この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。 M&Aで戦略的プレイヤーがインディーズブランドを狙うのを反映 […]
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
M&Aで戦略的プレイヤーがインディーズブランドを狙うのを反映するかのごとく、プロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble)はプレステージビューティブランドを探し求めている。
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2021年11月、P&Gはスキンケアブランドのファーマシー(Farmacy)を買収したと発表した。そして2021年12月にはヘアケアのウェイ(Ouai)、1月初旬にスキンケアのトゥーラ(Tula)の買収が続いた。3ブランドとも、価格帯は20ドル(約2280円)から60ドル(約6380円)で、プレミアムやプレステージといえるだろう。現在、P&Gのプレステージ専業のポートフォリオは最小限で、おそらくこの条件に当てはまるのはファーストエイドビューティ(First Aid Beauty)とSK-IIだけだが、SK-IIの価格帯は70ドル(約7970円)から400ドル(約4万5500円)と、さらに高い範囲である。WWDによると、トゥーラは2021年に約1億5000万ドル(約170億7260万円)の純売上高を得ており、これはファーマシービューティの2倍近く、ウェイの3倍の収益である。
長年の失敗から学んできたP&G
P&Gがプレステージブランドを急速に吸収するようになった要因は、何年も前からじわじわと浸透していた。アメリカの南北戦争の24年前に創業した企業として、P&Gは時の試練に耐えてきたが、ときには低迷もしている。2005年、P&Gは570億ドル(約6兆4900億円)の株式取引でジレット(Gillette)を買収したが、2010年のレポートでは、この買収はまだ利益を生んでいないとされている。そして2019年、ジレットはハリーズ(Harry’s)やダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club)といったD2Cブランドとうまく競合できず、それまでの14年間で80億ドル(約9144億円)の価値を失ったと報じられた。
「自分のビジネスを把握するまでは資産を買うことはできない。というのも、資産を買うと、その組織の悪い特徴を引き継いでしまうからだ」と指摘するのは、RBCキャピタルマーケッツ(RBC Capital Markets)のアナリストであるニック・モディ氏だ。「(P&Gは)長年の失敗から学んできた。ブランドを放置して成長させるという考え方は正しい。『決まった理由があってこの会社を買うのだから、プロクター化するのはやめよう』ということだ」。
P&Gからは買収に関するコメントはもらえなかった。ファーマシー、ウェイ、トゥーラも我々の取材に応じなかった。
自由放任主義的な買収アプローチ
2016年、P&Gは専門の美容部門を125億ドル(約1兆4230億円)でコティ(Coty Inc.)に売却し、カバーガール(Covergirl)を含むブランドや複数のデザイナー・フレグランス・ライセンスから撤退した。当時この買収は、コティにとってフレグランスで1位、サロンヘアケアとカラーコスメティクスでそれぞれ2位と3位の地位をキープする決定的要因とみられていた。しかし、ブランドの放置と売上減少の規模を吟味した結果、すぐにこの買収はコティにとって頭痛の種となる。それ以降にP&Gのポートフォリオに加わったブランドはほとんどないが、2018年にウォーカー・アンド・カンパニー(Walker & Co.)、ファーストエイドビューティ、スノーベリー(Snowberry)が買収されている。だが新たに買収したブランドについては、過去のジレットの時のように嬉々として参入するのではなく、より自由放任主義的なアプローチで所有権を獲得している。
「P&Gをよく知る前は、同社に対してあまりよいイメージを持っていなかった。歴史的にみても、大きな戦略的バイヤーが小さなブランドを買収すると、ときにはそのブランドをダメにしてしまうことがある。そのブランドの核となるDNAが失われ、大企業の一部となってしまう。それが私の最大の懸念だった」と、ファーマシーの創業者で前CEOのデヴィッド・チャン氏は語っている。「P&Gのことを知るにつれて、またファーマシーを運営することになるチームがどのように働いているのかを知るにつれて、(P&Gは)そういったことはしないだろうと思った。かなり昔はそうしていたようだが、今のP&Gはブランドを買うときに同様にチームも買って、背後から支えつつもチームに運営を任せている」。
P&Gの持続可能性に関する企業方針
2020年6月、P&Gは「来たる世代へ向けての青写真」という定義で、「レスポンシブル・ビューティ(Responsible Beauty)」という企業方針を発表した。その目標のほとんどは、サステナビリティに関するもので、2025年までにビューティポートフォリオにおける化石由来のバージンプラスチックの使用を50%削減することや、2030年までに100%の再生可能エネルギーの達成と温室効果ガスの50%削減が含まれている。
公に行われている買収は、P&Gの近代化戦略のほんの一部に過ぎない。2021年、このコングロマリットはメディアプランニング業務を含む北米のメディア事業の多くを社内に移行している。
さらに1月には、ハーバルエッセンス(Herbal Essences)とキュー王立植物園キューとのパートナーシップを活用し、メタバース空間への最初の事業としてBeautySPHERE(ビューティスフィア)というプラットフォームを発表した。このパートナーシップでは、レスポンシブル・ビューティの指針に基づき、安全で効果的かつ持続可能な方法で調達された、次世代の天然成分を特定する。BeautySphereは、独自のウェブサイト上にホストされている。P&Gビューティのデザイン・グローバルスキン・アンド・パーソナルケア・バイスプレジデントのアレクシス・シュリンプ氏は、人を夢中にさせるようなブランドストーリーを通じて消費者を引き込むために、その最初のコンセプトを開発した。このプラットフォームはそれぞれのブランドごとに拡大していくというアイデアだが、次にどのブランドがいつ頃登場するかについては、シュリンプ氏は語らなかった。
「BeautySphere(がスポットライトを当てているの)は、当社のレスポンシブル・ビューティのプラットフォームだ。私たちがあえてそこからスタートしているのは、それが世界の美のための前向きな力だと私たちは考えているからだ。(そのメッセージを)私たちが打ち出すことはきわめて重要だ」と彼女は説明している。「私たちは、BeautySphereが体験的で実験的であるということを意図的に伝えている。そして、私たちはここから学びたいと思っている。消費者がどのように関わり、私たちがどのように学び続けることができるのかを学ぶつもりだ」。
今後の予想では美容とセルフケア分野の買収が活発に
ブランド買収に関してP&Gを近代化させているのは、同社のプレミアムブランディングとポジショニングだけでなく、ビジネスの進め方にもある。たとえばGlossyの過去のレポートによれば、トゥーラのD2Cの収益の約3分の1はインフルエンサーのアフィリエイトマーケティングによるもので、D2Cの売上は全体の50%足らずである。ファーマシーは、D2Cサイト上にデジタル体験を作っており、アップサイクルされた成分を含むクリエイティブな処方の製品と共存している。ウェイはセレブリティのヘアスタイリストであるジェン・アトキンス氏が設立したブランドで、最近では動画コンテンツに力を入れるだけでなく、ボディケア、キャンドル、犬のグルーミングの事業にも進出するなど、ライフスタイルブランドとしての地位を確立している。
2020年12月、P&Gは女性用のD2Cカミソリブランドのビリー(Billie)の買収を試みたが、これもまた、シェービング分野に異なるアプローチをしているデジタルネイティブなブランドだった。連邦取引委員会は独占販売の懸念からこの買収を阻止し、P&Gは2021年1月に連邦取引委員会に対する訴訟を取り下げている。ビリーはその後、2021年11月にエッジウェル(Edgewell)に売却している。
「P&Gは2022年だけでなく今後数年間にわたって(買収を)もっと積極的に行うだろうと予想している」とモディ氏は述べた。「P&Gがさらに活発になるだろうと思われるふたつの分野はまず美容と、それからビタミンなどのセルフケアだろう」。
アート・オブ・スポーツはアスリートとフレグランスのフランチャイズ創設を目指す
アスリートのためのボディケアブランド、アート・オブ・スポーツ(Art of Sport)は、1月18日に新しいフレグランスのラインを立ち上げた。アート・オブ・スポーツはコービー・ブライアント氏が共同設立したブランドで、ブライアント氏は2018年にブランド初のシグネチャーフレグランス「ヴィクトリー(Victory)」の製作に携わっている。同ブランドではまだふたつめとなる最新のフレグランスは、同じくバスケットボール選手でアート・オブ・スポーツの投資家でもあるジェームズ・ハーデン氏がデザインしたもので、「デファイ(Defy、逆らうという意味)」という。
「夢を追いかけるすべての人のために、自分のシグネチャーフレグランスをデファイと名づけた」とハーデン氏は言う。「大胆でラグジュアリーで気分を高揚させる香りを作るために、サンダルウッド、フレッシュグリーン、ムスクなどの香料を選んだ。パッケージの色は、コービーとLAを表すような大胆なものにしたかった」。
アスリートを製品づくりに深く関与させる
ハーデン氏がフレグランスの制作に直接関わったことについて、アート・オブ・スポーツの共同設立者でCEOのマティアス・メッテルニヒ氏は次のように語る。「ナイキ(Nike)やゲータレード(Gatorade)が世界の偉大なアスリートたちと製品を作り出しているのと同じように、なぜそれが存在するのかという理由もなしにフレグランスをローンチするのは考えが足りないと気づいた。我々のビジネスではアスリートたちが役員室にいるだけでなく、製品づくりにも深く関わってもらうようにしている」。NFL選手のジュジュ・スミス=シュスター氏をはじめ、ほかに4人のアスリートが以前同ブランドのプロモーションを助けるためにコービー・ブライアント氏に起用されている。
ハーデン氏は、ブライアント氏とともにスポーツドリンクのブランドであるボディアーマー(Bodyarmor)にも投資している。ボディアーマーは、2021年11月にコカ・コーラ(Coca-Cola)に56億ドル(約6368億円)で売却され、ブライアント氏の遺産には、2016年に引退した彼の全バスケットボールキャリアを上回る推定4億ドル(約455億円)がもたらされた。ブライアント氏は2020年1月に亡くなっている。
アート・オブ・スポーツは2020年9月に600万ドル(約6億8200万円)の外部資金を調達し、それ以降、ターゲット(Target)では1600店舗以上、CVSとウォルグリーン(Walgreens)の間で1万2000戸に流通を拡大している。卸売りは同ブランドの売上の約60%を占めるとメッテルニヒ氏は述べた。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: Uncovering P&G’s acquisition strategy]
EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)