないにせよ、どんどん難しくなる。あまり大きくなりすぎないうちに上場したほうが良いという見解があるのもそのためだ。

キャスパーは寝ることに関するあらゆるものを取り揃えていると宣伝しているが、やはり同社の事業の大半はマットレスとなっている。同社は今後、ベッドシーツやベッドランプなどの寝室に関する製品に力を注ぐ予定だ。キャスパーの創設時から考えるとかなり大きな展開だ。だが、このプロジェクトはまだ開始しておらず、ブルックリネン(Brooklinen)やパラシュート(Parachute)のようなほかの「ホームグッズ」企業は、キャスパーに先んじてこうした分野に進出している。消費財分野でIPOに成功した企業の大半は、リスクを最小限に抑えるために幅広い商品を展開している。少なくとも現時点ではキャスパーにない特徴だ。

ヒュージ(Huge)小売部門のグローバル責任者を務めるロビン・コプランド氏は、キャスパーの今後はD2Cブランドが実店舗展開への考え方に影響を及ぼすだろうと指摘している。ほかのオンライン限定で販売を行っていたブランドにも見られるように、キャスパーはコストコ(Costco)やターゲットと協力して実店舗へ積極的に展開している。関係者によると、いまでも同社の収益の大半はオンライン販売によるものだが、それでも戦略的に重視している取り組みとなっている。コプランド氏は、もしキャスパーのIPOがうまくいかないかイグジットが成功しなければ、やはりそこが問題視されるだろうと指摘し、次のように述べた。「実店舗での小売は、設備投資としてもっとも大きい部類に入る。業界全体の発展のためには良いことだが、どこで展開するかが問題だ」。

「いまや非常に難しい立場」

マットレス分野の有力なライバル企業の大半がすでになんらかの形で居場所を見出している。タフト&ニードル(Tuft & Needle)は最近Amazonと提携してAmazon専用のマットレスを販売している。パープル(Purple)はシェルカンパニーに買収されて2017年に上場している。(ある意味キャスパーの逆ともいえる)オールズウェル(Allswell)はウォルマート(Walmart)の子会社だ。

「ベンチャーキャピタルの見方に影響をおよぼす非常にシンプルな基準がふたつ存在する。まずはスタートアップの側が破壊的な顧客価値を提案できているかどうかだ。他社と異なるものを提供しているかが問われる。そしてふたつ目は、他社が参加できない状況でソリューションやプロジェクトを提供できるような、不公平とも呼べる優位性を確保しているかどうかだ」と、ベイン・キャピタル・ベンチャーズ(Bain Capital Ventures)のプリンシパル、スコット・フレンド氏は、昨年12月に米DIGIDAYに対して語っている。「反例となるのがキャスパーだ。マットレスブランドとして非常に優れているが、いまやライバル企業は多く、非常に難しい立場にある」。

Shareen Pathak(原文 / 訳:SI Japan)