2021年はビューティ業界の買収の多い1年だった。年の瀬も押し迫った12月21日、そのリストにドイツのコングロマリット、バイヤスドルフAGが加わった。同社は、社歴25年の家族経営のビューティブランド、シャンテカイユを買収したと発表(金額は非公開)。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
2021年は、ビューティ業界の買収の多い1年だった。2月にはエスティ ローダー カンパニーズ(The Estée Lauder Companies)がデシエム(Deciem)を、6月にはユニリーバ(Unilever)がポーラチョイス(Paula’s Choice)を、12月初旬にはロレアルグループ(L’Oreal Group)がユース トゥ ザ ピープル(Youth to the People)を買収している。
プレステージの穴を埋めるバイヤスドルフの買収
年の瀬も押し迫った12月21日、そのリストに ドイツのコングロマリット、バイヤスドルフ(Beiersdorf)AGが加わった。同社は、社歴25年の家族経営のビューティブランド、シャンテカイユ(Chantecaille)を買収したと発表(金額は非公開)。バイヤスドルフはシャンテカイユを約5億9000万ドル(約675億円)と評価し、シャンテカイユの今年の売上高は1億ドル(約114億円)になると見込んでいる。
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バイヤスドルフはこの買収によりポートフォリオにある大きな穴を埋めることになる。同社は、ニベア(Nivea)やユーセリン(Eucerin)などミッドレンジのビューティ・スキンケアブランドを多く所有しているが、ラグジュアリーブランドは少なく、そのカテゴリーのスキンケアブランドはラ・プレリー(La Prairie)だけである。シャンテカイユは、リフティングマスクは165ドル(約1.9万円)と比較的高い価格帯のプレステージブランドで、バイヤスドルフのハイエンドのスキンケア部門を拡大することになる。プレステージカテゴリーの強化を目指しているのはバイヤスドルフだけではない。P&Gは11月にファーマシー(Farmacy)スキンケアを、12月にウェイ(Ouai)ヘアケアを買収している。
バイヤスドルフのCEO、ビンセント・ワーネリー氏はEメールによるプレス発表で、「シャンテカイユの買収を通じて、当社はプレステージビューティのポートフォリオを強化し、とくに米国、中国、韓国での地位を高める。これは、当社のC.A.R.E.+ 戦略の優先事項である」と述べている。C.A.R.E.+ とは、勇気、願望、責任、共感を(各単語のイニシャルで)表したもので、新規カテゴリーや分野に投資し同社のポートフォリオのギャップを埋めるために、2019年に導入された全社的な戦略である。
アジア地域に注力する2社の共通点
バイヤスドルフもシャンテカイユもアジアでのプレゼンスがあり、同地域での成長を目指す意欲も共通している。シャンテカイユは、2020年に中国、韓国、シンガポールに4店舗をオープンし、同社のオンラインビジネスの10%が天猫(Tmall)を通じたものである。一方、バイヤスドルフは、アリババ、JD.com、中国の越境コマースプラットフォームのネットイースコアラ(NetEase Kaola)と提携している。
バイヤスドルフの対アジア目標が新規のプレステージブランドによって促進されることは理解できる。NPDグループによると、プレステージビューティは、2020年には17%減少したが、2021年上半期には11%増加しており、2021年にはほかのカテゴリーよりも早く回復したということである。バイヤスドルフは11月の第3四半期決算報告で、当時のポートフォリオにおいて唯一のプレステージブランドだったラ・プレリーを中心に、アジアでの売上高が11%増加したと報告している。
シャンテカイユを通じて持続可能性の取り組みも強化
また、ワーナリー氏はシャンテカイユが持続可能性と社会貢献に重点を置いていることを強調し、同ブランドを「地球環境問題に対する高らかに響き渡る声」と称した。(ドイツのデータベース会社の)スタティスタ(Statista)によると、持続可能なスキンケアへの需要は高く、市場は2024年までに220億ドル(約2.5兆円)以上の価値があると予想されている。バイヤスドルフのほかのブランドでとくに持続可能性にフォーカスしているものはないが、バイヤスドルフには2025年までに100%再生可能エネルギーに到達することなどの包括的な持続可能性目標がある。シャンテカイユは、製品に市場回収再生紙を使い、印刷物全体を減らし、使い捨てのギフトバッグを廃止しており、製品はヴィーガンで虐待フリーである。
買収した大企業のリスクとは
バイヤスドルフによるシャンテカイユの買収はプレステージ市場に参入するための一歩であるが、リスクがないわけではない。
「これは、持続可能性に関する一手だ。持続可能性に関与するためには、社内でその能力を有機的に構築するよりも他社を買収するほうが簡単だから」と述べているのは、ジョナサン・トライバー氏だ。同氏は、(マーケティング企業の)レブトラックス(RevTrax)のCEOである。「買収は、はるかに大規模な企業の一部になった会社にとっては大きなカルチャーショックにつながる。通常、私は小さいほうの会社の人材が(買収後から)1年半で姿を消すと考えているので、シャンテカイユの人材や社風、イノベーションを維持することがバイヤスドルフにとっては最優先事項であるべきだと思っている」。
[原文:Beiersdorf’s Chantecaille acquisition fills a prestige-shaped hole in its portfolio]
DANNY PARISI(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)